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逆噴射小説大賞2021ピックアップ「僕のなかに強烈な印象を残した!」編

3つに分割したピックアップもこれで最後、今回は「僕のなかに強烈な印象を残した!」編です。逆噴射小説大賞2021を振りかえった時に、僕の脳内に真っ先に浮かぶ印象深い作品を集めています。作品ごとに書いてあるコメントが今までのピックアップとは明らかに異なるボリュームと熱量になっていますが、それはそういう特別なピックアップだから……ということです。その点、どうかご容赦ください!

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では、やっていきます。番号は前回からの連番です。

僕のなかに強烈な印象を残した!

63. 台風がやってくる

すごく嫌~な世界に、台風がやってくる! 作品の舞台はとてつもなく嫌~な管理社会なんですが、その社会ではとてつもなく嫌なことが当たり前となっていて、子どもたちはその当たり前を受けいれて明るく元気に生きている。ディストピア世界のなかで小さくてかわいいやつらが健気にやっている……これは実質ちいかわです!(アニメ化決定)
そしてそんな嫌~な世界に、当たり前ではない台風がやってくるのだ! こういうネタ、普通はマジで嫌な感じに仕上がってしまうわけなんですが、それをポップに仕上げている点に感銘をうけました。間違いなく人を選ぶ質感なんですけど、どことなく矢部嵩の「保健室登校」を思わせる質感もあり僕は好きです。実はすでに完全版が書かれていて完結している! すごい。書きあげるの早すぎでは? 完全版、めちゃくちゃお勧めです。最後まで読むとけっこう印象変わるかも?

64. 薄火点

「台風がやってくる」に続き、再び「誰も悪くないこれは悲劇や」さんの作品。薄灰色の世界。静けさと美しさと惨劇があり、そこに、黄昏のような情感をともなって謎が現れる。逆噴射小説大賞は800字制限なので、どうしても表現を切り詰めていくことになるわけです。そしてそのことによって、どこか小説としては歪な感触も生じさせてしまったりもする。しかし。この作品はそういった歪さをほとんど感じさせない。短いなかで読者にしっかりと独特の世界観を理解させ、後ひく謎と余韻すら与えていく。静けさをともなう余韻が本当に素晴らしいなと感じました。すごい。タイトルもシンプルで美しさがあり、好きです。

65. 銀の網

老人パルプの旗手、ジョン久作さんの作品。これはすごい! 淡々とした筆致のなかで、まず読者は主人公の思索と情報整理につきあっていき、スムーズに状況を理解し、自然と物語世界に没入していくことになります。その導入と誘導が素晴らしい。そこから静かに謎は立ちあがっていき、俄然、読み手は続きを読みたくなっていく! 応募作のなかで一番スキがついているのも、うなずけます。僕も続きが読みたいです! 「高齢者専門宅配弁当」という設定がストーリーと不可分になっていて、ギミックや単なるマクガフィン、ブラフではなく必然である点も素晴らしい。主人公はリタイアして第二の人生を送っている、そして「銀の網」というタイトル。全ての要素が「高齢化社会」という今を切り取っていて、時代性がある! 『サブちゃん』という屋号の響き、そのちょっととぼけたセンスがとてつもなくジョン久作さんらしくて好きですね。

66. 贖児の空

「オオアアアァァーッ!」

生々しい表現とともに、主人公は文字通り「生まれる」。あきらかに他の作品にはない奇妙なパワーがあり、強く印象に残りました……! 解かれるべき謎がしっかりと配置されていて、800字では完結せずに次の展開へと続いていく。あまり注目されていない作品ですが、「これはキテるな!」と感じました。これはよいですよ……!

67. 『ママ、おやすみのキスを』

ソフト・アンド・ウェットな質感に包まれている、あるいは、ミルフィーユのように繊細な、いくつもの膜に包まれている。そんなひんやりとした手触りのある作品。果たして「わたし」は「わたし」と言えるのだろうか? 発狂している海上都市のなかで、語り手である「わたし」自身は狂っていないと言えるのだろうか? 自閉し、閉塞していくような感覚のなかで、本当に未来は訪れるのだろうか? たしかなものがまったくないなかで、進むべき道の正しさを、どうすれば知ることができるのだろう? まるで迷宮のような物語で、ゾワゾワとくるような、独特の凄味があると感じました。すごい。

68. 代書屋ゴンドウ

お仕事もの。逆噴射小説大賞では例年「お仕事もの」ともいうべき作品がちょろちょろと応募されているわけですが、そんなお仕事もののなかでも、この作品は主人公のキャラクター造詣含め、きっちりとパルプに寄せてきている点が新しいなと思いました。行政書士としての専門知を背景に、ビズや相手との応酬描写などがあるのだろうな……という期待感を抱かせる。「きっとおもしろくなるぞ」と思わせるものがある!

