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第61話「造反有理」 #死闘ジュクゴニア
【目次】【キャラクター名鑑】【総集編目次】
<前回>
エシュタの背筋に悪寒が走る。「こいつ……!」その時、ピエリッタの浮かべた表情はあまりにも異質だった。その表情は、笑みと、憎しみと、呪いと怒りとが入り混じった、不気味な恍惚に包まれていた。エシュタの戦士としての勘が危機を告げている。何か、恐ろしいことが起きようとしている。
ピエリッタは芝居がかった所作で左手を胸に当て、右手をゆっくりと掲げた。そして、その顔に不気味な恍惚を浮かべながら、囁くように、謡うように声をあげた。
「さぁ……同志諸君。はじめようではないか。創世大戦を」
☆
「グルグルグラァッ!」
咆哮とともに剣の山から降り立った巨大な影。それは金属のような光沢ある皮膚で覆われた、野獣のごとき大男であった。
「ふん……気に食わんな」男の肩から襤褸をまとった女がひらりと飛び降りる。その眼差しは鋭く、冷たい。女は長い黒髪をかきあげながら、横たわるカガリを見つめる。「無様だ……小娘」
男を見てゴンタは目を丸くする。
「お、お前は……カガリねぇちゃんと戦っていたやつ……!」
「グルグル……」男は喉を鳴らし、ゴンタを見た。
「な、なんだよッ!」
「……グルグラグラッ!」
獰猛な笑いだった。その首筋。そこには刻まれている──
銅 頭 鉄 額
猛々しき、四字のジュクゴが!
傍らの襤褸を纏った女は顎をつきあげ、見くだすようにゴンタたちを眺めて言った。
「貴様ら……テロリストだな?」
冷たく、尊大で、妖艶。その女の胸元には輝いていた──
剣 山 刀 樹
それは禍々しき四字のジュクゴである!
「あーあー……ちょっといいか?」
頭を掻きながら、二人の前に男が立ち塞がった。造反有理のリオ。その肩には少年を担いでいる。少年は死んだように沈黙している。
「なんだ貴様は」
そう言う女を、リオは下から覗きこむように睨めつけた。啖呵を切るような調子で「まず第一に!」そして、声を落として続ける。
「……ひとこと、言わせてくれ。この剣の山。あんたがやったんだよな? まぁ助かったぜ、ありがとな」
顔をあげ、ギラリとした笑みを浮かべる。「そして第二に……」二人の強大なジュクゴ使いを前にして、大胆不敵にも言い放つ。
「人に尋ねるなら、まずお前らが名乗れよ。常識だろーが、おい」
銅頭鉄額の男が目を見開き、直後「グラグラ!」愉快そうに笑い出した。剣山刀樹の女は鼻を鳴らして冷たく目を細める。「無知なモグリが」髪をかきあげ、胸を反った。
「このジュクゴを見て、私が誰かもわからんのか……バカめ!」
「あぁ、知ってるぜ」
リオは女に顔を近づける。
「剣山刀樹のミツルギ。最低最悪、言語道断の虐殺者。クソったれのミツルギってのはてめぇだろ?」
「……貴様」
女の目つきがどろりと剣呑な色を帯びた。リオはさっと体を離し、続いて銅頭鉄額の男を指さす。
「で、そっちのおっさん! あんたが銅頭鉄額のアイアーンってわけだ」
「グラグラ……おもしろい」
「うわわ……」ゴンタはつばを飲んだ。殺気立ったジュクゴ力が渦巻いている。ミツルギとアイアーンの表情が、みるみるうちに残忍さで歪んでいく。
「第三に!」
リオは、二人を制止するように手を伸ばした。「俺たちは!」まるで、その場にいる全員に見せつけるようにぐるりと回転し、そして、見栄を切って吠えた。
「ここにいる全員は……今から俺の戦友(ダチ)だ!」
「「「……は?」」」
それは余りにも突拍子もなく、余りにも場違いな一言だった。その場にいる誰もが唖然とし、そして沈黙した。こいつはいったい、何を言っている……?
