初めての卒業生
入学時から3年間担任をした16人の生徒たちが卒業した。小規模校で単学級のため、3年間持ち上がることが可能なのだ。恐らく、このような経験は2度とできないだろうと思うし、できたとしても、この16人との思い出に勝るとは思えない。それくらい濃密な3年間だった。
16人しかいないと思うかもしれないが、本校とすれば、16人もいる学級である。彼らの入学時、全校生徒は29名。全校生徒の半数以上を占める1年生が、否が応でもあらゆる場面で学校の中心となった。2年生に進級しても全校生徒は40名。3年生は10名ということもあり、3年生とともに学校をリードしていた。
この2年間の経験もあって、今年も見事に最上級生として学校を盛り上げ、リードした。いつも元気で明るく、仲間思いで行動力がある個性豊かな16人の生徒。こんな素晴らしい中学生は世界中を探しても、他にいないだろうと思う。もちろん完璧ではない。あらゆることができるわけではない。しかし、こんなにも様々な課題に対して熱量高く、真剣に取り組み、成功すれば大いに盛り上がり、成功しなければ本気で悔しがることができる中学生が他にいるだろうかと思う。それくらい素晴らしい、最高の生徒たちだったと感じる。
入学当時は激しい言動が目立ち、引継ぎ内容を確認しても非常に苦労しそうなことは明白だった。しかし、最初の学年部会で保護者の前で「子供たちの個性をできる限り受けとめます」と宣言した。小学校時代から学級崩壊に近い状況を2度経験してきた生徒たちを押さえつけることができるわけがないと考えていたし、押さえつければ3度目の状況を作りかねないと考えていた。だからこその宣言だった。
しかし、小学校の四則演算が危うい生徒、激しい言動が目立つ生徒、話を聞いてもらいたい欲求が強い生徒、非常に学力は高いが人間不信の生徒、人前に立つことにコンプレックスを抱える外国籍の生徒、自己表現が苦手な不登校の生徒、男性恐怖症の生徒など様々な課題を抱える生徒たちを受けとめることは至難の業だった。それ故、学級としてまとめようとは思わなかったが、希望が見えたのは、宿泊学習で生徒たちが考案したレクリエーションを実施した時のことだった。我々からすれば何のことはないレクだったが、誰もができる、何なら小学生の時にやって楽しかったことをやったらしいのだが、非常に盛り上がった。それも誰一人仲間外れになることなく、全員が楽しんでいた。少なくとも担任の目にはそう映っていた。一人ひとり、あるいはペアで何かすると、豊かすぎる個性がぶつかり合ってしまうが、集団として全員が混ざり合うことで絶妙なバランスがなりたつことを発見できた瞬間だった。
どの組み合わせにすればもっとも学級として輝くことができるかに焦点を置き始めたのは、その時からだと思う。最終的には3年生の夏、5つの班に分かれて話し合いをするときに、意図的に分けた各班内の出席番号が最小の生徒を時計回りに、出席番号が最大の生徒反時計回りに班を3回入れ替えると学級における学びの最大化を実現(限りなく多くの生徒が授業のねらいを達成)できる組み合わせを発見することができた。そして、この取り組みを研究授業で公開した。今振り返れば、その授業は3年間で16人の生徒と作り上げた最高の学びの時間だったと感じている。集団を活かすことで、結果的に一人ひとりが活きている不思議な感覚だと感じた。
学習面で一人ひとりが活きてきた成果か、2学期に入ってからテストの成績が向上してきたと記憶している。また、運動会や文化祭では、互いを支えあうこともできるようになり、さらに集団として成長していった。3年生2学期にして、好循環が生まれ、それは今日まで続いた。
いつも元気で明るく、仲間思いで行動力がある個性豊かな16人の生徒。いつでも楽しく、落ち着いた生活を送っていたわけではなかったが、今日ばかりは君たちと過ごした時間の中でも良い面が強く思い出される。どうか、いつまでも元気で、幸せな人生を歩んで行って欲しいと願っている。
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