【感想】ガールズバンドクライ(第3話「ズッコケ問答」)
以下、第三話全編の内容に触れていますのでご注意ください。
<前回の感想>
●冒頭
作曲アプリで曲作りにいそしむ仁菜。宇宙に飛び出す演出は第一話の冒頭にもあったが、やはり音楽は彼女の心を高揚させるようだ。
勉強の合間とかではなく、うっかり勉強そっちのけで作曲に熱中してしてしまって気づけば朝。ハトの鳴き声とシンクロしてしまうところが面白い。まさか桃香の次にセッションするのがハトになるとは思わなかったが・・・そういえば第一話冒頭で弁当屋さんの呼び込みにつられてしまうシーンがあったが、外部からの刺激に影響されやすいタイプなのかもしれない。
音MAD素材待ったなしの導入からOPへ。
ちなみに公式がここのクリップを上げているのでここだけ繰り返し楽しめるのがありがたい(?)
●Aパート
サブタイトル
第三話のサブタイトルはeastern youthの「ズッコケ問答」
まだメンバー3人ではあるが、バンドとしての「始まり」となる本エピソードにマッチした曲のように思える。
バンドの方向性
翌日、寝不足からか予備校で爆睡かます仁菜。
集中するためにイヤホンをつけるが、やはり音楽の方に意識が行ってしまう。
夜、桃香の部屋に集合する仁菜たち。バンドの方向性を打ち出すための会議ということらしい。仁菜はまだすばるに苦手意識があるのか、二人のやりとりはぎこちない。
仁菜はアプリで作った曲を二人に披露する。
アプリの使い方は桃香が教えたらしい。「毎日8時間以上はやってただろ」という桃香の指摘はどうやら図星らしく、本分である勉強のことを思い出したか、帰ろうとする仁菜。
アプリの削除を申し出る桃香だったが、消してほしくはなかったようでスマホを奪い返して帰る仁菜。勉強はしなければならないが、音楽(バンド)にも心惹かれる・・・という葛藤が見てとれる。
仁菜を追うようにすばるも帰っていく。大量の肉まんを残して・・・
すばるは仁菜と一緒に帰ろうとしたわけだが、すばるが出ていったときの桃香の笑みは、そうやってすばるが仁菜に歩み寄ろうとしてくれていることに対するものだろう。
並んで歩き、仁菜の作曲を褒めるすばる。「歌詞とか、絶対思いつかないと思うんだよね」というセリフだが、描写はなかったものの仁菜が歌詞も書いて二人に見せていた、ということだろうか。
しかし、仁菜はコンビニに寄ると言ってすばるから離れていく。
二人が去った部屋で、桃香のスマホに着信。おそらくすばるからだろう。彼女もスマホを忘れていってしまったようだ。
ところで桃香のスマホケースはユニオンジャックのように見える。特にUKロックが好きなのかもしれない。
すばるの事情
すばるにスマホを届けるよう、桃香から頼まれた仁菜は予備校の後ですばるのアクターズスクールを訪れる。ハチ公などの風景から、スクールが渋谷にあることがわかる。
スクールでのすばるは、より芝居がかった態度に見える。制服の首元に注目すると、シャツのボタンを上まで閉じて、ネクタイもきっちり締めているし、ブレザーの前も閉じている。外では着崩していたので、スクールとそれ以外の場所での自分を切り替えているのだろう。
すばるから食事に誘われる仁菜だが、勉強を口実に断る仁菜。
足早に去ろうとする仁菜を追って、声をかけるすばる。
「バンド、辞めた方がいい?私」
「私もバカじゃないからさ、避けられているのは、わかっちゃうよ」
仁菜の態度がさすがに露骨だったというのもあるかもしれないが、ここで思い切って踏み込んだすばる。「他にもバンドはあるし」というセリフから、桃香の部屋でも「太鼓叩ければなんでもいいからなあ」と言っていた(仁菜はちゃんと聞いていなかったが)ことが思い出される。「誰とやるか」や「楽曲の方向性」などにはあまりこだわりが無いらしい。
「そういうわけじゃなくて・・・」
うろたえる仁菜。「ごめんなさい!」と頭を下げるが、要領を得ない。結局二人で食事に行って話すことになったようだ。
改めて仁菜と向き合い、バンドについての考えを語るすばる。
「バンドって、みんなで一つのもの作らないといけないから、けっこう濃密なんだよね。
意見が対立したらほったらかし、ってわけにはいかないの。
表面繕って話合わせてると、どっかで必ずすれ違う」
