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最終話「不屈のハガネ (前編)」 #死闘ジュクゴニア
【目次】【キャラクター名鑑】【総集編目次】
<前回>
ハガネは上空を見た。二人も続くように空を見上げた。そこでは壮絶な戦いが繰り広げられている……神話的な、終末の戦いが。
ハガネは叫んだ! 「行くぞッ!」
カガリが拳を振り上げる! 「おうッ!」
ミヤビは静かに頷いた。
「これで最後だ……!」
三人は同時に叫んでいた!
「「「これで、終わらせてやるッ!」」」
戦場を流星のごとき煌めきが覆っている。その煌めきの中で、繰り広げられるのは凄惨な死闘だ。
そしてその上空。金色の雲がたなびき、そこからは血の色の雨が降りしきっている。
世界が、揺れている。
「はッ……ははははははッ!」
女神のごとき顔を歪ませて、ミリシャが笑っていた。
「ふふ……」
対峙するのは、ハンカールの冷たい眼差し。
「ハンカールさん」
ゴウマはハンカールを見つめ、うっすらと微笑みを浮かべた。
魔人たちは笑っている。
戦場の遥か上空──天頂で対峙する、三人の超越者たち! ミリシャ。そしてハンカールとゴウマ。世界において並ぶもの無き、神のごとき存在たち。その三人が今、二手に分かれて争っている。
この争いは世界の行く末を決する戦いだ。この戦いは創世の理(ことわり)を確定させる──まさしく、創世の大戦である!
「歪め……その姿を変えよ……潰れて……死ねッ!」
ミリシャの体から血色の渦が迸る。同時、ゴウマを囲む円環に連なる六つのジュクゴが炸裂する!
「六道……輪廻ッ!」
その円環から放たれた六色の輝きが、血の渦を弾き、金色の雲へと変えていく。金色の雲から、戦場へと血の色の雨が降り注いでいく。「ははは……お子さま風情が、なかなかやるじゃないか」ミリシャは二人を見下ろすように上昇していく。
ゴウマは首を傾げ、怪訝そうに手を広げて閉じる動作を繰り返した。
「ふふ……」ハンカールが笑った。「ゴウマ……うまく動けずとも、焦る必要はない。お前の力はまだ覚醒途上だ。焦らずとも、いずれはすべてを超越する。それがお前だ……六道のゴウマ」
「はい、ハンカールさん」
「ははは……」ミリシャもまた笑った。「覚醒途上? くだらない戯言じゃあないか……。なぁ、ハンカール、お前は結局、口先だけのゴミカスだ。虫けらのごときお前らがいかに喚こうが……」ミリシャは裂けんばかりに口角を上げた!
「確定的に、この世界は滅ぶんだよッ!」
世界が揺らぎを増していく! 世界五分前創造仮説の聖歌が、猛るようにその声量を上げた。血の色の迸りが渦を巻き、そしてその渦を通るようにして……
「お母さまーッ!」
ピエリッタが、暗黒の雷を纏いながら飛び出した! そして、凄惨な笑みを浮かべて叫ぶ!
「てめぇらぁッ! あはは……闇に飲まれて……死ねッ!」
その広げた両腕から、漆黒の闇が拡がった!
その闇は七字のジュクゴを形作っていく……それは!
実 存 的 虚 無 主 義 !
「ふふ……虚無と虚構、そして無敵の力……いささかやっかいだ」
「ははは! これで形勢逆転だなぁ、ハンカールッ!」そう叫ぶミリシャにゴウマが飛び込み、六色の輝きをまとった拳を振るう! ミリシャはそれを躱す。
「おやおや、元気な坊やじゃないか。ははははッ…………は?」
その瞬間、ミリシャの口元から血が零れ落ちた。「こ……れは……?」ミリシャは表情を変え、ゴウマを見た。ゴウマの輝きがより一層強まり、神々しき光を放っている!
「!?」ミリシャは、ゴウマの幼き表情が変わりつつあるのを見た。それはまるで……「フシト……?」
ゴウマはミリシャと真っ向から向き合う。「……!」ミリシャは声にならぬ呻きを上げた。フシトを彷彿とさせる美しき顔が、ミリシャを静かに見つめている。
そして!
ミリシャは視線を一瞬だけピエリッタに移し、「チ……ッ!」舌打ちとともに吐き捨てた。「役立たずのバカが……ッ!」
それはミリシャがゴウマの攻撃を躱した、一瞬の出来事であった。
ハンカールの摩訶不思議、そして希代不思議の輝きが、極光のように揺らぎながら、ピエリッタを捉えている。「あれ……あれッ……?」その闇は圧倒され、ピエリッタは震えて悶えていた。
ハンカールは冷たく笑った。
「ふふふ……言ったはずだ。わたしにはわかると。この戦いの行方も、お前たちの最期も、すべてが、このわたしにはわかる。そしてこうも言ったはずだ……ゴウマはすべてを飲み込むのだとな」
その瞳が嘲笑うようにピエリッタを見つめている。
「ふふふ……礼を言うよ、虚無と虚構の娘よ。お前は実に良くやってくれた」
「な……んだと……てめェ……」
「すべては大いなる計画だったのだ。お前がハガネを導く。フシトが倒れ、ミリシャが復活する……ふふふ……そして、そのすべてをゴウマが飲み込む。世界は永遠のものとして完成する」
「な……んッ……?」
「そして今、その大いなる計画は完了しようとしている。そうであるなら……」
(あ……?)
