もう遅い
これを読んでくれる方は、余程奇特な人なのだろうと思う。ありがとうございます。
数年前「昔は言わなくても伝わっていたことが、今は言っても伝わらなくなっている」とだれかが嘆いていて、なるほど確かにそうだと思ったが、現在ではもう伝えることすら無意味に思っている。コモンセンスなき社会においてなにかを説明することは、サイコパスに何故人を殺してはいけないかを説明するくらい難しい。というか、めちゃくちゃ面倒くさい。せめて「いろいろあるけど、とりあえず人は殺しちゃいけない」くらいの共通前提を以てスタートしたい。しかし、それが無理なのである。
「世の中には死んで当然の奴がいる」
「おまえは殺したいくらい憎い奴がいる人間の気持ちがわかっていない」
「殺すか殺さないかは人それぞれ」
とか言ってくるのである。
一説によれば、日本人の5割くらいは5行以上の文章を読んで意味を汲み取ることができなくなっているという。Twitter等のSNS普及が原因なのは明らかだ。スティーブ・ジョブズは、じぶんの子供にiPadの使用を厳しく制限し、ビル・ゲイツは子供にスマホを持たせなかった。また、いいね!ボタンの開発者はSNSをやめたという。SNSのせいで、ほんとうに世界が悪くなった。そして、そう言えばこう返ってくるのである。
「SNSにも良い部分はある」
「SNSに命を救われた人間もいる」
「SNSをどう使うかは人それぞれ」
もういい。あきらめた。それに、すでに5行をとっくに超えているから書いても無駄だ。
このところ、ヘンリー・ダーガーに思いを馳せている。誰に見せることもなく半世紀以上たった一人で1万5000ページもの小説と絵を描き続け、死の直前に作品を発見された際「今更、もう遅い」と呟いた彼を。