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短編小説「名前はまだない、しかも終わっていない、試しに書いてみただけだ」

「お目覚めになられましたか?」
 おかっぱ頭の和服を着た女性が僕の顔を覗き込みながら尋ねる。
 真っ白な天井、真っ白な壁ー。
 僕が着ている服も真っ白で、真っ白なシーツが胸までかけられている。
 女性の髪と着物は黒い。
 女性の肌の色も白く、白と黒以外に目に入ってくる色は女性の口元と着物に散りばめられた花の模様のほのかな紅色だけー。
「・・・ここは?」
 僕は無意識のうちにおざなりな質問を口にしていた。
 長らく言葉を発していなかったように声が掠れている。
「ご無理をなさらないでください、先生」
 他に誰かいるのかと思って、僕は部屋の中を見まわした。
 目の前の女性と僕以外に誰もいないことと、からだが思うように動かないことがすぐにわかった。
 部屋は狭く真っ白で、脳がからだをうまくコントロールできていないような感覚だ。
「先生は長い間眠っていたんです。もうしばらく安静になさったほうがよろしいかと」
 やはり僕が先生と呼ばれているらしい。しかし、一体何の先生なんだろう。とんと思いつかない。
 頭の中に次々と疑問が思い浮かぶ。ここはどこで、私は何者で、あなたは誰なのか。
 そんなことを考えているうちに意識が朦朧と・・・

 再び目覚めたのはそれからどれくらい時間が経っていたのかわからない。
 部屋はかわらず真っ白で時計らしきものはなかった。
 すぐそばに丸いメガネをかけた丸い顔の男がベージュのスーツを着て椅子に座っていて、すぐ後ろに先ほどの女性が立っていた。
「ああ、先生、本当にお目覚めになったんですね、おっと、そのままそのまま」
 丸メガネの男が中腰になって両手の掌をこちらに向けた。
 しかし、手相を見てほしいというわけではなさそうだ。すぐに手を引っ込めてまた椅子に座ったからだ。
「先ほどもこちらのシナからお聞きになられたと思いますが、先生は長いこと眠っていたんです。しばらくはあまり動いたり話したりしないほうがよろしいかと」
 後ろにいる女性はどうやらシナという名前らしい。
 僕は顔を小さく前に傾けた。承知したという合図のつもりだったがどうやら伝わったようだ。男が再び口を開く。
「申し遅れました。わたくしはM社のTDNのコバと申します」
 男はそう自己紹介すると座ったまま両手を太ももに置いて頭を下げた。
 M社は聞いたことがある会社の名前だ。あまり関わった記憶はないがそこそこ知名度のある会社であるという認識である。
 コバというのは、この男の姓だか名だかわからないが固有名詞であろう。
 ただTDNというのは何のことだかちょっとわからない。言葉の配置された順番から役職といったポジション的なものであろうと推察される。いや、もしかしたらグループ名かもしれない。ただ、グループ名だとするとおぼろげながらその後数字が続くような気がしたので違うだろうと頭の中で否定した。


#想像していなかった未来

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