地獄戦士ニンジャバスター__2_

サンタ・リベリオン #パルプアドベントカレンダー2019

『市民。サンタは禁止である』
『やめなさい! 今すぐサンタ行為をやめなさい!』

 威圧的な拡声器。〈抗サンタ委員会〉治安部隊の操る浮遊装甲兵器が、地上を舐めるようなサーチライトで照らしている。

「お姉さん……お姉さん!」

 燃え盛る車両のそばで、倒れた女性を抱える少年。女性が身に纏う装束は、赤一色で染まっている。

〈第一次ゾンビ戦争〉

 多剤耐性インフルエンザパンデミックの発生と恐るべきゾンビ兵団の出現。辺境のコロニーから生じた戦争は、数十万もの人々を死に至らしめた。

 その後の調査結果は衝撃的だった。パンデミックは人為的に引き起こされたものであり、その主導者はゾンビ兵団を造り出した者と同一人物──

 それは、サンタ装束を身に纏った謎めいた男である。

 その衝撃の事実に人々は震えた。醸成されていく「サンタは忌むべき存在だ」という空気。そして、世界にサンタクロース・フォビア(恐怖症)が吹き荒れた。

 世論に押されるように軍は先鋭化していく。やがて連合軍将校たちが軍事クーデターを決行。〈抗サンタ委員会〉による臨時政府樹立を宣言した。

 それから、2年あまり──。

 第1225番コロニーは燃えていた。
 方々で上がる火の手。路上には堆く築かれたバリケード。

『あなた! サンタ的になっていませんか?』
『サンタやめますか? それとも人間やめますか?』
『気をつけろ。隣人はサンタかもしれない』

 〈抗サンタ委員会〉のプロパンダ掲示板を叩き壊す人々。彼らは一様に赤い装束を身に纏っている──サンタ装束だ。それは人々の抵抗の証、プロテストの象徴だ。

「お姉さん! カミシロのお姉さん……!」
「う……セン……か……どうやら私は、下手をうってしまったようだな……」
「しっかり!」

 センと呼ばれた少年は今にも泣きそうになりながら、赤い装束──サンタ装束の女性、カミシロを揺さぶっている。その傍にはもう一人の少年、そして少女。二人とも心配そうに女性を見つめている。

「セン……」

 カミシロは震える手でセンの頬に触れた。そしてゆっくりとその傍らの少年と少女を見た。

「ラゥス……トニ子……うぅ」
「お姉さん!」
「私はお前たちに真実を話しておかなければならない……2年前……あの〈第一次ゾンビ戦争〉の真相を……」
「真相……?」
「そうだ……あれは……仕組まれたものだったのだ」

 力を振り絞るようにカッと目を見開く。

「〈抗サンタ委員会〉首魁……イ・トウによって……!」
「な、なんだってー!?」
「やつはサンタを怖れた……それ故に逆にサンタを脅威として抑圧する必要があった。だから、あのような戦争を……ゲホッゲホッ」
「お姉さん!」
「うっ……やつは……だからあのような戦争を仕込み、そしてサンタを人々から消し去ることに成功したのだ……」
「サンタを怖れるって……いったい……どういうこと?」

「サンタとは……力だ!」

「……力!」

 センはごくりと唾を飲み込んだ。

「セン、ラゥス、トニ子……お前たち三人は、私が見出した選ばれし存在……」
「選ばれし……存在!」
「感じるんだ。己の胸の裡を。お前たちの中に渦巻く、サンタの威を!」
「サンタの……威……」
「そうだ……お前たちならできる……お前たちなら!」

 センは己の胸の裡を見た。そしてそこに渦巻く力強い力を感じた。

(暖かい……これがサンタの威……)

 センはゆっくりとカミシロを地面に横たえた。そして立ち上がると、カミシロを見て笑った。

「お姉さん。俺、やってみる」

🧟🧟‍🧟‍

 第1番コロニー、〈抗サンタ委員会〉司令本部。

 純白のソファーに、どっかと腰を下ろす偉丈夫がいた。白一色の詰襟軍服を身にまとい、その手には杖のように突き立てた軍刀を構えている。〈抗サンタ委員会〉の首魁イ・トウである。

「イ・トウ様。第893番コロニーのゾンビ的精神水準、60%を超えました」
「よかろう」

 イ・トウはクククっ、と笑った。

「今日はクリスマスか。懐かしいものだ。あれから早くも10年。実際あの時、第99番コロニーの老人たちはよくやってくれたよ」

 ドカッと軍刀を床に叩きつけるようにして立ち上がる。

「人々のサンタ性を抑圧し! ゾンビ的精神を浸透させる! そのためには逆説的にサンタが必要だった。脅威を演出する装置としてな! 大衆は不安によっていともたやすくコントロールできる! はははっ! これこそが新しい時代の……」

 ブガーブガー

 突然のアラート!

「なんだ!」
「た、大変です……第1225番コロニーが……」
「簡潔に説明せよ!」
「第1225番コロニー、波長パターン赤、サンタ出現です!」
「なんだと!?」

🧟🧟‍🧟‍

『市民、サンタは……ビガガ!?』

 浮遊装甲兵器を貫く赤い拳!

「うおぉぉ!」

 センは吠えた。その身を包むのは赤!
 燃え盛るサンタの威が、センを赤き超人へと変貌させていた。

『やめなさい! 今すぐサンタ行為をやめなさい!』
『君の行為はサンタ禁止法第34条に違反している!」

 次々と殺到する浮遊装甲兵器。しかし稲妻のごとき赤い閃光が迸った直後、爆発。その力は圧倒的であった。

 歓声を上げるサンタ装束の人々。その勢いは怒涛となり、ついにはコロニー総督府へとなだれ込んでいく。

「セン……すごい」目を潤ませ見上げるトニ子。
「へっ……俺だってその気になれば……」鼻の下をこすり、嘯くラゥス。

 その時であった!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 コロニー全体を包む振動!