ここでカメラはバイト中の桃香を映し出す。前のバンドである「ダイヤモンドダスト」の看板を見上げる彼女だが、この描写はおそらく、桃香が脱退した理由としてすばるの言う「すれ違い」があったことを示唆しているのだろう。(第一話でも桃香から「喧嘩別れ」という話があったが。)
仁菜も、うまく説明できない様子を見せながらも自分の思うところを語り始める。
「仲良くなろうって寄ってこられると、何故か”おまえの思い通りになるか、私はそんなに簡単じゃない”って急に思えてきて・・・」
「それで高校も、辞めちゃったわけだ」
「違います、それは・・・って、聞いたんですか?」
「まあね」
ここですばるが、仁菜の退学エピソードを桃香から聞かされたらしいことがわかる。仁菜からすると、積極的に知られたい話ではなかったのだろう。その反感もあってか、責めるような物言いになってしまう。
「いいですよね、そうやって上から言えて・・・」
「あなたさぁ!私のことを誤解してるだろ!」
すばるの通っているアクターズスクールは、高卒資格はとれないところらしい。お互い似たようなものだと言うすばるだが、反駁する仁菜。
(すばるは制服姿なので普通高校にも通っているのかと思ったが、高校中退の仁菜と似たようなものと言うからには、そういうわけでもないのだろうか?)
「でも役者を目指してるんでしょ?それって夢を追いかけてるってことじゃないですか!胸張って人に言えるじゃないですか!」
店を出て、道すがら会話する二人。
すばるがスクールに通っているのは、女優である祖母の意向らしい。役者は本当に目指してなんかいないと言い、そんな自分が嫌になるとも。
中学で演劇部ではなく軽音部に入ったのもささやかな反抗心からだったようだ。その頃にバンドも経験したらしい。
そんなすばるの事情を知り、仁菜も少し心を開いたようだ。すばるの誘いで、ハチ公前で写真を撮ることに。
「田舎者って思われません?」
「いいよ、実際田舎者なんだから」
さりげないセリフだが、今の仁菜をそのまま肯定してくれるメッセージのように感じられる。
「話した以上、付き合ってもらうよ」
「お前は今日からニーナだ、コノヤロー!」
かくしてすばるから仁菜の呼び方は「ニーナ」になったようだ。バンドっぽい。
といったところでアイキャッチを挟んでAパート終了。
仁菜の対人関係
前回第二話の時点では、仁菜がすばるのようなタイプを特別苦手としているのか、同年代に対しては誰にでも同じような感じなのかはわからなかったが、仁菜の発言から考えるとやはり友好的なタイプが特に苦手ということだったんじゃないかと思える。
ただ、それがいじめを受けて以降身についた防衛的な態度なのか、以前からずっとそうなのか、というところまではなんとも言えない。今後仁菜の過去が描かれるとすれば、そこらへんも明らかになるのだろうか。
●Bパート
いきなりストリートライブ
日曜の昼、桃香の部屋に集まる三人。桃香からストリートライブが決まったといきなり告げられて驚く仁菜とすばる。
最初は曲を録って動画を(ネットなどに)上げるという話だったようだが・・・
「なんかライブって感じがするんだよね・・・この3人って」
「この前送ってきた写真見て思ったんだ・・・なんか二人とも、ぬぐえない不幸感というか、不満がにじみ出てる」
「失礼な」
「そうですよ!」
ホントに失礼だと筆者も思うが、「そこがいいと思った」という桃香。仁菜も「わからなくもない」と渋々納得の様子。
ちなみにこの前送ってきた写真というのは、おそらく二人のハチ公前ツーショットのことだろう。そこから考えると、桃香の「いきなりライブ」という判断にもそれなりの根拠が見えてくる。
つまり「なんかライブって感じがする」という直観も実際あるのだろうが、写真から二人が打ち解けたことを知って、「ライブでもいける」(やり直しができる録音とは違って、ライブはメンバーが呼吸を合わせることが不可欠だ)と判断した・・・という部分もあるんじゃないだろうか。そして何ごとも実践に勝る経験は無い。
ベース不在でもライブできるのか、というすばるの疑問に打ち込みとループマシンで対応するという桃香。バンドや機材のことを良く知らない視聴者もいるかと思うので、さりげなくこういった説明も入るのは嬉しいところ。
しかし、人前で歌うということに怖気づいたか、逃げ出そうとする仁菜。
いざとなったら自分がなんとかするという桃香だが、だったら桃香が歌えばいいと反論する仁菜。(一理あるかもしれない。)
