
パドトロワ
おはようございます。
無事に白鳥の湖が終演しました。
インスタの方に全体の所感を書かせていただいたので、こちらではもう少し掘った内容に触れていきたいと思います。
非常に長文になるかと思いますので、お暇なときにお願いしますね。笑
*
まず今回の白鳥で自分の中でのハイライトとなったのが、やっぱりパドトロワですね。
前回もキャスティングしていただいて、今回も絶対踊りたいと思っていた役なので、発表されたときはとても嬉しかったです。
*
1幕のパドトロワはとても特殊な存在です。
Kバレエ版では「王子の誕生日を祝いに来た」ということが王子の家庭教師から説明があるので分かりやすいのですが、バージョンによっては脈絡無く突然現れて踊って去る、みたいな雑な扱いをされることもあります。
いずれにしても共通するのは「ストーリーの本筋にあまり関係がない」ということ。
それまでプロローグから音楽もほぼ途切れずに進み、王妃とのくだりなどストーリーが展開してきたのが突然バッサリ切れ、始まるディベルティスマン。
つまり演技やキャラクターによる誤魔化しが一切効かず、純粋なクラシックバレエのダンスそのものを見せる役柄、それがパドトロワです。
そういう訳で、あのシーンには独特な緊張感があります。出演者もお客さんも必ず注目するシーンになるので、ダンサーもピリつくというかナーバスになるというか……。
それが堪らなく難しく、だからこそやりがいのある役なんです。前回よりも必ず良いものを、とリハーサル序盤からめちゃくちゃ気合を入れて臨んでいました。
*
今回は2ヶ月リハーサル期間があって、比較的入念に準備する時間がありました。
ただこれも難しいのが、単に長く練習すればいいというものでもなくて、長期間にわたって練習を積むと必ずと言っていいほど「スランプ」の期間が訪れます。
今回は僕もこのスランプに苦しみました。
一度リハ中に背中を痛めてから身体のバランスが崩れたのか、「前回できたから大丈夫」みたいな驕りが心のどこかにあったのか……原因は分からないのですが(スランプというのは大概原因不明です)、得意のトゥールアンレールはしっくり来ない、ピルエットが全く回れない、空中姿勢が安定しない、と散々な状態が2〜3週間はあったんじゃないかと。
スランプ脱出のためにいろんなことをやりました。トレーニングやストレッチのやり方を変えてみたり、朝のクラスレッスンを2つ受ける日を増やしたり。
逆にクラスレッスンを早抜けして自習に費やしてみたり、リハーサルが終わったあとにピアニストさんにお願いしてもう一回1人でやってみたり、OFFの日に気まぐれにスタジオで基礎練をしてみたり。

結局どれが一番効果があったということはなく、やってもやっても足りない気しかしないし、休むのも大事だからと休んではみてもソワソワするし、なかなかに苦しい期間を過ごしました。
明確にスランプを抜けたなと思ったキッカケは、とある日のリハーサルでした。
普段一対一で見てもらう機会が少ない先生とのリハーサルで指摘していただいた、とあるポイント。
そこを気をつけてると散らかっていた身体の感覚が少しずつ戻ってくるのを感じ、失敗への心配からくる身体の強張りなども徐々に薄れていきました。
分かっていたつもりでしたが、「いろんな先生にいろんな角度から教わる」ことの大切さを再認識しました。
また、自分を客観視することの難しさも改めて。
自分の身体がどうなっているか分析することは、特に疲れているときは容易ではありません。やっぱり見てくださる方の客観的な指導が一番です。
*
そうして何とか調子を取り戻し、迎えた本番。
残念ながら直前で降板することになった同志、石橋くんのトロワ魂も背負って舞台に立ちました。
今回のトロワに関してこだわりのポイントは
3人で踊る
移動距離
ポジション
の大きく分けて3つでした。
*
3人で踊る
パ・ド・「トロワ」なんだから当たり前なんですが、意外と意識しないと3人が同じことをやっているだけ、になってしまいます。
振付にもよりますが、顔や目線などをできるだけ女性の方に振って、繋がりを大切にするよう心がけました。
移動距離
僕は舞台上では実際の身長より大きく見られることが多いです。初めてお会いする方には「小柄なんですね!」とよく言われます。笑
そのためステップや動きを大きくすることはもちろんですが、舞台を隅々まで使うことを心がけています。舞台の端から端まで移動すれば、同じステップでも躍動感が段違いです。
なのでプレイシングにもこだわりました。
ポジション
パドトロワは前の方で触れたように、踊り一本で見せる役柄。また、古典の王道「白鳥の湖」のディベルティスマンということもあり、ステップには「基本のキ」が至る所に散りばめられています。
アダージョ、アレグロ、ピルエット、グランジャンプ、マネージュ。基本要素がここまで詰まった踊りはなかなか無いのではないでしょうか。
それだけに、ひたすらに正確にアカデミックに、教科書のような踊りを理想として練習しました。
トゥールアンレールなんかは勝手に「魂のダブルトゥール」と呼んでいて、死んでも5番ポジションで止まって動かないことを最大のこだわりとして意識していました。こだわりすぎて逆に力みが出たりしたのは反省点ですが……。
*
以上3点を念頭に、「全公演で同じ踊りをする」というのを最大の目標に定めました。
どの回に来てくださった方にも常に同じハイクオリティを提供すること。
必ず場を温めて最高の状態で2幕へ繋ぐこと。
これが自分の責務だと思ってがんばりました。
入念に準備しましたが、やっぱりその日の調子の良し悪しというのはあるもので、自分の中ではいろいろと各回に反省点はあります。
ですが会場でのお客様の反応を伺う限りは、自分の責務は全うできたのかなと思います。
特に金曜マチネの、あの地鳴りのような拍手、歓声。
最後のポーズを決めた瞬間の、
ドォン!!
としか表現できないような、客席からの「圧」は忘れられません。本当に嬉しかったです。
*
そんなわけで全5回のパドトロワを無事に踊り切ることができました。
大変だね、なんてよく言われましたが、代役込みとはいえ1幕の花形を何回も任せてもらえるなんてこんな幸せなことはないですし、何より一週間で10回以上2幕4幕を完走している swans 女性たちに比べたら、本当に大変でもなんでもありません。
毎回とても緊張することだけが大変ポイントでした。笑
急遽組むことになったけど安定の安心感、紗弥ちゃん。
怪我から完全復帰、見てると笑顔になっちゃう岩井はん。
飛ぶ鳥を落とす勢い、若手のホープ、美音ちゃん。
前回急なキャスト変更で、ずっと練習してきたけど結局一緒には踊らなくて、今回遂に一緒に舞台に立てた、戸田ちゃん。
4人の素敵なパートナーにも大いに助けられました。本当にありがとう!
*
というわけで長くなりましたので、このくらいで〆とさせていただきます。
読んでくださってありがとうございました🙇🏻♂️
次回はワルツとマズルカについて書ければいいなと思います。
ではでは。