『マーケティングは消費者に勝てるか?』

【マーケティング定番書籍】その3

『マーケティングは消費者に勝てるか?』

 著著:ルディー和子
 出版社:ダイヤモンド社
 第1刷:2005年9月1日

*シリーズ第3回目にして<特別編>です。
   重要な書籍なので、今回はとて~も長いです。

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1. 本書を読んだ背景

憶えておりません(笑
本書が刊行された2005年当時は、大型書店のマーケティング棚で片っ端から興味のある書籍を買っておりました。

2. どんな人に向いているのか?

本書を含め、ルディー和子氏の著書を読んだことのない、全ての(!)マーケター、リサーチャーの皆さん。
事業会社、コンサル、代理店、調査会社など業種は問いません。
学生時代、社会人になってからを問わず、マーケティングのイロハを"当たり前"に習得されてこられたと思いますが、その"地盤"を掘り起こして”みることは、無駄ではないとか思います。
喩えて言うと、「陰陽合一」でしょうか。
光があるから闇があり、闇があるから光がある。
私を含めほぼ全てのマーケター、リサーチャーの皆さんは、「陽=光の世界」しか知らずマーケティングの世界に足を踏み入れ、実務の場面で「陰=闇の世界」に足を取られる。。
ですから、「陰=闇の世界」の正体もはっきりと見ておいたほうがいいのでは? という意味で本書はお薦めです。
私が思うに、「正しいのか? 違うのか?」という理性的判断より、「気に入るか? 気に入らないか?」という大脳皮質よりも古い動物的な脳(扁桃核など)でどう“感じる”か? ということがポイントです(笑

3. 本書のポイント

3-1. マーケティングにも「流行・廃り」、つまりブームがあります。
データの集め方(定量・定性)は常に進化(2020年現在ではAIまで)しているものの、データの内容は100年、いや1,000年でも変わっていません。
本質的には「人間心理の根幹は人類が生まれてこの方変わっていない」(249ページより)のですから。
つまり、マーケティング手法の“進化”に振り回されている場合ではありません、ということが本書を読むことにより改めて気づかされます。

3-2. 「本質は何か?」。ルディー和子さんは常にこの問いに忠実な方なのだなと思います。
最もわかりやすい例としては、“マーケティング史上最大の失敗”の一つとされる1985年の米国コカ・コーラ社の「ニューコーク」の失敗です(マーケティング調査には合計400万ドルを費やしました)。
結論として、定量調査、定性調査の結果に“誤り”はなかった。
特にフォーカスグループ調査の結果は発売後の現象をかなり正確に予測していた。
失敗の本質は、経済学でいうところの「情報カスケード(情報の雪崩現象)。
つまり“定説”となっているマーケティング調査の失敗などではなかったということになります。

さらに、2000年代のマクドナルド失敗の本質は、デフレの収束時期の見誤りや、消費者の低価格指向が強かったというこではなかった。
参照価格の変え過ぎで消費者にとってハンバーガーの適正価格がわからずにグチャグチャになってしまって、胡散臭い企業とみられてしまったこと。

CRMでも注意しなければならない罠があります。
航空会社やホテルのポイントサービス(フリークエンシープログラム)。
航空会社やホテルとは産業のコスト構造が異なり、金券・食事券でしか還元できない小売業や外食産業が利用すれば、利益が圧迫されるだけ。。
「データベースマーケティング」というのは、顧客のロイヤリティ向上を図るとかいう抽象的なことが目的ではなく、ROIを重視してマーケティング投資の選択と集中を実行するという方法においてこそ本当の力を発揮する。
それも本質でしょうか。
 
成功例としては「アサヒスーパードライ」の例です。
調査における2つの仮説「消費者はビールの味がわかる」(80年代には「わからない」が業界での定説)、「その中味の判断基準は時代・世代とともに変わる」というとてもシンプルな仮説でした。

また、ブームの本質も、モノ・コトの内容より、ネットワーク理論によるメカニズムにあることも看破されています。
2020年現在、SNS隆盛の中、「口コミマーケティング」が一般化していますが、ネットワーク理論によると、オピニオンリーダーやトレンドセッターに働きかけても、ある程度の流行の発生に成功するかもしれないものの、大規模な流行には結びつかないとのことです。
大流行になるか否かは、そのオピニオンリーダーが構成員になっているネットワーク構造にかかっている。
こんなことは『MarkeZine』には書かれていませんよね(翔泳社さん、ゴメンなさい・・笑)。
  
