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小説指南書の研究(7.最終回~小説指南書一覧・あとがき)

7.最終回~小説指南書一覧・あとがき


小説指南書一覧

本文中で引用させていただいた小説指南書をまとめてご紹介します。(1)文芸系指南書、(2)エンタテイメント系指南書、(3)エンタテイメント(ミステリ・サスペンス)系指南書、(4)参考書籍、の4つに分類しています。(4)には、哲学関連書籍も含めました。

(1)文芸系指南書

◎🔰一億三千万人のための小説教室(岩波新書)高橋源一郎著:【小説家・選択講義型】タイトルに「小説教室」とあり、「レッスン」の形をとっていますが、具体的な構成や技巧を学ぶための「小説教室」ではなく、文芸系の小説を産み出すための抽象的な「何か」を学ぶための「指南書」です。(2002年刊)

【目次】まえがき(一億三千万人のみなさんへ)/基礎篇 レッスン1:小学生のための小説教室/レッスン2:小説の一行目に向かって/レッスン3:小説はまだまだはじまらない/レッスン4:小説をつかまえるために、暗闇の中で目を開き、沈黙の中で耳をすます/実践篇 レッスン5:小説は世界でいちばん楽しいおもちゃ箱/レッスン6:赤ちゃんみたいに真似ることからはじめる、生まれた時、みんな、そうしたように/レッスン6・付録:小説家になるためのブックガイド/レッスン7:小説の世界にもっと深く入ること、そうすれば、いつか/レッスン8:自分の小説を書いてみよう/あとがき

 ◎書きあぐねている人のための小説入門(中公文庫)保坂和志著:【小説家・全体講義型】この指南書が対象とする「小説」は、ストーリーのある小説ではありません。作者を子宮に例えるなら、その内部に生じ、運動しつつ成長し、自ら産道を抜けて誕生するような「小説」です。そんな「小説」のために必要なことが詰まっていると判断し、【全体講義型】としました。「入門」とありますが、エンタテイメント系のプロットやキャラクターを解説するものではありませんので、ご注意ください。あくまでも、運動する「小説」の世界へ「入門」するための指南書です。(2003年刊・2008年文庫初版)

【目次】Ⅰ章:小説を書くということ――感じ、そして考えること/Ⅱ章:小説の外側から――ジャズ、アフリカ文学、哲学……/Ⅲ章:何を書くか?――テーマからの開放/Ⅳ章:人間を書くということ――リアリティとは何か?/Ⅴ章:風景を書く――文体の誕生/Ⅵ章:ストーリーとは何か?――小説に流れる時間/Ⅶ章:テクニックについて――小説を書き始めるためのいつくかの覚書/あとがき/文庫のためのあとがき/創作ノート

 ◎書く人はここで躓く!(河出書房新社)宮原明夫著:【小説家・選択解説型】2001年に初版が出て2016年に増補新版、さらに2024年に新装版が出版されました。網羅的な小説指南書ではありませんが、ツボを押さえた文芸系テキストといえるでしょう。この記事を書くにあたって読み直し、改めてその実力に脱帽しました。(2001年刊)

【目次】1.ファーストシーンは後に書け(シーンと配列)/2.時間芸術(小説の構造)/十作って一書け(フィクション)/ストーリーかヒーローか(人間像)/神は細部で罰したまう(ディテール)/ 無声映画のつもりで(会話)/尾頭付きと切り身(短編)/文は顔なり(文体)/神様が降りてくる(発見としての創作)/作者と読者の間には(読者の存在)(各章の小見出しは割愛)

 ◎🔰たった独りのための小説教室(集英社)花村萬月著:【小説家・選択講義型】エンタメ小説家を目指す若者に花村氏が語りかける体で、帯にも「めざせエンタメ小説家!」とあります。なので、エンタメ系の小説指南書に分類するのが素直なのでしょうが、内容から、敢えて文芸系の指南書としました。もちろん、エンタメ作家を目指す若者を除外する必要はありませんが、これを読めば、文芸の方へぐっと舵を切ることを筆者は密に期待しているのではないか、と思えてなりません。私自身も、(若者ではありませんが)これを読んだことがきっかけでミステリ一本槍だった目から鱗がポロリと落ちました。ハウツー本とは一線を画す魂の指南書です。(2023年刊)

【目次】第1講:小説を書こう/第2講:日記を書く/第3講:偶然に頼らない/第4講:小説にオチはいらない/第5講:セックスを書いてみる/第6講:起承転結/第7講:百点満点はいらない/第8講:嘘をつくセンス/第9講:新人賞に応募する/第10講:描写と説明1/第11講:描写と説明2/第12講:センスと努力/第13講:描写と説明3/第14講:テーマとモチーフ/第15講:行間を読ませる/第16講:文章を推敲する/第17講:比喩について1/第18講:比喩について2/第19講:比喩について3/第20講:新人作家の心得/第21講:比喩について4/第22講:辞書を引く/第23講:地図を描く/第24講:自分だけの年表を作る/第25講:リズムについて1/第26講:リズムについて2/第27講:段落の作り方/第28講:小説の宿命/第29講:贅沢は敵ではない/第30講:リズムについて3/第31講:無限を表現する/第32講:エンタメ作家の心構え/第33講:承認欲求と名誉/第34講:夢の効用/最終稿:たった独りの貴方へ

