【逆噴射小説大賞ピックアップ】2023年版 その肆
逆噴射小説大賞の応募作品のなかから僕なりにテーマを決めてピックアップをしていきます、の第四回目です。今回で最終回なので、いつもより多めに景気よくドーンといきます!
おかみ様の遣わすもの
現代的な怪談って「日常のすぐ隣にある怪異との遭遇」に怖さがあったりするわけですが、この作品は日常っぽい何かがむしろ怪異である、という転倒がおもしろいと思いました。宇宙飛行士っぽい人たちが怪異なのではなく、実は日常の方が怪異という。というかですよ、登場人物が「シカ(鹿?)の代わりに狩れてよかった」的な発言してますが、もしかして食べてしまうんですか……? 宇宙飛行士っぽい人たちを……? え……?
ザメラの慟哭
逆噴射2023初日を迎えた深夜、しゅげんじゃ氏はパルプ飲み三次会の場にいた……もはや終電はなかった……そして三次会まで生き残った皆で零時投稿作品を読み進めていったわけだが、酔っぱらい過ぎていて文が頭に入ってこないという問題に直面した……。しかし! 唯一この『ザメラの慟哭』だけは、酔っぱらった脳にもスッと入ってきて「あ、これはすごいな」と思わされたのでした。それだけ物語の筋がわかりやすく、かつ、リーダビリティある文章だったということですね。展開にエモがあり、さらにこの先に待ち構えるであろう状況がタイトルによって予示されているのもよいなと思いました。僕は富野由悠季が好きなんですが、ガンダムにしてもエヴァにしても、人が搭乗するロボ的な「人ならざる何か」というやつは、登場人物を神話化するための装置なわけです。つまり、アムロやシンジは人ならざる何かに搭乗することで神にも似た存在にまで拡張され、神話を演じるようになる。この作品にはそういった感触もあります。ゴジラを見ればわかりますが、怪獣もの自体、現代の神話ですからね……。
盤蠱覚龍征伐譚
特殊な世界観を持った作品というのは800字制限の逆噴射ではけっこう不利な側面があり、過去の逆噴射でも魅力ある世界観なのに説明だけで終わってしまってもったいない……みたいな作品はいくつもありました。でもこの作品はかなり独特の世界観を持ちながら、「龍」というわかりやすいイメージを軸にして読者の想像を補いつつ、物語の展開と人物の動きのなかで設定を自然にわからせていくという、とても巧みなことをやっていて素晴らしいなと思いました。平易な文章でリーダビリティも高く、独特な世界にスッと没入させつつ、先の展開への期待も持たせている。うまいなぁ……。
シーカー・ダブルナインの冒険
800字に過不足なく情報が収まっていて、かつ、最後の引きも含めて小説として歪なところがまったくない。完成度が高いなぁ……と印象に残りました。SFではありつつ、同時に異形の英雄による異世界での冒険譚……ということで、フォーマットがファンタジーなところもおもしろいなと。
迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ
この作品にはとにかく浪漫がある! 西域を目指す旅……そのイメージには我々人類の胸をときめかせる浪漫があるのだ……! 内容も小気味よい冒険譚であり、大男と半人半鳥の異形少女のふたり旅というシチュエーションも、思わずありがとうございました……と言いたくなるぐらい浪漫が溢れている! ややもすると小説の冒頭というよりは映画のワンシーンっぽくなりそうなギリギリのラインを攻めているけど、それも作者である、のざわあらしさんにとって一番おいしいイメージをしっかり文章にした結果なんだろうなと感じる。なによりも読後「あー、めちゃくちゃよいな……」と呟いてしまうだけの魅力がこの作品にはある……! かなり好きです。
グリッチマン
なんだろう、起きている事象は悲劇というよりはたぶん喜劇寄りなんだけど「叙ン」という存在になんだか悲哀のようなものを感じてしまう。どうか叙ンには幸せになってもらいたい……けど、たぶんそうはならんのだろうなぁ……などと思えてしまって、妙に印象に残ってしまった。叙ンくん、がんばって……!
