ニルラポランと君は笑った
ポラペニアンとマニャマニャの二人がテレタンのオアシスに辿り着いたのは、蛙の太陽が真上に、そして亀の太陽が西から昇り始めた頃だった。
「うわぁ」
ポラペニアンの丸い顔がぱぁっと輝く。それはまるで、かのゾラの花が咲いたかのようだ。市場の賑わい。異形の人々。奇怪な大道芸。ポラペニアンのふっくらとしたほっぺがぷくりと膨らみ、その小さな体がバザールの中を跳ねるようにして歩いていく。そのふわふわの衣服が綿毛のようにぽよぽよと、楽しげに弾んでいる。
その後ろをマニャマニャはしずしずと歩く。まるでハラナの女神像を思わせる端正な顔立ち。その真っ白な長衣はキラキラ輝く川のようになびき、道行く人々がその美しさに目を奪われていく。
「ねぇ!」
ポラメニアンはとある店先を指差した。
「マニャマニャ、これおいしそうだねぇ」
マポマポマポ……
マニャマニャの体から奇妙な音が漏れ出し、その瞳の奥で何かが明滅した。それから間もなくして、マニャマニャは口を開くことなく語り始めた。
「〈模造〉である私には、味覚についての判断はできませんが……」
ポラペニアンの瞳がくりくりと、その次の句を待ち構えている。
「私の〈スーベニア〉にはこう刻まれています。テレタンの砂弾揚げ、それはとても美味であると」
──それからしばらくして。
ポラペニアンはご機嫌だった。その抱える袋には砂弾揚げが満載だ。
「おじさん、いっぱいくれたねぇ」
店の主人がマニャマニャに舞い上がってしまったのだ。「あれ」ポラペニアンはふと足を止め、空を見上げながら首を傾げた。
「あれなぁに」
青い空の上、色とりどりの鮮やかな色彩が輝き、万華鏡のようにぐるぐると美しい紋様を描き出し続けている。
マポマポマポ……
「ポラペニアン、あれは〈戦花火〉です」
その周囲ではテレタンの人々も空を見つめながら「今年もいよいよ始まりましたな」「〈戦花火〉を眺めて一杯、いかがですか」などと嬉しそうに語り合っている。
【続く】
【後書きっぽいやつ】
これは「第二回逆噴射小説大賞」応募用に考えたものの、没になったネタを逆噴射レギュレーションである800字フォーマットに落とし込んで(実際、この文章は800字ぴったりです!)放流したものです。ちなみに没とはいっても、この話は不定期に続きを書いていこうとかなと思っています。
と言うのも、以前からずっと「気軽に寓話を描ける舞台設定が欲しいな」と思っていたからです。イメージとしては諸星大二郎の異世界短編もののような雰囲気です。人間だれしも生きていく中で、時事について一言いいたくなることもあるわけです。僕もそうです。しかしその一言が世間一般的には「過激」に分類されるような人間の場合(僕だ!)、それを言ってしまうと角が立つ。そうであるなら、寓話として創作に落とし込んだうえで表現すればいい……常々そう思っていたのでした。
何はともあれ、こんな感じで逆噴射小説大賞期間中は応募作だけではなく、積極的に没ネタも投稿していこうかなと思っています。ちなみに専用のマガジンも作ってあるのです! よろしくおねがいします。