 ◎創作の極意と掟(講談社文庫)筒井康隆著:【小説家・手記型】「この文章は、謂わば筆者の、作家としての遺言である」として、作家歴六十年の筒井氏が作家志望者やプロの作家に向けて書いたエッセイ集。網羅的な解説書ではありませんが、創作に役立つ蘊蓄がぎっしり詰まっており、間違いなく一級の小説指南書です。文芸系として記載していますが、エンタテイメントを書く人にも役に立つこと請け合いです。(2014年刊・2017年文庫初版)

【目次】凄味/色気/揺蕩/破綻/濫觴/表題/迫力/展開/会話/語尾/省略/遅延/実験/意識/異化/薬物/逸脱/品格/電話/羅列/形容/細部/蘊蓄/連作/文体/人物/視点/妄想/諧謔/反復/幸福

 ◎小説の研究(講談社学術文庫)川端康成著:【小説家・手記型】原本は昭和十一年に第一書房から「新思想芸術叢書」の一巻として刊行されたといいます。春山行夫氏と伊藤整氏が編集者として実際の作業をしたそうです。現在では『新文章讀本』の方が名前が通っていますが、小説指南書としての内容の濃さは勝るとも劣りません。後半は当時の作家と作品の批評。絶版となり古本のみ入手可ですが、再版を望みたい良書です。(1936年刊・1977年再刊)

【目次】まえがき/小説とは何か/創作の動機/長編小説/短編小説/主題/筋/性格と心理/文章論/作家と作品(各章の小見出しは割愛)

新文章讀本(タチバナ文芸文庫)川端康成著:【小説家・手記型】しばしば批判されることのある「文章読本」ですが、他のものが小説に限定していないのに対して、これは「小説における文章論」になっています。昭和10年から断続的に発表された作品が『雪国』として一冊にまとめられ創元社から刊行された二年後、昭和25年の発表です。小説家として、また、文芸批評家として脂の乗りきった五十一歳の川端氏の小説に対する考え方を学ぶことのできる一冊です。大部分は雑誌『文藝往来』に連載されたものをまとめたせいか、「代作疑惑」がある、ともいわれています。他に三作の文章論を所収。(1950年刊・2007年再刊)

【目次】Ⅰ.新文章讀本(第一章~第十章)/Ⅱ.文章學講話(大正十四年七月)・新文章論(大正十二年十一月)・新文章論(昭和二十七年四月)

 ◎小説作法(講談社文庫)丹羽文雄著:【小説家・全体講義型】本書が文藝春秋社から刊行されたのは1954年(昭和29年)で、「文學界」から依頼があったと明かされています。実際の「覚書(今なら創作ノートというべきか)」から執筆した短編小説も参考作品として掲載されています。2017年に講談社文芸文庫となるまで、何度も繰り返し出版されてきました。小説作法について網羅的に書かれており、指南書として古典的な名著というべきでしょう。(1954年刊・2017年文庫初版)

【目次】第一章:小説覚書/第二章:テーマに就いて/第三章:プロット(構成)に就いて/第四章:人物描写/第五章:環境に就いて/第六章:描写と説明/第七章:小説の形式/第八章:リアリティに就いて/第九章:文章に就いて/第十章:時間の処理/第十一章:題名のつけ方に就いて/第十二章:あとがきの意義/第十三章:小説の書き出しと結びに就いて/第十四章:小説片手落論/第十五章:初心者の心得/第十六章:結論/女靴(参考作品)/媒体(参考作品)

 ◎小説読本(中公文庫)三島由紀夫著:【小説家・手記型】一冊の本として書かれたものではなく、1948年の「私の文学」から1970年の「小説とは何か」まで、様々な雑誌や会報に連載・掲載された十三篇の小説論や創作論を中央公論社が編集したもの。最初からページを捲るのもいいですが、書かれた年代順に読むと、三島氏の心の変化が読み取れて興味深い。1970年の7月に三島氏は市谷駐屯地で壮絶な死を遂げています。「小説とは何か」は新潮社の『波』に1968年春季号から1970年十一・十二月に連載された。つまり、このエッセイが連載中の事件でした。鬼才・三島由紀夫が小説家志望者に贈る一冊です。(2010年刊・2016年文庫初版)

【目次】作家を志す人々のために/Ⅰ「小説とは何か」/Ⅱ:「私の小説の方法・」「わが創作方法」「小説の技巧について」「極く短い小説の効用」「法律と文学」「私の小説作法」「法学士と小説」「法律と餅焼き」/Ⅲ:「私の文学」「自己改造の試み」「『われら』からの遁走」

 ◎文章読本(中公文庫)三島由紀夫著:【小説家・選択講義型】様々な小説を引用しながらワンランク上の「読者」へ導くために書かれた書籍で、様々な文学作品について解説しています。第七章の「文章技巧」で描写について細かな検討がなされており創作にも役立ちます。(1959年「婦人公論」別冊付録・初版刊行)

【目次】第一章:この文章読本の目的/第二章:文章のさまざま/第三章:小説の文章/第四章:戯曲の文章/第五章:評論の文章/第六章:翻訳の文章/第七章:文章技巧/第八章:文章の実際――結語(各章の小見出しは割愛)