「あたしは仁菜のボーカルが聴きたいんだって」
「どうして・・・」
「歌えばわかる。私を信じろ」
返す言葉はないが、帰ろうとする仁菜。「バンドも辞めるでいいんだな?」と問われて「はい、ありがとうございました!」と出ていってしまう。
追いかけようとするすばるを「大丈夫」と遮る桃香。
その言葉通り、しばらくして戻って来る仁菜。
「ズルいですよ!バンドを人質にとるなんて!」
「理論が破綻してるぞ」
「だって、私は・・・」
「ビビるな!うまくいこうがいくまいが、成功しようが失敗しようが、おまえはどっちにしろ後悔するんだ・・・そういう性格だからな」
「そんなこと・・・」
「事実だろ。だったら素っ裸になって思いっきり、今感じてることだけ歌えばいいんだよ。違うか?」
「はい、ニーナの負け~」
「すばるちゃんは黙って!」
「その怒りを歌にぶつけろ!それがおまえの本音だ」
二人の”問答”
ここでの桃香の仁菜に対する理解というかその表明ぶり(知り合ってそんなに間もない相手に対する、おまえはこれこれこういう奴だ、という宣言)もなかなかスゴいのだが、そこを除いてもここの一連のやりとりは興味深い。
というのも、桃香と仁菜の会話は実は噛み合っていないように思えるからだ。
仁菜の主張は「何の経験も無いのにいきなり人前で歌うなんて」という、つまり「もうちょっと段階踏みましょうよ」というのがポイントのように思えるが、桃香の反論はストリートライブで歌うことは前提で、ライブにあたっての心構えみたいな話をしているように思える。
そう見ると桃香が高度な話術で仁菜を言いくるめたようにも思えるが、実際桃香がそのつもりだったかどうかはわからない。(たぶんそういうことでもないだろう。)「ニーナの負け」と言ったすばるの評価は正しいが、どちらかと言えば議論の勝ち負けと言うより、桃香の熱意に仁菜が押し負けたかたちだろう。
ともかく、結果的に仁菜は説き伏せられてライブへの参加は確定となったようだ。
そのとき、光があふれた
音合わせのため、カラオケ(スタジオ)を訪れた3人。
仁菜が作った曲も盛り込んで、ライブ用の曲を桃香が作ったらしい。歌ってみようと言われて戸惑う仁菜だが、桃香は「どうせうまくいかないんだ。どうせ失敗するんだ」と意に介していない。
発声練習から、徐々にボリュームを上げる仁菜。桃香がギターを重ね、ドラムもそこに合わさる。するとそこに光があふれた。
セッションが終わって、「すっごい鳥肌立ってる!」と仁菜。
「あーあ、桃香さんの罠にハマっちゃったな!これ知ったら、絶対にやめられなくなる!」
「でも、どうして・・・」
「人間にはさ、音に合わせて身体動かす遺伝子が入ってるんだよ。歌や踊りは、人間の本能なんだって」
すばるのセリフは、自分自身がそれくらいバンドに魅了されているということも意味しているだろう。そして本能の話は、「音楽」を取り扱う作品としてはけっこう根源的なテーマにさらっと触れているようにも思える。
ややぼーっとした桃香。すばるに水を向けられて我に返ったような反応を見せる。
「どうしました?」
「改めていい声だと思ってさ・・・」
「本当ですか?」
「ああ、私も鳥肌立った」
筆者の好きなバンドであるサンボマスターの山口隆氏のインタビューか何かで以前読んだと思うのだが、初めてメンバーで音合わせをしたときに「火花が散った」だか「電気が走った」といった表現を用いて「何かが始まる予感がした」という話をしていたように記憶している。
このシーン、桃香はこの中で誰よりそういう「始まりの予感」に打たれていたのではないか・・・彼女の忘我の様子からはそんなことを想像してしまう。
結成、新川崎(仮)
スタジオを出て、いつもの吉野家。
仁菜は歌いすぎて声が嗄れてしまったようだ。
するといつもの店員さんが「3ピース(バンド)」ですか?と声をかけてくる。よかったら見に来て、とバンド名刺を渡す桃香。
仁菜たちのバンド名は「新川崎(仮)」になったようだ。
一方店員さんの方も自分たちのバンド名刺(?)を持っている・・・牛丼屋の店員さんが「beni-shouga」というのもなかなか・・・
二人が本筋に絡んでくるのも近いかもしれない。
店を出て、これからバイトだと言う桃香。あの・・・あなた思いっきり生中いってませんでしたかね???