その時、ピエリッタは直視してしまった。冷たい、凍えるようなハンカールの眼差しを。ハンカールは輝きを放つその両手を、握り潰すように閉じた!
「お前はもう用済みだ、道化」
その瞬間、ピエリッタの左目から迸っていた雷(いかずち)のような輝き……「敵」の字が……弾けた!
「あァッ!?」
ピエリッタは左目を押さえ、呻いた。その左目から輝きが煙のように立ち昇り、ピエリッタから抜けていく……それはジュクゴ。無敵のジュクゴの輝きだった。ピエリッタは叫んでいた。
「なんだよッ! なんでだよッ!」
ピエリッタから離れた無敵のジュクゴが一人の少年の姿を……アガラの姿を形作った。アガラはピエリッタを見下すように壮絶な笑みを浮かべ……直後、閃光を放って、あっさりと散っていった。
「あァァッ!?」
実存的虚無主義のジュクゴが朽ちるように崩壊を始める。そして崩れていく闇とともに、ピエリッタもまた浮力を失い、墜落していく。
「そんな……そんな……お母さまッ!」
「使えないやつ……」
ミリシャは苦々しげな表情を浮かべ、ハンカールとゴウマに向き直った。ピエリッタを一瞥することすらなかった。
(え……なに……?)
ピエリッタは目を見開き、遠ざかるミリシャを見た。
(あたし、見捨てられた……?)
ピエリッタは落ちていく。そして、己から溢れ出した虚無の闇を制御できずに、その闇に覆われ、飲み込まれていく。
(なんなの……これ……お母さま……あたしの今までは……あなたに捧げた、あたしの人生は……)
ピエリッタは溺れるようにもがいた。
(ふざけろ……ふざけろよ……! こんなの……こんなのって)
ピエリッタは喘ぎ、叫んでいた。
「嫌だよッ! こんなの、嫌だッ!」
激しくもがく。しかし、闇は容赦なくピエリッタを覆っていく。
ピエリッタは落下を続けた。
(あ……?)落下していく闇の向こうに、かすかに光が見える。(あ……れは……)
ピエリッタが落ちていく闇。そのさらに向こうの下方から、光が昇ってきているのだ。
(あれ……は……!)
それは輝ける翼だった。火の粉をあげ力強く羽ばたく、不撓不屈の翼!
「あ……」ピエリッタは魅入られたように輝く翼を見つめた。それは、美しかった。
落ちゆく闇と、昇りゆく輝きが、刹那、交錯する。
永遠にも感じられる交錯の一瞬。ピエリッタは、翼の輝きだけを見つめていた。ハガネの背にはおぶさるように、劫火のカガリ。そしてその右手……花と粉雪で作られた階段を駆け昇るのは、花鳥風月のミヤビ。
しかし、ピエリッタには翼の輝きしか見えていない。ハガネは……落ちゆくピエリッタのことなど見向きもせずに、ただ上だけを見つめている。
ピエリッタは手を伸ばした。「待てよ……」再び、時が動き出す。
「待て……」みるみるうちに、三人は遠ざかっていく。「おい……待てって……!」ピエリッタはすがりつくように呻いていた。「そうだ……あたしの虚構の力で造るんだ……新しい未来を……! ハガネ、君とあたしが力を合わせて、ハンカールどもをぶちのめす未来を造れば……あたしだって…………あれ?」
ごぼり、とピエリッタの口から血が溢れ出した。「なんで?」その胸から、刀が突き出している。「なんだよ……これ……」その刀からは、怨念のような四字のジュクゴが立ち昇っていた……それは、一撃必殺。
その瞬間、ピエリッタの瞳に揺らぐ虚構の二字が、ガラスのように割れて散った。「あぁぁぁ……そんな……そんな……あたし未来……あたしの未来がぁ……!」散っていく破片を掴もうと、ピエリッタは手足をばたつかせる。
その背後から女の声がした。壮絶な声だった。
「晴れた……晴れたぞ……霧のように覆っていた苦しみの記憶が……お前の造った嘘偽りが……今、消えたぞッ!」「お前……はッ!」
刀が抜かれる。ピエリッタは身をよじり、己の背後を見た。そこには恐るべき四字が……四つの瞳に輝く四字のジュクゴが、残酷な輝きを湛えながらピエリッタのことを見つめていた。それは……
見 敵 必 殺 !