 ◎🔰プロだけが知っている小説の書き方(飛鳥新社)森沢明夫著:【小説家・対話型】小説投稿サイト「ノベルアップ+」にて、小説投稿者から「創作のお悩み」を募集し、その質問に答えるQ&Aに加筆修正したものです。(2022年刊)

【目次】1.ネタを考える/2.設定を考える/3.プロットをつくる/4.原稿を書く/5.推敲する(各質問は割愛)

 ◎🔰職業としの小説家(新潮文庫)村上春樹著:【小説家・手記型】村上氏の作家としての心構え、考え方、そして苦悩が綴られた、出版社に依頼されたのではなく自発的に書き溜めてきたエッセイ。三十人くらいの小さなホールで講演をするつもりで書いたそうです。作家を目指す人に役立つ蘊蓄がちりばめられています。(2015年刊・2016年文庫初版)

【目次】第一回:小説家は寛容な人種なのか/第二回:小説家になった頃/第三回:文学賞について/第四回:オリジナリティーについて/第五回:さて、何を書けばいいのか?/第六回:時間を味方につける――長編小説を書くこと/第七回:どこまでも個人的でフィジカルな営み/第八回:学校について/第九回:どんな人物を登場させようか?/第十回:誰のために書くのか?/第十一回:海外へ出て行く。新しいフロンティア/第十二回:物語のあるところ――河合隼雄先生の思い出/あとがき

 ◎現代小説作法(ちくま学芸文庫)大岡昇平著:【小説家・全体講義型】著者は、『俘虜記』「レイテ島戦記」『野火』など、フィリピンにおける自らの俘虜経験から戦記物の名作を書く一方、『武蔵野婦人』という恋愛小説まで発表しています。本書は五十三歳の作家として脂が乗りきった頃に文藝春秋社から刊行された書籍の文庫版です。(1962年刊・2014年再刊)

【目次】第一章:小説に作法があるかという問題/第二章:小説はどう書き出すべきか/第三章:作者の位置について/第四章:告白について/第五章:ストオリーについて/第六章プロットについて/第七章:プロットについての続き/第八章:主人公について/第九章:主人公についての続き/第十章:日本文学について/第十一章:ハムレット/第十二章:人物について/第十三章:小説の中の「橋」について/第十六章:モデルについて/第十七章:描写について/第十八章:小説と映画/第十九章:心理描写について/第二十章:自然描写について/第二十一章:自然観の変遷/第二十二章:文体について/第二十三章:行動小説と性格小説/第二十四章:劇的小説/第二十五章:要約

 ◎文章読本(中公文庫)谷崎潤一郎著:【小説家・手記型】数ある「文章読本」の草分け的存在といわれています。小説家志望者だけではなく、文章全般の向上を意図して書かれていますが、「文章に実用的と藝術との区別はない」としており、批判が多いのも事実です。(1934年刊)

【目次】一.文体とは何か 〇言語と文章 〇実用的な文章と藝術的な文章 〇現代文と古典文 〇西洋の文章と日本の文章/二.文章の上達法 〇文法に囚われないこと 〇感覚を研くこと/三.文章の要素 〇文章の要素に六つあること 〇用語について 〇調子について 〇文体について 〇体裁について 〇品格について 〇含蓄について(小見出しは割愛)

 ◎文章読本(中公文庫)丸谷才一著:【小説家・手記型】多くの「文章読本」にあって、最も優れているとの評判があるようです。これも小説家志望者だけではなく、文章全般の向上を意図して書かれたものです。(1977年刊・1980年文庫初版)

【目次】第一章:小説家と日本語/第二章:名分を読め/第三章:ちょっと気取ってかけ/第四章:達意といふこと/第五章:新しい和漢混淆文/第六章:言葉のゆかり/第八章:イメージと論理/第九章:文体とレトリック/第十章:結構と脈絡/第十一章:目と耳と頭に訴へる/第十二章:現代文の条件

 ◎小説の技巧(白水社)デイビッド・ロッジ著、柴田元幸・斎藤兆史訳:【小説家・選択講義型】「書き出し」から「結末」まで小説の技巧に関する50のトピックを、それぞれ冒頭に例文を紹介し、解説しています。英米文学の案内書になると同時に、小説技巧に関する良質な読み物として楽しめます。(1992年原書刊・1997年翻訳初版)

