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財務諸表から読み解く企業分析 日本郵船

日本郵船は海運業で国内シェアナンバー1の企業です。

創立が1885年と約140年の歴史のある大企業でもあります。

主な事業内容は
●ライナー&ロジスティクス事業
●不定期専用船事業

「ライナー&ロジスティクス事業」は3つの部門で構成されています。
①定期船事業
・コンテナ船部門
世界最大級の航路ネットワークにより、生活に欠かせない食料品、日用品、電化製品などさまざまなものをコンテナ船で輸送

・ターミナル関連部門
港湾は海陸一貫輸送の中継点となり円滑な国際物流を支えるインフラとして重要な役割を果たしており、その国際物流の中継基地となるターミナル・港湾関連サービスを提供

②航空運送事業
北米、ヨーロッパ、アジアで展開

③物流事業
北米、ヨーロッパ、アジア各地で運営する物流センターを持ち、海・陸・空にまたがる多様な輸送・物流サービス網を構築

もう一つの事業の「不定期専用船事業」も3つの部門から構成されています。
①ドライバルク事業部門(※ドライバルク=個体のばら積み乾貨物)
鉄鉱石、石炭、木材チップなどのバルク貨物(梱包されずに輸送される貨物)の輸送

②エネルギー事業部門
原油、石油製品などのエネルギーを輸送し、世界のエネルギー安定供給に貢献

③自動車事業部門
日本から海外への完成車の輸出が主な事業

それでは財務諸表を見ていきます。
まず貸借対照表を確認してみます。
イメージ図は以下の通りです。

日本郵船:有価証券報告書より作成
https://www.nyk.com/ir/library/yuho/2023/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/20240619_yuhou.pdf

流動資産と流動負債がほぼ同金額で、海運業ということもあり船舶や港湾といった固定資産が流動資産より大きくなっているのが特徴です。

あとは負債 < 純資産と負債はそれほど大きくないので、財務状況としては問題ないと思います。

続いて損益計算書を見ていきます。
売上高→経常利益→純利益の順に確認してみます。

日本郵船:有価証券報告書より作成https://www.nyk.com/ir/library/yuho/2023/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/20240619_yuhou.pdf

2024年3月期は昨期に比べ、やや減収となっています。

日本郵船:有価証券報告書より作成https://www.nyk.com/ir/library/yuho/2023/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/20240619_yuhou.pdf

経常利益は本業以外の損益も含むものですが、昨期に比べ大幅にダウンし、2021年3月期と同レベルになっています。

日本郵船:有価証券報告書より作成https://www.nyk.com/ir/library/yuho/2023/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/20240619_yuhou.pdf

営業利益がかなりダウンしましたが、よく純利益をプラスで確保した感があります。

この原因として金利上昇、インフレなどにより貨物需要が低迷したと日本郵船は自己分析しています。

あとはコロナ明けの特需があまりにも大きい数字をもたらした反動もあると個人的には考えています。

参考までに「バルチック海運指数」も参考までに確認してみます。
「バルチック海運指数」は、ロンドンにある「バルチック海運取引所(Baltic Exchange)」が算出・公表している外航不定期船(外航ばら積み船)の運賃の総合指数のことを表します。

ブルームバーグのバルチック海運指数より引用
https://www.bloomberg.co.jp/quote/BDIY:IND

「バルチック海運指数」を見ると2023年初期に底を打ち、年末にかけ徐々に上昇しています。
このことからも2023年前後は貨物需要が低迷していたことがわかります。

最後にキャッシュフローを確認してみます。

日本郵船:有価証券報告書より作成https://www.nyk.com/ir/library/yuho/2023/__icsFiles/afieldfile/2024/06/21/20240619_yuhou.pdf

キャッシュフローの特徴として
・営業キャッシュフロー:プラス
・投資キャッシュフロー:マイナス
・財務キャッシュフロー:マイナス
以上の場合、優良企業によくみられる状態です。

このことからも日本郵船はさすが日本海運業シェアナンバー1だけあって、本業でしっかりと稼ぎ、成長のために投資をし、借入もしっかりと返済している理想の状態です。

投資キャッシュフローに関して、船舶を中心とする固定資産を売買しており、さらに脱炭素化に向けた新技術や環境規制対応、自立運航船、船舶電化、サイバーセキュリティ強化にも取り組んでいるようです。

以上財務諸表を見てきましたが、日本郵船の経営は外部環境にも大きく影響を受ける事業だとやはり感じました。

例えば原油価格です。2024年9月時点で1バレル(バレル=液体の量、体積を表す単位)80ドル前後で、原油価格が上昇すると連動して輸入する商品・材料などの価格も上昇しますので、原油価格はできるだけ安定してほしいところです。
いまだにロシアによるウクライナ侵攻が続いているので、原油価格の動向は気になるところです。

また起きてほしくないことですが、中国による台湾への武力侵攻によってシーレーンが脅かされることです。
シーレーンとは海上交通路のことです。
ちなみに日本の原油の大半を中東に依存しています。そのシーレーンは以下の通りです。

防衛省・自衛隊:中東地域における⽇本関係船舶の安全確保に関する政府の取組より引用
https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/m_east/index.html

図を見ていただくとわかる通り、シーレーンは台湾の側を通ります。
ここで有事が起きたら遠回りすればいいのでは?と思うかもしれませんが、そうするとエネルギーである原油を大きく消費するためにそれが様々なものに価格転嫁されてしまい、日本経済に大打撃を与えてしまいます。

消費者物価指数を見ると、いまだにエネルギー価格(電気、ガス)が高騰していて家計を圧迫していますので、有事になるとさらにエネルギー価格が高騰してしまいます。

ですから政治の話になってしまいますが、台湾有事は日本にとって絶対に避けたい事態といえます。

このことから政治もしっかりと有事に発展しないように緊張感を持ちながら台湾と友好関係を保ちつつ有事に備え、日本郵船もコスト削減をできるだけ行い、日本の輸出入を支えて日本経済発展に貢献してもらいたいと思います。



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