「あ……?」ピエリッタは呻いた。その体から、急速に命が失われていく。背後の女……必殺のエシュタは悲しげに微笑んでいた。「ヴォルビトン……君との日々は幻ではなかったよ……やっぱり現実、だったんだよ」そして刀を振りぬいた。
ピエリッタの身体から頭部が切り離され、闇をまといながら、くるくると宙を舞った。
「さよなら」ピエリッタの胴体を蹴り、エシュタは飛び去る。そして、「あぁ……」ピエリッタは……ピエリッタの生首は、虚無の闇の中へと飲み込まれていく。しかしその瞳は、上空を羽ばたくハガネの輝きだけを見つめていた。
「あはは……なんだよ……」
ピエリッタの首は歪んだ笑みを浮かべていた。その見つめる先で、ハガネの翼は力強く、空高くへと羽ばたいていく。
「ずっと目をかけて……手助けもしてやったのにさ……お前、あたしのことなんて、まったく眼中にないじゃないか……あはははは」
乾いた笑いを響かせ、ピエリッタは……そのまま闇の中へと落ちていった。
☆
「どおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁあ!」
行く手を阻むジュクゴ使いたちを、カガリの炎が薙ぎ払う! ハガネ、カガリ、ミヤビ。降りしきる血の雨の中、三人の放つ光は三本の線となって、輝ける軌跡を描いていく!
ジンヤ断片の直上。斜めに伸びた巨大剣の背の上で、それを見上げる四人の姿があった。
「もう一度確認する……あいつらを全力で支援する。それで、いいんだな?」
造反有理のリオの問いに、ゲンコは力強く頷いた。
「はい、お願いします」
「無茶だ……ハガネ……ッ」隠密のステラが顔をしかめて呟いた。想像を絶するジュクゴ力(ちから)の激突。上空に広がる光景は、もはや人智を超えた神々の戦いだ。「くそッ……」思わず顔を背ける。こうして見上げているだけでも、正気を保つことすら難しい……。
「ゲンコねぇちゃん……」
泣きそうな顔で見上げるゴンタに、ゲンコは微笑みかけた。
「大丈夫だよ」
そしてまっすぐに、ステラを見つめた。
「絶対に、大丈夫」
ゲンコは祈るように胸の前で手を握り締めた。そして、上空へと伸びていく三本の輝きを、しっかりと見つめた。ゲンコは確信に満ちた声で言った。
「何も心配しなくたって、大丈夫」
それはどこか暖かく、そして優しい声だった。
「だって、ハガネは……そう、あの人は……」
ゲンコは知っている。
「不屈、だから!」
☆
「ハガネ……」ハガネを横目で見ながら、ミヤビは告げた。「ハンカールは、私が倒す」ハガネは黙ってそれに頷いた。
「貴様はどうする気だ。電光石火のライを……どうやって救い出すつもりだ」「俺は……」ハガネは拳を握り締めた。
「この拳で、ライさんに取り憑いたやつをぶっ飛ばして、吹き飛ばす。ただ、それだけだ」
ミヤビは一瞬、驚いたように目を見開く。「フッ……」そして笑い出した。「ハハハハハハハハハッ!」「なにがおかしい」「フフ……いや、それでいい……案外そういうもの、なのかもしれんな」
ミヤビは前を見た。その顔から笑みは消え、ただ覚悟だけが漲っていた。「ハガネ……」「……なんだ」「この戦いが終わったら、私は、貴様との決着をつける。必ずな」「……あぁ」ハガネは頷いた。
「なぁ」
ハガネの肩に顎を載せ、カガリが緊張感のない声で言った。
「あの白くてキラキラ輝いてるガキンチョ、あいつは俺たちに任せろ……ってリオが言ってた」「……リオ?」「うん。なんかゲンコたちと一緒にいたやつ」「ゲンコと……」「だから仲間なんじゃないかなぁ? リオ。あいつさぁ、態度でかいんだ」
ハガネは再び頷いた。「……了解した」
そしてまっすぐに上空を見る。金色の雲が荒れ狂うようにたなびいている。ハガネは叫んだ。
「行くぞッ!」
三人はたなびく雲を突き抜け……そして!
「ふふふ……」
ハンカールの冷たい眼差しが三人を出迎えた。
「わたしにはわかっていたよ……君たちが来るということがね」
その背後。凄まじい光を放ち、ミリシャとゴウマが激突を繰り返している。「おや」ハンカールは眼前をひらひらと漂う花びらを摘まみ、呟くように言った。
「散りゆく花は、美しい」
その摘まんだ花びらの向こうで、狂おしく花弁が舞い、粉雪が散っている。雅楽の音とともに、ミヤビが剣を構える。
「ハンカール……貴様は私が、倒す」
「ふふ……せいぜいやってみるがいいさ、ミヤビ」
ミヤビは……叫んだ!
「行け、ハガネッ!」
「あぁッ!」
ハガネはカガリを載せ、ミリシャとゴウマが争う方角へと飛んだ! ミヤビはその背中を見て、静かに笑った。不思議な感覚だった。敵だった少年に、まるで戦友のような想いを抱いている。そんな自分が、妙に可笑しかった。
「ふふ……ミヤビ。余裕だね」
「そうだな、ハンカール」
ミヤビはゆっくりと、その剣を天へと向けてかかげていく。
「今ここで、私は貴様を……超えてみせる」
【最終話「不屈のハガネ(中編)」に続く!】
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