【目次】( )内は例文の作者1.書き出し(ジェイン・オースティン/フォード・マドックス・フォード)/2作者の介入(ジョージ・エリオット/E・M・フォースター)/3.サスペンス(トマス・ハーディ)/4.ティーンエージ・スカース(J・D・サリンジャー)/5.書簡体小説(マイケル・フレイン)/6.視点(ヘンリー・ジェイムズ)/7.ミステリー(ラドヤード・キプリング)/8.名前(デイビッド・ロッジ)/9.意識の流れ(ヴァージニア・ウルフ)/10.内的独白(ジェイムズ・ジョイス)/11.異化(シャーロット・ブロンテ)/12.場の間隔(マーティン・エイミス)/13.リスト(F・スコット・フィツジェラルド)/14.人物紹介(クリストファー・イシャウッド)/15.驚き(ウィリアム・メイクピース・サッカレイ)/16.時間の移動(ミュリエル・スパーク)/17.テクストの中の読者(ロレンス・スターン)/18.天気(ジェイン・オースティン/チャールズ・ディケンズ)/19.反復(アーネスト・ヘミングウェイ)/20.凝った文章(ウラジミール・ナポコフ)/21.間テクスト性(ジョセフ・コンラッド)/22.実験小説(ヘンリー・グリーン)/23.コミック・ノベル(キングズリー・エイミス)/24.マジック・リアリズム(ミラン・クンデラ)/25.表層にとどまる(マルカム・ブラッドベリ)/26.描写と語り(ヘンリー・フィールディング)/27.複数の声で語る(フェイ・ウェルドン)/28.過去の感覚(ジョン・ファウルズ)/97.未来を想像する(ジョージ・オーウェル)/30.象徴性(D・H・ロレンス)/31.寓話(サミュエル・バトラー)/32.エピファニー(ジョン・アップダイク)/33.偶然(ヘンリー・ジェイムズ)/34.信用できない語り手(カズオ・イシグロ)/35.異国性(グレアム・グリーン)/36.章分け、その他(トバイアス・スモレット/ロレンス・スターン/サー・ウォルター・スコット/ジョージ・エリオット/ジェイムズ・ジョイス)/37.電話(イーヴリン・ウォー)/38.シュルレアリスム(リオノーラ・キャリントン)/39.アイロニー(アーノルド・ベネット)/40.動機づけ(ジョージ・エリオット)/41.持続感(ドナルド・バーセルミ)/42.言外の意味(ウィリアム・クーパー)/43.題名(ジョージ・ギッシング)/44.思想(アントニー・バージェス)/45.ノンフィクション小説(トマス・カーライル)/46.メタフィクション(ジョン・バース)/47.怪奇(エドガー・アラン・ポー)/48.物語構造(レナード・マイケルズ)/49.アポリア(サミュエル・ベケット)/50.結末(ジェイン・オースティン/ウィリアム・ゴールディング)

 

(2)エンタテイメント系指南書

あなたの小説にはたくらみがない(新潮新書)佐藤誠一郎著:【編集者等・選択講義型】新潮社の編集者であり、プロフィールには「新潮ミステリー倶楽部」他三つの叢書を手がけるとともに、「日本推理サスペンス大賞」をはじめ五つの文学新人賞を立ち上げたとあります。本書は新人賞の「傾向と対策」を否定し、さらには作家の手になる指南書には汎用性がなく、その作家のジャンルに限定した「究極の自著解説」であり「作家は自作のことだけ考えていろ」と切り捨てます。キャラクター重視の時代からテーマ重視の時代へ移行すると予想し、起承転結ではなくハリウッド式三幕構成のプロットを生かす方法を説くなど新しい視点が学べます。(2022年刊)

【目次】第一章:小説指南書には要注意/第二章:小説の物差しはどんどん変化している/第三章:「起承転結」はウソかも知れない/第四章:誰の視点で書くべきなのか/第五章:キャラクター狂騒曲よ、さようなら/第六章:安易な同時代生は無用/第七章:テーマを説くな、テーマを可視化せよ/第八章:ロジックで押し切らないという選択/第九章:プロの手捌きをすぐ脇で盗み見る/最終章:小説の海に北極星はあるのか(各章の小見出しは割愛)

 ◎🔰エンターテイメントの作り方(角川新書)貴志祐介:新書版というコンパクトな本の中に、貴志氏が考える創作上のノウハウが丁寧に記された良書。エンタテイメント系の新人賞を目指す人を意識しています。創作における着想から推敲まで網羅する指南書ですが、テクニックに走ることなく創作への向き合い方を説く良書です。(2015年刊・2017年新書初版)

【目次】第一章:アイデア/第二章:プロット/第三章:キャラクター/第四章;文章作法/第五章:推敲/第六章:技巧(各章の小見出しは割愛)

 ◎小説作法(アーティストハウス)スティーブン・キング著・池央耿訳:【小説家・選択講義型】新訳本は『書くことについて』(小学館文庫) 田村義進訳。前半の「生い立ち」は著者の自伝。後半の「小説作法」は、小説の書き方を解説するというより、執筆の重要なポイントについて筆者の考え方を明らかにしています。キング氏は著名なサスペンス作家ですが、本書の内容はエンタテイメント全般はもちろん、文芸の創作にも活用できる良書といえるでしょう。(2001年翻訳初版・2013年新訳文庫初版)

【目次】生い立ち/文章とは何か/道具箱/小説作法/後記・人生の味わい(本書にはいわゆる目次はなく独立した章に付された見出しを列挙した)

 ◎🔰シナリオセンター式物語の作り方(実業之日本社)新井一樹著:【編集者等・全体講義型】著者は脚本家や小説家を養成するシナリオ・センターの創設者を父に持つ。タイトルにあるとおり、「つくり方」という技術面を重視した南書。「シナリオセンター式」の創作ハウツーを学べる入門書です。(2023年刊)

【目次】序章:創作の地図を手に入れよう/第1章:物語の姿を知ろう/第2章:物語の設定のつくり方/第3章:登場人物のつくり方/第4章:物語の構成の立て方/第5章:シーンの描き方/第6章:物語の活かし方(各章の小見出しは割愛)

 ◎アウトラインから書く小説再入門(フィルムアート社)K.M.ワイランド著、シカ・マッケンジー訳:【小説家・選択講義型】アウトラインとプロットの区別はつけにくいかもしれませんが、アウトラインはプロットのひとつの表現方法と捉えればいいかもしれません。本書はアウトラインを作ってから執筆に取りかかるノウハウを解説します。エンタテイメント系に分類しましたが、文芸系・中間小説でも参考になります。(2011年原書刊・2013年翻訳初版)

