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法律は運用する人によって解釈が違うぞ。気をつけろ!

6〜7月は5つの物件がそれぞれ違う行政区で引き渡しがありました。

1年から長くて5年ほど関わっていた物件ばかりで「ようやく」感があり、その分プレッシャーも高く疲労はピークだった。

数十年ぶりに口唇ヘルペスができたり、腹痛が続いたりと体にも影響があったが、つい先日受けた人間ドックではすべての数値が標準範囲内という謎。

どこか少しくらい悪くなっているだろうと思ったが、いたって健康体。
人間の体って不思議。

さて、本題は「法律の運用」についてです。
建築、とりわけ商業系の建物の設計に関わる人が対峙する法律には主に以下があります。

  • 建築基準法(建物の新築・増改築・修繕・用途変更など)

  • 都市計画法

  • 旅館業法(旅館・ホテル・簡易宿所)

  • 食品衛生法(飲食店やケータリング、キッチンカー)

  • 美容師法(美容室)

  • バリアフリー法(業種にかかわらず規模や手続きの種類によって)

  • 消防法(ほぼ全ての業種)

  • 文化財保護法(文化財建物を扱う)

  • 景観法(建物の外観の規制を行う、街並みを保全する)

  • 水質汚濁防止法(浄化槽の設置があるなど)

こんなにあるんかいな、、とぎっしりと文字が詰まった誌面を読むのが苦手な人は辟易することでしょう。
けれども、常に全ての法律が関わるわけではないし、往々にしてそれぞれの法律の中の建物や設備の構造に関する部分のみ理解しておけば良いのです。
少しハードルは下がりましたか?

しかし、いろんな土地で、数十年にわたって物件を手がけてきた僕は声を大にして叫びたい。

「法律の解釈はどの担当者でも全く同じにしてくれい!」


どういうことか、ひとつ例を挙げます。

客室のお風呂に一般家庭用の追い焚き機能付きの給湯器を使いたい場合に、
保健所によって、認められる場合とそうでない場合があるのです。

全く同じ機械をつかう話なのになんとも不思議な結果が生まれてしまう。
なぜなのでしょうか。


旅館やホテルを開業するのに関わってくる法律の一つに「旅館業法」があるります。
フロントはどのような機能が求められるか、客室の構造、水回りに関することなどを規定する法律ですが、その中に浴室に関する記述があります。

それによると循環式浴槽を使用する場合は、ろ過設備を設ける、薬剤を用いて消毒する必要があると明記されている。

「循環式浴槽」とは、いわゆる共同浴室のように不特定多数が利用する、常時お湯が循環していて、いつでも綺麗なお湯になるように整備された浴槽のことを指しています。

一方で、その部屋にある浴槽にのみお湯を提供するシステム(いわゆる一般家庭にあるガス給湯器のこと)も存在します。

一般家庭用の給湯器には「追い焚き」機能がついています。
これを「循環式」と捉えるかどうかの判断が保健所によってまちまちなのです。

まず前提として、追い焚き機能があるということは、浴槽内のお湯を吸い上げて再加熱してから浴槽に戻すので「循環式」であると言えるだろうなと思います。

判断が難しいのは、家庭用給湯器に「ろ過器」がついていないことです。

不特定多数が利用する浴槽の循環システムにろ過器をつけたり消毒をするのは、レジオネラ菌の繁殖をおさえたり汚れを取るためで、衛生の観点から必要とされます。

一方で家庭用に開発された給湯器は特定の人しか使用しません。
ここでまず公衆衛生の観点がなくなります。
また、追い焚き配管に残った湯は自動的に排出される機能がついており、滞留水が菌に汚染されるリスクも少なくなるように設計されています。

こういった機械なので、宿泊するゲストのみが使用する浴槽に使用するのは問題ないと思うのですが、追い焚き機能 = 循環式であるという認識が判断を難しくします。

設置不可と判断する人は、
「循環式」なのに「ろ過機能」がない。なので設置不可と考える。
設置可能と判断する人は、
「特定の人しか使用しない」「滞留水は都度排出される」部分に着目して設置可能と考える。

このように、人によって違った判断が下されることがあります。
法律なのだから日本全国どこでも同じ判断が得られるのではなく、最終運用者の判断に沿って結果が変わることがあると覚えておきましょう。

個人的には、同じ設備、同じ設計内容なのだから、どこでも同じ判断をしてほしいと思います。
せっかく得た知見が場所が変わると通用しなくなるわけで、手間が一向に減らないからです。

でも人が判断を司る仕組みが変わらない限り、どこでも統一された判断は望めないので、設計者はこの認識をしっかり持っておかなければなりません。

まずは依頼いただいた案件がどのような法律に関係するのか、許可申請や届出が必要かどうかを必ず洗い出しましょう。

「前回こうだったので、今回も同じだろう」とたかを括って、この初動をおろそかにしてしまうと、後で大変な目にあってしまいます。

大変な目にあうのが設計者だけなら別に良いのですが、ほとんどの場合施工者には手戻り工事を、クライアントには追加工事費という多大な迷惑をかけることになります。
心して取り掛かりましょう!もう一度言いますが、初動が大事です。

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笹岡 周平 |空間デザイナー/建築・インテリア
建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。