3-3. 本書ではマーケティング(とリサーチ)の成功例、失敗例が、日本では関ケ原後の江戸時代から紹介されており、(少なくとも2005年時点での)マーケティング調査のジレンマが事例として取り上げられています。
では、どうすればいいのでしょうか? それは割とアナログでシンプルなことです。
それは、主観的・直観的判断を科学的・客観的調査結果とブレンドすること。
これは、メーカーシェア算出作業で、POSデータの結果と、小売店パネルの社長・店長・バイヤーさんとのリアルな面談により、定性情報をブレンドしていた、私の産業調査時代の経験とピッタリです(当時の私は末端の仕事でしたけど・・笑)。
(「直観的判断」の部分で、私のデスクリサーチ・トレンド分析もお役立て頂けると、ここでも宣伝が入ります・・笑)
また、1996年、「たまごっち」の需要予測で痛みを蒙ったバンダイさんは、ブームの終焉の兆候に目を光らせ耳をすませる部隊を店頭に巡回させてたことがあったそうですが、それ以外の方法はなかったことは示唆に富んでいます。

4.  感想

このビジュアル(↓)は本書のブックカバーの裏側です。

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向かって右側の[売り手]の「無意識」がありますよね。
本書では、経営者の「無意識」を知ることが大切とされていますが、「リサーチング・マーケター研究会」と私は、企業側の「無意識」を重視しています。
定性調査では、調査する側の「意識」と対象者(消費者)の「無意識」がフォーカスされますが、定性調査によって、調査する側の「無意識」が重要ということです。

ここからは昔話になります。
本書の最終、第七章には企業ブランドは対取引先、対株主では重要ながら、売上への効果は必ずしも貢献はしないと書かれています。
そして、エレクトロニクス事業の不振にもかかわらず、2005年の日経BPコンサルティングさんの企業ブランド調査結果では1位であったと。
当時、私は音楽シンクタンクで働いておりましたが、このことはよくわかりました。
2004年夏、アップルの「iPod mini」の日本発売前、携帯型音楽プレーヤー(懐かしい・・)の自社企画調査を実施しました。
調査企画の段階で、私はデスクリサーチ(まさか、今、この仕事の専門家になっているとは夢にも・・)で、ソニーさんの携帯型音楽プレーヤーのポートフォリオを作ってみました。

「これは、事業部門間の連携がないな・・・・・・」

自社の商品間でカニバリ(共食い)しまくっていることに唖然としました。
商品レベルではそのような状態でも、ソニーの企業ブランドイメージは相変わらず、先進的なイノベーティブという結果は、本書の内容と一緒でした。
一方、アップルの「iPod mini」の本質を、私は「ライフスタイル提案型のファッションアイテム」と考えていました。
「iPod mini」が、それまでのコアな音楽ファンではなく、ライトな女性ユーザーによく売れたのも、予想通りでした。

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(画像は、Wikipediaより)

*私の現在の仕事につきましては、機密保持契約があり、一切、このnoteで書きませんが、過去、会社員時代の経験は成功・失敗問わず書かせていただいております・・。

最後に、ルディー和子さんは「モチベーションリサーチ」を高く評価されているんだなと、つくづく実感しました。
マーケティング(リサーチ)にも流行・廃りがありまして、「モチベーションリサーチ」は1950年代、米国で注目されたものの、フロイドの精神分析をベースにしていることによる性的なメタファが嫌われたり、広告による“洗脳”のようなネガティブイメージもあり、現在ではほぼ忘れ去られてしまった手法です(昔、日本消費者行動研究学会のカンファレンスで、当時、中京大学の先生から詳細なレポートを頂いたのを思い出しました。ボチボチ読み返してみます)。
本書で取り上げられている例としては、エルンスト・ディヒターのクライスラー社に提出した調査報告書「正妻と愛人」。

「男にとってセダンは妻のようなっもので『安全』で『心地よい』。だが、コンバーチブルは愛人のようなもので『若さ』を思い出させ『夢』を想起させてくれる。だから、ショールームには男性を誘うためにコンバーチブルを置き、でも、実際にはセダンを売ることに集中すべきだ。」

さらに、女性向け煙草だった「マルボロ」がで男性向けにカウボーイのパッケージで“性転換”して成功した話は有名ですが、これもモチベーションリサーチの専門家、色彩調査研究所所長のルイス・チェスキンによる成果とのことです。

これはモチベーションリサーチの例ではありませんが、モダンマーケティングの理論家、セオドア・レビットが1983年に発表した論文が、本書の最終章で紹介されています。
結婚した後の夫は「目的を達成した」と思い、妻は「自分が良い買い物をしたかどうかを判断するのはこれから」と考える。
取引を終了したあとの企業と顧客の心理の違いを、夫婦の心理的隔たりの比喩で表現しています。
これもマーケティング、いや人間の“本質”じゃないかと私は考えます。

長文、お読みいただき感謝いたします。
以上です。

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水琴窟


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