【目次】第1章:アウトラインは必要か/第2章:アウトラインを作る前に/第3章:一文で物語を表す「プレミス」のまとめ方/第4章:全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)1.点と点をつなげる/第5章:全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)2.基本要素を見つける/第6章:人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)1.バックストーリーを作る/第7章:人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)2.人物インタビュー/第8章:舞台設定でユニークな世界観を作る/第9章:詳細アウトラインで物語を育てる/第10章:清書版アウトラインでロードマップを描く/第11章:アウトラインを活用しよう(各章の小見出しは割愛)

 ◎ストラクチャーから書く小説再入門(フィルムアート社)K.M.ワイランド著、シカ・マッケンジー訳:ハリウッド式三幕構成のプロット(構成)について詳細に解説してくれる指南書です。(2013年原書刊・2014年翻訳初版)

【目次】イントロダクション――なぜ構成は大切なのか/PART1.ストーリーの構成 第1章:掴み(フック)/第2章:物語をどこから始めるべきか?/第3章:最初の章の注意点/第4章:第1幕パート1:登場人物の紹介/第5章:第1幕パート2:危険と舞台設定の紹介/第6章:プロットポイント1/第7章:第2幕の前半/第8章:第2幕の後半/第9章:第3幕/第10章:クライマックス/第11章:解決/第12章:エンディングをさらによくするために/第13章:構成についてよくある質問/PART2.シーンの構成 第14章:シーン/第15章:シーンの「ゴール」の選択肢/第16章:シーンの「葛藤」の選択肢/第17章:シーンの「災難」の選択肢/第18章:シークエル/第19章:シークエルの「リアクション」の選択肢/第20章:シークエルの「ジレンマ」の選択肢/第21章:シークエルの「決断」の選択肢/第22章:シーン構成のバリエーション/第23章:シーン構成についてよくある質問/PART3.文の構成

 ◎🔰エンタメ小説家の失敗学(光文社新書)平山瑞穂著:【小説家・手記型】2004年に『ラス・マンチェス通人』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、二十七作の長編と二作の短編集を発表してきた作者は、現在は本業で食べていけず、ライター業で糊口をしのいでいるといいます。その筆者が小説家志望者に贈る「失敗学」のエッセイです。(2022年刊)

【目次】第1章:入口をまちがえてはいけない/第2章:功を焦ってはならない/第3章:作品の設計を怠ってはならない/第4章:編集者に過度に迎合してはならない/第5章:「編集者受け」を盲信してはならない/第6章:オチのない物語にしてはならない/第7章〝共感〟というクセモノを侮ってはならない(小見出しは割愛)

 ◎🔰『SAVE T迎合E CATの法則で売れる小説を書く』(フィルムアート社)ジェシカ・ブロディ著・島内哲郎訳:ブレイク・スナイダー著『SAVE THE CATの法則』をベースに、物語の十種類のパターンのプロットを解説。(2019年刊・翻訳初版)

【目次】第1部 第1章:気になる主人公とは?/第2部 第2章:「SAVE THE CAT!」式ビート・シート/第3部 第3章:すべても物語にあてはまる10のジャンル/第4章~第13章:ジャンルタイプ1~10/第4部 売り込み方法 第14章 書いたら売らなくちゃ!/第5部 第15章:壁にぶつかった小説家に救いの手を(ジャンルタイプ名は省略)

 ◎文体の舵をとれ(フィルムアート社)アーシュラ・K・ル=グウィン 著、大久保ゆう訳:「小説の執筆は技芸(アート)であり、技巧(クラフト)であり、物作りでもある」として、小説執筆における基本について練習問題も含めてレクチャーします。日本語と英語の文法の違いはあるものの、基本的な文章作法を学べます。(1998年原書刊・2021年翻訳初版)

【目次】はじめに/第1章:自分の文のひびき/第2章:句読点と文法/第3章:文の長さと複雑な構文/第4章:繰り返し表現/第5章:形容詞と副詞/第6章:動詞・人称と時制/第7章:視点(POV)と語りの声(ヴォイス)/第8章:視点人物の切り替え/第9章:直接言わない語り――事物が物語る/第10章:詰め込みと跳躍

 ◎モンスターを書く(フィルムアート社)フィリップ・アサンズ著、島内哲朗訳:【編集者等・選択講義型】モンスターのキャラクター造形をするための指南書です。(2014年原書刊・2023年翻訳初版)

 【目次】一.モンスターの正体/二.モンスターがそこにいる理由/三.モンスターの書き方(各章の小見出しは割愛)


(3)エンタテイメント(ミステリ・サスペンス)系指南書

◎🔰売れる作家の全技術(角川文庫)大沢在昌著:【小説家・全体解説型】『新宿鮫』で有名な大沢在昌氏が「小説 野性時代」(角川書店)誌上で行った十回の講義をまとめたもの。最初、電子書籍で読み、どうしても紙の本が欲しくなり二度購入しました。(2012年刊・2017年文庫初版)
 なお、本稿は2012年刊の単行本をベースにしていますが、出版社に確認したところ、文庫版では以下の点が修正されているそうです。
・「第二部 受講生作品講評」の収録がありません。
・「特別講義 大沢在昌&編集長座談会」「新人賞リスト」「文庫版あとがき」を新たに収録。