69. 月面コンビニ事故物件

これはすごいですよ……すごい。冒頭の「月に人間が住みだした経緯についてはWikipediaでも見てほしい」の時点ですでにやばい。逆噴射小説大賞の参加者の多くが800字のなかにいかに情報を盛りこむのかで四苦八苦しているなか「Wikipedia見ろ」ですよ。えー、そんな説得力ってある!? というかそんな言葉がスッと出てくるもんなのか……? そして「デイリーヤマギシ モスクワの海店」。月を舞台にしたSF……かと思いきや、現代日本のローカルコンビニのような空気感で物語は進んでいく! 店先にジャリがたむろしてそう! さらには霊感だのお札をカリカリと爪でこするだの西洋甲冑だの……登場人物たちの言動や物語の展開、そのすべてが低知能で心地よく、すごく味わい深いものがある。なんだかよくわからないうちに読者は楽しい気持ちになっていく。タイトルの「月面コンビニ事故物件」も 、月面、コンビニ、事故、物件で 4・4・2・4 のリズムを刻み、月面と物件で韻を踏み、語呂がとてつもなくよい! これはほんと好きだなー。

70. 『僕が影と並んだ日のこと』

主人公と影の特別な関係。その関係性を軽快な会話と回想で展開しつつ、この物語のさしあたってのゴール(目的)が読者に提示されていく。とてもわかりやすい導入だな……と感心しながらと読み進めていくと、実はそこから……という! 800字最後の展開が鮮やかで、思わず「おお……!」となってしまいました。すごく印象に残りましたね。素直に続きが読みたいなと思いました。すごい!

71. 少女奔走要塞学校

超非日常のなかで疾走する学園恋愛もの! 危機が日常になっている世界において、危機のもとでも恋愛至上をつらぬいていく主人公。これはひょっとするとものすごい疾走感とパワーにあふれた作品になるのかもしれない……そんな印象を抱いてしまう。普通であればこういう世界でこういう設定だとバトルやアクションにフォーカスを置いてしまうところを、この物語はそうではなく、非日常が日常になってしまった世界での、ごく普通の、恋愛に夢中になっている十代少女を描いていくんだ、と予感させる。少女は奔走していく、要塞と化した学園のなかを恋愛成就のために……よい……! ちなみにこのタイトルも奔走と学校で韻を踏んでるんですよね。少女奔走、要塞学校。語呂がよい。

72. Groovy!!にさよならを。

ビシビシと躍動感が伝わってくる! リアルがあり「ここからはじまる物語」という感覚がある! めちゃくちゃよい! 今回、電楽サロンさんの作品はどれも素晴らしかったですが、特にこの作品には強烈な鮮烈さを感じました。

さて。
唐突ですが、ここからは少しだけ、僕の個人的な想いを書いちゃいます。

実は僕、電楽サロンさんには一方的にシンパシーを感じていて、というのも、今年開催された逆噴射小説ワークショップで逆噴射先生からがっつり厳しい講評をもらいながら(もちろんそこにあるのは厳しさだけではなかったわけですが)、それを前向きにとらえてがんばっている、そんな姿勢に「僕もそうなんだぜ」という共感を勝手に抱いていたわけです。実際、その後の電楽サロンさんはTHE ASAXAS CHAIN SAW MASSACREなどのすごい作品をうみだしていき、僕はそれを見て「おお、素晴らしいなこの人……」と思っていた……! だからひそかに「電楽サロンさんは絶対に、今年の逆噴射小説大賞で素晴らしいパフォーマンスを発揮するに違いない」と確信していた。そして、実際にそうなった!

73. 旗片の風

正直に書きます。これを読んだ瞬間、「もうこれが大賞でいいのでは?」と思ってしまった(※ 個人の感想です)。確かな筆致。小説としての完成度の高さ。凛とした佇まいを感じさせる。めちゃくちゃ感銘を受けました。作者の大塚葛さんは去年の最終選考作「さよならだけを人生にしたい!」でもそうでしたが、女性性が今以上に認められていない時代のなかで、したたかに生きていく女たちの姿を描いていて、それがすごく作品の背骨というか、ピンとした空気感をつくりだしている。物語に芯があり、華がある。本当に素晴らしいなと思います。

以上です!

全73作品のピックアップでした!

なお当然ではありますが、今回の73本は逆噴射小説大賞2021のすべてではありません。単にしゅげんじゃの見る目がなかったり、うっかりだったりで取りあげられていない素晴らしい作品はたくさんあります! 是非、探してみてください!

また、逆噴射小説大賞参加者のなかにはnoteや他媒体上で長編小説の連載を続けている人が何人もいます。思わず手に汗握るような、そんな作品が数多くあったりする。応募作品を通じて「お?」っと感じるものがあったら、その人の長編作品もチェックしてみるとよいかと思います!

さて、おそらく今年中には最終的な選考結果が出ることでしょう。どう転ぶのか全然わかりませんが、ドキドキしますね。楽しみです……!

最後に自作の紹介

えーっと、なんかここで自作を出すのもかっこ悪い感じがありますが、せっかくなので紹介させてください……!

1. いとしき祈りのグロビュール

壮大な宇宙神話。異種間百合!

2. 絶界のスティグマ

ゆくあてのない少年少女たちの壮絶な物語。孤独は力……!

3. 逆賊令嬢ライジング

とにかく明るく元気になれる、パワーにあふれた作品を目指しました! 自分が何者であるかは、自分自身が決める!

以上です。

【おしまい】

きっと励みになります。