3人での初ライブ
いよいよライブ当日。場所はラゾーナ川崎プラザのルーファ広場、グランドステージ。桃香とすばるはスタンバイしているが、センターマイクの前に仁菜の姿はない。
時間は少し戻って楽屋のシーン。いつもの服装でやってきた仁菜に対して「心から裸になれ」と言う桃香。仁菜の衣装を準備してあったようだが・・・
再び現在。「業務連絡」としてマイクで仁菜に語りかける桃香。
「仁菜が絶対嫌がる衣装の方がいいと思ってさ。
余計なこと考えるな。本当に思っていることだけを、気持ちだけを、ぶつけろ」
「心配するな、私が保証する。
仁菜は気が弱いくせに意固地で、臆病なのに自信家で、自己矛盾のコンプレックスの塊で・・・」
聞きながら「トゲ」を放射する仁菜。「嬉しくないです!」と返すが、桃香は続ける。
「それだけ仁菜は鬱屈して、エネルギーが溜まってる。
それは・・・紛れもない、ロックだ」
「誰もおまえのことを知らないし、誰も待ってやしない・・・でも、それが面白いんだろ?」
とんでもない衣装で飛び出した仁菜。桃香の言葉からすると、どうせなら行くところまで行くべき、といった考えからのチョイスだろうか。
「仁菜は、ロックンロールなんだよ」
桃香とすばるのアイコンタクトで、曲が始まる。
曲を終え、観客からは拍手と歓声が送られる。
「なんか、すごい・・・ロックだ!」
やりきった笑顔を見せる仁菜。
第三話はライブシーンがED代わりとして、ここで終了。
<第3話挿入歌「声なき魚」>
ライブシーンの演出
途中で観客が仁菜の姿になっている演出は、いろいろな解釈があるかもしれないが、仁菜が現状、自分自身に向けて自分のために歌っているということの表現ではないかと思う。第一話でも、歌っているときに過去の自分と向き合うような映像演出があったが、そこらへん一貫性がある気がする。仁菜の内的世界に変化があれば、こういった演出の方向性も変化していくのかもしれない。そこは今後の展開を楽しみにしたいと思う。
ふと、Aパートの序盤で桃香の部屋から勉強しに帰ろうとするところの仁菜のセリフを思い出した。
「誰に言ってんだ・・・」
「私にです!」
もともと「自分に言い聞かせる」みたいなところがある子なのかもしれない。それが「歌う」という表現の姿勢にも表れているような・・・
●全体的な感想
仁菜とすばるが打ち解け、まずは3ピースバンドとして活動がスタートすることになった第三話。なかなかスピーディーな展開で、楽曲も毎話のED・挿入歌と新しい曲が聴けるのが嬉しい。
それにしても(偏った目線で恐縮だが)今回披露された桃香のタラシっぷりときたらどうだろうか・・・
この短期間で仁菜の理解者面(悪口ではない)を隙あらばキメてくるわ、「私を信じろ」とか「改めていい声だと思って」とか、んで思いっきりディスったと思ったら「お前はロックだ」とか持ち上げたり・・・これって仁菜の欠点含めて(桃香の中の「ロック」という視点からではあるが)存在の全肯定なんですよね。まあ仁菜は気づいてか気づかずか、前回第二話のラストで「そんなのいらないぃ~!」って泣いてたように桃香の全肯定にトゥンクしたわけではないのだが、この第三話のラストは桃香の思う「ロック」が少し仁菜とも共有されたってことなのかな、と思う。それは仁菜のやりきった笑顔と「なんか、すごい・・・ロックだ!」というセリフにもあらわれているのではないだろうか。もちろん、すばるも同じステージに立ってそれを感じていただろう。
・・・なんて思ってたらいきなりすばる脱退の危機っぽいんですケドぉ!?
待て次回!!
2024-04-21追記:第三話について追加の感想を書きました