【目次】第一部 講義 第一回:作家で食うとはどういうことか/第二回:一人称の書き方を習得する/第三回:強いキャラクターの作り方/第四回:会話文の秘密/第五回:プロットの作り方/第六回:小説には「トゲ」が必要だ/第七回:文章と描写を磨け/第八回:長編に挑む/第九回:強い感情を描く/第一〇回:デビュー後にどう生き残るか・第二部 受講生作品講評(詳細省略)

 ◎ミステリーの書き方(幻冬舎文庫)日本推理作家協会編:【複数小説家・全体講義型】著名なミステリー作家43人がそれぞれのテーマでミステリの書き方を指南する空前絶後の一冊。ミステリ作家を目指す人なら、私がとやかくいう前に既にお持ちかもしれません。(2010年刊・2017年文庫初版)

【目次】第1章:ミステリーとは(森村誠一他)/第2章:ミステリーを書く前に(東野圭吾・有栖川有栖他)/第3章:ミステリーを書く(宮部みゆき・北方謙三・黒川博行他)/第4章:ミステリーをより面白くする(赤川次郎・我孫子武丸・綾辻行人・今野敏・貴志祐介・花村萬月・恩田陸・横山秀夫他)/第5章:ミステリー作家として(大沢在昌他)

 ◎推理小説作法(光文社文庫)江戸川乱歩・松本清張共編:【複数小説家・選択講義型】ビッグネーム二人の共著のような印象を与えますが、実際は二人を含む八人が一章ずつ分担した共著です。いうなれば、前に紹介した『ミステリーの書き方』のオリジナルみたいなもので、それを五十年も前にやっていた。まさにミステリ系小説指南書の元祖ともいうべき書籍です。(1959年刊・2005年文庫初版)

【目次】まえがき(江戸川乱歩)/推理小説の歴史(中島河太郎)/トリックの話(江戸川乱歩)/動機の心理(大内茂男)/素人探偵誕生記(加田伶太郎)/推理小説のエチケット(荒正人)/現場鑑識(平島侃一)/推理小説とスリラー映画(植草甚一)/推理小説の発想(松本清張)/あとがき(松本清張)

 ◎ミステリーの書き方(講談社文庫)アメリカ探偵作家クラブ著/ローレンス・トリート編・大出健訳:【複数小説家・選択講義型】27人のミステリ作家がテーマ毎に執筆したミステリ小説指南書。日本推理作家協会編の『ミステリーの書き方』のお兄さん。 (1976年原書刊・1948年翻訳初版・1998年文庫刊)

【目次】はじめに/第1章:なぜ書くのか/第2章:未知の豊かさを求めて・第3章:アイデンティティの見つけ方/第4章:プロットの組み立て方/第5章:ストーリーの構成法/第6章:わたしはアウトラインをつくらない/第7章:状況設定からプロットづくりへ/第8章:いつ、どんなふうにして書くか/第9章:シリーズ物と単発物/第10章:殺人その他の犯罪捜査官/第11章:現行持ち込みの作法/第12章:本当らしさを求めて/第13章:語り出し/第14章:人物に厚みを持たせる方法/第15章:視点の選び方/第16章:ワトスン役は必要か/第17章:サスペンス/第18章:背景描写と雰囲気づくり/第18章:会話/第20章:文体について/第21章:「手直し」というきびしい仕事/第22章:もう一度、よく考えて/第23条:削除―外科医それとも肉屋/第24章:ステレオタイプを避けよ/第25章:つまづきの処理法/第26章:ゴシック小説とは何か?/第27章:ペーパーバッグ・オリジナル/ず28章:短編の楽しみ/第29章ミステリーの秘訣/訳者あとがき/解説(池上冬樹)

 ◎サスペンス小説の書き方(フィルムアート社)パトリシア・ハイスミス著・坪野圭介訳:【小説家・選択講義型】1951年に公開されたアルフレッド・ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を知っている人は、今や多くはないでしょう。1960年に公開されたアラン・ドロンのフランス・イタリアの合作映画「太陽がいっぱい」のタイトルだって、若い人は知らないかもしれません。それらの原作を書いたのがパトリシア・ハイスミス女史です。同性との恋愛経験が豊富だという女史が、自身の創作過程を例にとりながら次代を担うべきサスペンス作家に向けて書かれた本書は、作品を熟成させることの重要性を説く。「こうすれば簡単に小説を書けますよ」というハウツー本を寄せ付けない凄みが行間に滲みます。巻末に記された訳者解説にある女史の「メモ」は、創作を志す全ての人に読んでほしい。(1988年原書刊・2022年翻訳初版)

【目次】第1章:アイデアの芽/第2章:主に経験を用いることについて/第3章:サスペンス短編小説/第4章:発展させること/第5章:プロットを立てる/第6章:第一稿/第7章:行き詰まり/第8章:第二稿/第9章:改稿/第10章:長編小説の事例――『ガラスの独房』/第11章:サスペンスについての一般的な事柄

 ◎書きたい人のためのミステリ入門(新潮新書)新井久幸著:【編集者等・選択講義型】著者は新潮社の編集者でありミステリ系の新人賞にも携わってきたそうです。タイトルのとおりミステリの入門書として多くのミステリ作品を紹介しつつ、指南書として有益なアドバイスが多い。また、編集者志望の人も視野に入れた記述もあります。(2020年刊)