「……お前はバカなのか?」
ミツルギが呆れたように沈黙を破る。「グラグラグラァ!」アイアーンが腹を抱えて笑いだした。「なんだこいつは! まったく! 意味がわからん!」
「いーや、お前たち全員にわかってもらうぜ!」
腕を組み、胸をはる。
「あらためて自己紹介をさせてもらう!」
その左目の下に刻まれた、造反有利の四字が流れる涙のように煌めいていく。
「俺はリオ。造反有理のリオ。俺はなぁ……偉そうにしてるやつらが大嫌いだ! 他人を踏みにじり、ふんぞり返ってるようなやつら! ことごとく、ぶん殴ってやりてぇ!」
「はっ、何を言い出すかと思えば……くだらん」
ミツルギが鼻白む。あまりにも度し難い言動だ。しかしリオはなおも続ける。
「そういうやつらは実際ぶん殴る。連中には思い知らせてやるのさ……俺の、俺らの、踏んづけられている人間の、怒りを、強い衝動をな。だから俺はここに来た」
リオは天空に浮かぶジンヤを指さす。
「つまりはあいつらだ! 気に食わねぇやつら! だから俺はあいつらを地べたへと引きずり下ろす。そして……」その手を掲げたまま、強く握り締めた。「しこたまぶん殴ってやる!」
リオの言動は滅茶苦茶だった。だが、なぜかミツルギもアイアーンも、まるで魔法にかかったように思考が停止していく。ミツルギは辛うじて、口を開いた。
「……貴様、誰にものを言っているのか理解しているのか? 私は……」
「あぁ、理解しているぜ、ミツルギさん。元ジュクゴニア帝国の将軍さま。あんたも、そこのおっさんも、負けちまってもう帰る場所がねぇ。そうだろ?」
「貴様……ッ」
「そして、納得してねぇ……あんたは今の自分に納得してねぇ!」
「…………!」
「そうだろ? なぁあんた、なんで俺らを助けた? いや、俺らじゃねぇな。そこに横たわってる女だ。そいつを、なんで助けようとした?」
「……気に食わんからだ」
「ははっ! そうだろ、気に食わない! 俺らは見てたぜぇ! あんたはその女に負けた! だから自分以外のやつに殺されるのが気に食わない……そういうことだろ? わかるぜぇ。だがなぁ……」
リオはギラリと笑った。
「ジュクゴニア帝国は、そういうのを許さねぇだろ」
「う……」
「ジュクゴニア帝国がある限り、あんた、このまま一生逃げ続けるしかねぇよなぁ」
「くっ……」ミツルギは唇をかみしめて沈黙した。
「おっさん!」
「グラァ?」
「あんたはどうなんだ。あんただって一緒だろぉがよ!」
「グ、グムゥ……」
「理解したか? この場にいる全員、生き残るには……」リオは再び天空を指さした。
「ぶっ潰すしかねぇんだッ!」
客観的に見るなら、無茶苦茶な論理だった。出鱈目。荒唐無稽。傍若無人。失礼千万。普段であれば一笑に付したはずの糞論理。しかしこの時、ミツルギも、アイアーンも、なぜかその言葉に揺さぶられていた。そして、奇妙なことにリオに惹かれ始めていた。
(ふっ……さすがだ、リオ)
リオの後ろで腕組む男、神機妙算のジニは静かに考え続けている。
(リオの言葉は、行動は、世界から肯定される。それが叛逆の論理に則っている限りは、何があろうと絶対に……それがリオだ。それが造反有理だ)
「リオ」
「あーん?」
「俺の計算によれば、そろそろ動かねばならん」
「あー、そうかい、天才くん。了解だ。ではダメ押しと行こうじゃないの」
リオはその肩に担ぐ少年を両手で抱えると、天高く担ぎ上げた。
「見ろ! これが俺らの……切り札だッ!」
その瞬間、瘴気渦巻き黒雲吹きすさぶ荒野に、天空から一筋、光が差し込んだ。光は神々しく、少年の姿を照らし出していく。
「は……? ばばば、バカな……そ、その御方は……」
ミツルギの顔が瞬時に蒼白となる。
「グ……グラッ……グラァ……」
アイアーンは驚愕し、気が抜けたようにふにゃふにゃと腰を落とした。
「あぁぁ……?」
ゴンタは、その少年の放つ異様な迫力に震えが止まらなかった。
「なんなんだ……いったいなんだってんだい……」
力尽きたはずのステラが、その圧力の前に思わず身を起こす。
少年は死んだように眠っている。その双眸は潰れ、惨たらしく血を流している。しかしその傷の下では、力強い光が脈動していた。それは二字のジュクゴだった。
最強。
圧倒的な破壊をもたらす、真に畏怖すべき極限の二字。
「ははっ! 安心しな。こいつはすぐに目覚めることはねぇだろうよ。だがな」
造反有理の四字が力強い輝きを放った。
「俺は絶対、こいつとも戦友(ダチ)になってやるぜ!」
【第62話「天上天下」に続く!】
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