【逆噴射小説大賞ピックアップ】2023年版 その参
逆噴射小説大賞の応募作品のなかから僕なりにテーマを決めてピックアップをしていきますの第三回目です。なおテーマは機密事項として非公開ですが、全体のトーンからなんとなく察することができるかもしれません。
では、やっていきます。
ドラゴンアンドデートドラッグ
パルプ的スピード感・グルーヴ感を出しやすいことから、冒頭疾走系(主に何かに追われてる系)って逆噴射では多いのですが、そういった類型のなかにおいてこの作品は秀逸だなと思いました。とにかくスラップスティックでありながら、バタついた感じにはならず、セリフ回しや掛け合いに瀟洒な感じも漂わせつつ、800字のなかで登場人物たちを好きになってしまう魔法がかかっている。とにかく楽しい気持ちにさせてくれる、こういうのはセンスが必要とされるのですごいなぁと思いました。
一夜で簡単天地創造(ただしねずみあれ)
チンチラ創世記! 逆噴射の作品群を読んでいるとき、「ねずみ」とか「チンチラ」などのワードを見かけるとなんだか故郷に戻ってきたような安心感を抱いてしまう……。偽りの郷愁と憧憬に苦しむ人物の悲哀が、セリフの掛け合いだけで胸に迫るほどに表現されていて、そういった造詣がとてもうまいなと思いました。悲哀が物語を推進する動機としても説得力があり、推進剤となっている。きっちりSFしているのも素晴らしいなと思いました。あと「ぷくぷくちゃん」というネーミングがかわいいです。
Rendez-vous in 那覇
なんだか奇妙な魅力がある! BLっぽい感じなんだけど、いやらしい感じがなく、物語のなかに熱量が滾っている。文のテンポ感もよく、特に「噂の通りだ」を繰りかえすことで全体のグルーヴを生みだしている。構成も進むにつれてどんどんと熱が高まっていく形になっていて素晴らしいなと思いました。最後の段落、引きのシーンも臨場感がありとてもよい!
貸せ、夜ふかしはこうやるんだ
近年、妙に増えてる「魔法少女もの」。みんな大好き魔法少女……という感じですが、この作品では魔法少女は中年男性であり、しかも読んでいくうちにそいつらはただのモブ戦闘員だと判明するわけですが、そこからさらに転回があり、鮮やかな引きへとつながる。とにかくラストの引きが印象的でした。
ギガデス
これは……なんなんだろう。いわゆる真顔ギャグ系なわけですが、文体に妙な圧があり、妙に心に残ってしまう。とにかく僕から言いたいことは、往来のど真ん中で、股間に被せたペストマスクの鼻先を上下させるのは今すぐやめなさい、ということです。
逆襲
初期の逆噴射ではこういう作品が多く、なんだか懐かしい気持ちになったので気がついたらツイートして取りあげてしまっていたし、こうやってピックアップしたりもするのである! いいですね、こういうの。癒しがある。
急患再び
今年は掛け合いのセンスがよい作品が多いなと感じていて、この作品もその一つです。主人公たちがどのような存在なのかも掛け合いの流れのなかでスッと入ってくるのがよいなと思いました。特に「抜歯サービス」に関するやり取りがいいですね。
オーバーライト・トレジャー・ランド
読み終わった瞬間に「ええええええ!?」となり、次の瞬間、笑ってしまっていました。今年の逆噴射作品中、一番笑った気がする。本当にこれはズルいというか、ひどいというか……。高い筆力で丁寧に、ゆるい感じで描写が続いていって(そもそもそういうなんともない描写をスルスルと読ませるのがすごいわけですが)、最後にあんなのが来るとか、あまりの落差に笑うしかない……! とにかくおもしろかったです。
叔父の遺言
冒頭から猫配膳ロボとラジオの掛け合いというシュールなシチュエーションが繰り広げられて、妙に気になってしまう。ほとんどふたり(?)の掛け合いで800字は終わるわけですが、最後の引きで思わずくすりとさせられ、このふたり(?)がこれからどうなっていくのか、気になってしまいました!
ぼくは(狂った)王さま
ファンタジー世界を舞台にした童話風の文体で、唐突に出てくる電車乗りつぎに思わず鼻水を噴いてしまう(本当に噴いたわけじゃないですよ!)。この作品、きちんと続きが連載されていて、回を追うごとにシュールさを増していってめちゃくちゃ面白いので是非皆さま、読んでみてください! まじめにお勧めです。(続きは最後の「続く」のリンクから読めます)
【今回は以上です】
【おまけ】しゅげんじゃ氏の応募作
ライナーノーツも書きました!
ピックアップはたぶん次回で最終回です(たぶん)。
きっと励みになります。