【目次】第一章:そもそも『ミステリ』ってどんなもの?/第二章:謎がなければ始まらない/第三章:フェアとアンフェアの間/第四章:意外な犯人は、『意外』じゃない/第五章:『ふうん』な伏線じゃ驚けない/第六章:名探偵、みんなを集めて『さて』と言い/第七章:複雑な話は長編が向いているのか?/第八章:人間が書けているとはどういうことか?/第九章:何のために世界を作るのか?/第十章:タイトルは最大のキャッチコピー/第十一章『ときめきメモリアル』は黒澤明の夢を見るか/第十二章:デビューへの道/第十三章:ミステリ新人賞、その執筆および投稿と潜航に関する一考察(各章の小見出しは割愛)

◎🔰ミステリー小説を書くコツと裏ワザ(青春出版社)若桜木虔著:【小説家・選択講義型】小説教室や通信添削講座を通じて多くの作家をデビューさせた若桜木氏の著書。タイトルからわかるように、ザ・ハウツー本で、新人賞を獲るための「コツ」や「裏ワザ」を解説しています。(2016年刊)

【目次】PART1:読み出したら止まらないストーリーづくりのコツと裏ワザ/PART2:誰もがハッと驚くトリックづくりのコツと裏ワザ/PART3:思わず感情移入してしまう魅力的なキャラクターづくりのコツと裏ワザ/PRT4:台詞や描写で差をつける新鮮で的確な文章表現のコツと裏ワザ/PART5:作品のリアリティが増す取材や情報収集のコツと裏ワザ/PART6:プロ作家を目指すミステリー小説新人賞を受賞するコツと裏ワザ(各章の小見出しは割愛)

 

(4)参考書籍

◎🔰本を読むときに何が起きているのか(フィルムアート社)ピーター・メンデルサンド著・細谷由依子訳:読み手の立場からどんな小説が求められているのかを訴えます。作家は饒舌を慎み、読者に想像の楽しみを与えよ、と。著者はアメリカのカリスマ装丁家だといいます。お洒落なイラストが絵本を読む楽しみを大人に与えてくれる、ちょっと変わった本でもあります。全編モノクロ印刷ですが、カラー版が欲しくなります。前節の格言・名言集にも載せましたが、もう一度。「登場人物は暗号である。そして物語は省略によって豊かになる」(2015年翻訳初版)

【目次】「描くこと」を思い描く/フィクション/冒頭/時間/鮮やかさ/演奏/素描する/技/共同創作/地図と規則/抽象/目、視覚、媒体/記憶と幻想/共感覚/意味しているもの/信念/模型/部分と全体/ぼやけて見える

 ◎映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと(フィルムアート社)シド・フィールド著・安藤紘平・加藤正人・小林美也子・山本俊亮訳:脚本術の指南書だが、ハリウッド式三幕構成やキャラクター作り、会話など、小説にも役立つ解説が盛り込まれている。(2005年刊2009年翻訳初版)

【目次】第1章:映画脚本とはなにか/第2章:主題(テーマ)を作る/第3章:登場人物(キャラクター)を想像する/第4章:登場人物(キャラクター)を構築する/第5章ストーリーと人物設定/第6章:エンディングとオープニングをつくる/第7章:ストーリーの設定/第8章:二つの事件(incident)は関連する/第9章:プロットポイントを見つける/第10章:シーンを作る/第11章:シークエンスを考える/第12章:ストーリーラインを構築する/第13章:脚本の形式を知る/第14章:さあ、脚本を書こう!/第15章:脚色をする/第16章:共同執筆(コラボレーション)/第17章:書き終えた後(小見出しは割愛)

 ◎SAVE THE CATの法則(フィルムアート社)ブレイク・スナイダー著、菊池淳子訳 (2005年刊・2010年翻訳初版):脚本術の指南書。売れる映画は十種類のパターンにどれかに該当するとしています。ハリウッド映画ファンにもお勧めできる一冊。

【目次】1.どんな映画なの?/2.同じものだけど…ちがった奴をくれ!/3.ストーリーの主人公は…。/4.さあ、分解だ!(小見出しは割愛)

 ◎作家の旅(フィルムアート社)クリストファー・ボグラー著、布川由美恵訳:副題は「神話の法則で読み解く物語の構造」。主人公が過酷な旅を経て成長するストーリーの構造を明らかにします。(2000年刊・2022年第4版翻訳初版)

【目次】第一部 旅の地図を作る 第一章:実践ガイド/第二章:アーキタイプ 1.英雄/2.師・老賢者/3.戸口の番人/4.使者/5.変身する者/6.影/7.仲間/8.トリックスター/アーキタイプを越えて/第二部 旅のステージ 1,日常世界/2.冒険への誘い/3.冒険の拒否/4.師との出会い/5.最初の戸口の通過/6.試練、仲間、敵/7.最も危険な場所への接近/8.最大の苦難/9.報酬/10.帰路/11.復活/12.宝を持っての帰還/エピローグ(小見出し割愛)/付録 物語の続き(小見出し割愛)

 ◎ストーリーの解剖学(フィルムアート社)ジョン・トゥルービー著、吉田俊太郎訳:ディズニーやピクサーで活躍した「映画業界のベスト・スクリプトドクター」による脚本の創作講座。(2008年刊・2017年翻訳初版)