贖命のダイヤモンド
中国武侠ものの佇まいがあり、浪漫がある……! 舌技という異能もギミックとしてひねりがあっておもしろく、敵と思われる人びとを「ただの人間」と言い放つ登場人物たちも魅力的。特に印象に残ったのは最後の一行で、
このシーンが映像として鮮やかに目に浮かんできて「あ、すごくいいな!」と思ってしまった。「虎のようにしなやかに立ち上がった」ってめちゃくちゃいいな。よい引きの文章。
陰膳
「日常自体が怪異だった」という作品がまたひとつ……! 淡々としていて、むしろ穏やかさすら感じさせる描写のなかにスッと差しこまれる凄惨な異物。でもそれすら「日常ですよ?」と言わんばかりに淡々とした描写は続く……続くんだけど、あきらかになんらかのスイッチが入っているし、なんらかのボルテージも上がっている。当然、読者は思わず息を呑んでしまう! そして「なんなのこれは!?」となってしまうし、最後には「鳥居の内と外にもなにか秘密があるの……?」とさせられる。とにかく続きが気になってしまう作品でした! 素晴らしい。
白いあなたを探してわたし
鮮やかな印象のボーイミーツガールもの。ただしガールは人間ではなく、主人公が設定したアバターが現界した姿、というイメージがおもしろいなと思いました。最後の急展開から見えてくる景色が鮮烈で、とにかくそれがすごく印象に残りました。なんというか、作画と演出が巧みなアニメの、第一話の引きを見ているような。そんな気分になりました……!
黒羽根どもを墜とせ
今回の逆噴射、鳥人間ネタが多くない……? それはさておき、この作品、時代物としての雰囲気をしっかり漂わせつつ展開していき、しかし最後の最後で迸るような描写を見せつける。それがとてもかっこいいなと印象に残りました。疾走感がある!
夜を突き抜けろ
ということで、とにかく「かっこいい」のひと言に尽きます。特にラストの
これを読んだ瞬間「なんだよこの主人公かっこよすぎだろ惚れんだろ……!」って思いました。
ヒュドラを運ぶ
敗戦を迎えつつあるなか、朝鮮半島北方から逃れようとする家族たち。歴史に疎い人でも「なにか大きな災厄に見舞われている」という緊迫感は必ず伝わるであろう筆致が素晴らしい。夫が戦場から帰らぬ状況で、戦禍の中を子どもたちを連れて逃げなければならない……しかし子どもたちはヒュドラ、つまり多頭の怪物じみていて、戦時下であっても大人の思い通りに動くわけではなく、主人公を苦しめることになる……。「運ぶ」というタイトルがいろいろな意味を含意していそうで、ぐっと胸が詰まってしまう。800字でここまでいろいろ込めるのは本当にすごいなと思いました。
バキラが首都にやってくる
めちゃくちゃおもしろい……! バキラ、ガロフ少尉、副官の人、ラー総統……冒頭800字だけで登場人物全員の魅力が伝わってきて、これは素直に「続きが読みたい!」と思わせる。アッパーなテンポで人物の目的や背景を、説明調にならずに展開のなかで描写していて、娯楽としての完成度がとても高くて素晴らしいなと思いました。かなり好き。
地雷拳
そもそもタイトルが『地雷拳』だし、物語の雰囲気も昭和特撮じみた佇まいであり、普通であれば文章が笑ってしまいかねない危険な素材で詰まっているわけですが、それをまっとうな小説として成立させ、真顔で提示しているのがとても素晴らしいなと思いました。ラストに到る描写の疾走感と、ビジュアル(夜空を覆い隠す巨拳!)も印象的で、「こ、これは絶対におもしろくなる…!」という予感とともに読み終えました。この作品、かなり好きです。
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ピックアップは以上です。
本当はもっといっぱい語りたい作品がありますが、ここまでで41作品ピックアップしたので、さすがにこれ以上は自重しました……。逆噴射小説大賞、本当にめちゃくちゃおもしろいですね……!
【おしまい】
【おまけ】しゅげんじゃ氏の応募作
ライナーノーツもあります。
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