「「なんだ!?」」

 上空に巨大なホロ映像が浮かび上がる!
 その瞬間、カミシロの目が見開かれた。

「あれは……イ・トウ……!」

『あーあー……おほん。第1225番コロニーの愚民ども、ごきげんよう。〈抗サンタ委員会〉首魁のイ・トウです』

 ラゥスが歯噛みする。「舐めやがって……」

『よもやサンタの威に目覚めるものがいようとはな……今回の出来事は私としても良い教訓となった。この教訓は他のコロニーで実践的に活かすこととしよう。そして……』

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 より激しい振動!

『実に惜しいが、勉強代として君たちの第1225番コロニーは廃棄することにした』

「「なんだって!?」」

『君たちの第1225番コロニーは……君たちのスペースコロニーは、これよりラグランジュポイントを外れ、外宇宙へと旅立っていく。この宇宙開拓歴の時代において、それが何を意味するのか……まぁお前たち低知能でも理解できるだろう!』

 はっはっはっはっは!

 高笑いとともにイ・トウの姿は消え、ホロ映像にはシリンダー型スペースコロニーの推進機構が火を噴き、徐々にその周回軌道から外れていく様子が映し出されていった。

「そんな……」

 絶望する人々。だが!

「俺が止める!」

 センは吠えた。コロニー宇宙港から宇宙へと飛び出し「うぉぉぉぉ!」コロニーの推進方向とは逆向きにコロニーを押していく!

「無理だわ……」
「あぁ、無理だ……」

 絶望するトニ子とラゥス。

「でも……」

 それはセンの放つサンタの威の力だったのか。人々の脳裏に、必死の形相でコロニーを押すセンの姿が浮かび上がった。それは第1225番コロニーの人々だけではなかった。すべてのコロニー、そこに暮らす人々の脳裏にセンの姿が浮かび上がっていた。

「諦めてない……センは決して諦めてない!」

 人々の胸の奥から、何か暖かく、熱いものが昂ぶり始めていた。それはこの数年間で忘れ去られようとしていた感情だった。誰かが叫んだ。

「俺も……俺だってサンタだ!」

 その叫びはさざ波のように人々の間に広がっていく。

「そうだ……俺だって」「私だって……」

 人々は思い出していた。クリスマスの夜。サンタが来ないかと胸を高鳴らせていた子ども時代。そして親になった者にとっては、その楽しみは子どもの喜ぶ顔を見ることへと変わっていった。

 その夜、皆は少しだけ優しくなり、そして少しだけ暖かかった。

「「俺たちは! 私たちは! サンタだ!」」

 人々の裡なるサンタ性が高まっていく!
 その波濤がうねりとなり、それは力と化していく!

「これは……!」
「熱い……!」

 トニ子とラゥスは胸を押えた。胸の奥からマグマのように熱いなにかが湧き上がってきていた。

「感じるだろう。それが力……サンタの威……」

 カミシロは地面に横たわりながら、静かに微笑んだ。

「行ってやれ、センのもとへ」
「「はい!」」

 その瞬間、二人の体を赤い力が包み込んだ。

「行きましょう!」
「おう!」

 二人は飛んだ。

🧟🧟‍🧟‍

「うぉぉぉぉおおお!」

 センは力を振り絞る。しかしコロニーは止まらない。

(くそっ……ダメなのか……でも……俺は!)

「セン!」
「待たせたな!」
「!? お前たち!」

 赤い光に包まれたトニ子とラゥス。

「なぁ……」
「あぁ……こうして三人がそろって……なんだろう。何かがわかってきた気がする」
「私たちならできる!」

 三人の気持ちが一つとなっていく。いや、三人だけではない。それを見守るコロニーの人々、そのサンタ性が時空を貫き、三人のもとへと集まっていく。

「わかる……わかるわ……この力の使い方が!」
「あぁ、やってやろうじゃねーか!」
「トニ子! ラゥス!」

「「「おう!」」」

 三人が寄り添うように螺旋を描き、サンタ性の赤き耀きがそこへと集結していく! 三人は同時に叫んでいた!

 

「サンタ威合身! セントニコラウス!!」

 

 閃光。

「おぉ……」その瞬間、コロニー古老が感極まったように涙を流した。
「伝説の通りじゃ……『その者、赤き衣をまといて漆黒の宙に降りたつべし』。救世の巨人の出現じゃ……」

「「「行くぞ!」」」

 三人の意志は一つとなっていた。赤き巨人はコロニーを押しとどめ、そして押し戻していく! 人々が歓声を上げる中、カミシロは弱弱しく微笑み、そして呟いていた。

「サンタ……それは人の善性の力。その赤は人の血潮であり、暖かさであり、そして、抑圧に抗う力だ」

 その目からは光が失われていく。

「セン、トニ子、ラゥス……後は頼んだ……ぞ……」

 宇宙開拓歴2019年。この年、第1225番コロニーに端を発した蜂起は燎原の火のごとく各コロニーへと広がっていった。その中心には赤き衣を身に纏った三人の少年少女たちがいた。

 〈ゾンビ大戦〉が勃発する、半年前の出来事である。

【Fin.】

 

いったいぜんたい、このアホな文章はなんなの?

なんとなくこんなことを呟いたら、

こんな暖かいお言葉が!
こりゃ書くしかねーべ! と思ったわけですが、低知能なしゅげんじゃさんが突貫で文章書いたらこんな大惨事が起きました。そういうことです。

なんかいろいろとアカン気がしていますが、一応、参加作ということにしておきます。

【おしまい】

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しゅげんじゃ
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