【目次】第1章:ストーリー・スペース、ストリー・タイム/第2章:プレミス/第3章:ストーリー構造に不可欠な7段階の道程/第4章:キャラクター/第5章:モラルの論議/第6章:ストーリー・ワールド/第7章:シンボル・ウェブ(複雑に絡み合うシンボルの網)/第8章:プロット/第9章:シーン・ウィーヴ(シーンの植物)/第10章:シーン構築とシンフォニーのようなダイアローグ/第11章:永遠に終わらないストーリー

  *以下、哲学関連の書籍は著者の専門外でもあることから、哲学初心者を対象とする書籍の「タイトル(出版社)著者」のみ記載させていただきます。

哲学の教科書(講談社学術文庫)中島義道著

時間と死(ちくま学芸文庫)中島義道著

これが現象学だ(講談社)谷徹著

◎NHK「100分de名著」ブックス・ニーチェ『ツァラトゥストラ』(NHK出版)西研著

◎NHK「100分de名著」ブックス・カント『純粋理性批判』(NHK出版)西研著

◎NHK100分de名著・ハイデガー『存在と時間』(NHK出版)戸谷洋志著

◎NHK100分de名著・ ヘーゲル『精神現象学』(NHK出版)斎藤幸平著

はじめてのプラトン(講談社現代新書)中畑正志著

ソクラテスの弁明(光文社古典新訳文庫)プラトン著、納富信留訳:哲学書というより、物語として読んで楽しむことができます。

ツァラトゥストラ、ツァラトゥストラはかく語りき、ツァラトゥストラはこう言った(異なるタイトルで複数社から出版)ニーチェ著:論理的な哲学書ではなく、文章を味わう哲学書。それぞれ異なる翻訳者によるものなので、どれを選ぶか、よく考えて選択してください。

  

あとがき

 小説指南書は次々と出版されています。有名作家の手になるものでも追いかけ切れず、ご紹介したもの以外にも役に立つ著作がたくさんある筈です。電子書籍による出版も盛んで、ライトノベルや官能小説の分野では電子書籍の指南書が主流になっているのかもしれません。しかし、小説指南書はテキストとしての役割があって、付箋やラインマーカーで印をつけながら読み進み、「そういえば」と思いついたときに辞書のように参照するには、やはり紙がいいと、筆者は思っています。

 エンタテイメント小説の書き方を知りたくて、私は小説指南書を読むようになりました。脚本の指南書が多くなったのは、構成(プロット)をどうするか、キャラクターをどう造形するか、悩んだ時期がそれだけ長かったからです。一方、たまたま購入した指南書が文芸系だった場合には、どうしても内容が頭に入らず、ぺらぺらと表面的にページを捲って拾い読みをしていました。

 転機となったのは、半年ほど前に花村萬月氏の『たった独りのための――』を読んだことです。本来はエンタテイメント作家を目指す無垢なる「若者」を読者層としていますが、そこで紹介されていた吉村萬壱氏の小説を読み、これが文学なのかと衝撃を受け、自分が書きたかったのはこれなんだ、と思い至りました。つまり、文芸というジャンルにおいて、私は🔰です。

 改めて書棚にあった文芸系の指南書を読んでみると、それまでとは全く違ったものに読めました。ページを照らすライトの照度が一段上がったような感覚です。宮原昭夫氏の『書く人はここで躓く!』や、河野多恵子氏の『小説の秘密をめぐる十二章』は、内容をすっかり忘れており、初めて読んだ新鮮な気分になりました。以来、購入する指南書が文芸系にシフトしていきました。

 こうして興味のベクトルが逆方向に振れると、それまで書いてきたものが如何にも陳腐でくだらなく思えてきました。ある投稿サイトにいくつかの作品をアップしていたのですが、PV数を稼ぐために書いた「恋愛サスペンス」やR18モノがたまらなく醜悪に見えるのです。我慢ならなくなり、全ての作品を削除しました。

 保坂和志氏の『書きあぐねている人のための小説入門』に到達したのは、最近のことです。2003年に単行本が出て、2008年に文庫化されていますから、刊行されてから二十年以上も経過しています。二十年前に手に取ったとしても、エンタテイメントしか頭になかった私は何をいっているのか頭に入らず、途中で投げ出していたでしょう。このタイミングで読んだのは、むしろラッキーでした。タイトルに「小説入門」とありますが、私にとって、まさにそうなったのです。

 同時に、それは小説指南書そのものへの興味を一段上の次元に押し上げました。それほど、保坂氏の『書きあぐねている人の――』は、これまでの指南書とは一線を画すものでした。結果的に、それが本稿へとつながったのですが、一気に書いて一週間で公開した今、振り返ってみると、反省すべきところが多々あります。

 まじめに小説を書きなさい、とお叱りを受けそうですが、頭の中では「次」にむけての構想が渦を巻き始めています。今回は紹介できなかった指南書、これから読みたい指南書、もっとわかりやすい構成と文章、記事として楽しめる内容、等々――。これらについては、本稿より必ずレベルアップさせる意気込みで、今日からでも取り組んでいきます。

 最後に、本稿で勝手に紹介し引用した小説指南書の出版社・著者の皆様に、改めて御礼申し上げます。(著者)


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