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パワパー孔明 VS. 人肉とんかつ定食 | #AKBDC2024
パワパー孔明とはパワーパーソン諸葛亮孔明のことである。
孔明は後漢の生まれ、高名なる蜀漢の誉れ、だがいまや時代は流れ、だからいま彼はここにいる……大都会東京に!
『速報です。刺激の強い内容ですので、どうか気を強くしてお聞きください』
ラジオキャスターの落ち着いた声が食堂に流れていた。カウンターに座りながら孔明はその声に耳を傾けている。彼の目の前にはほかほかと湯気をたてているとんかつ定食。実にうまそうな香りが漂ってくる。
『事件が起きたのは市内のとんかつ専門店、被害者は店主の芦洲氏とその家族計4名、全員の遺体が分解された状態で店内の冷蔵庫から発見されました』
艶やかな白い皿。その上にはカリッとしたキツネ色の衣をまとった厚めのとんかつ。そしてみずみずしいキャベツの千切り。孔明は顔をあげて食堂を見渡した。客はそれなりに入っている。壁にはメニューを記載した張り紙のほか、仰々しく「衆人皆豚」と書かれた扁額が飾られていた。
『遺体は一部切り落とされた痕跡があり、更に現場で発見された食品用接着剤と食肉形成用の道具から、被害者の肉は加工され、とんかつに偽装して提供されていたと思われます。警察はいま話題の連続人肉とんかつ犯の犯行とみて捜査を進めて……』
「ふむ……」
孔明は顎に手を当て思案したのち、カウンター越しに店主を見た。店主はちょうど孔明と向きあう形で黙々とキャベツを切り続けている。店内は静かだった。おもむろに、孔明は声を発した。
「店主よ!」
その澄みわたる声は店中に響きわたっていく。店中の客が一斉に彼に注目した。孔明が見つめる先――店主が手を止め、ゆっくりとその顔をあげていく。暗い。その目は暗渠じみた暗闇のようだ。その亡とした眼差しが声の主を……孔明を射抜くように見据えていく。孔明は立ちあがった。凛とした佇まいで手に持つ軍配を店主へと向け、そして――。
「YO、その暗い目はなんなんだ。どのくらい深い闇なんだ。暗い、聞こえるCry、聞こえるかい、俺には聞こえる、この叫びが、このとんかつから!」
その瞬間、店内の空気が変わった。その言葉使い、そのグルーヴ感、なんたる韻か! それは間違いなくBeef だった! 孔明はあきらかに仕掛けているのだ。店主に対してなにかを主張し、なにかを引き出そうとしているのだ。
客たちは色めきたち、席から立ちあがる。彼らは固唾をのんで店主の返答を待った。店内に熱気が充満し、途端に……ズクズクズクッ! その場に居合わせたDJがスクラッチをはじめ、ビートが流れだす! ここに、壮絶なるMCバトルが開始されたのである!
※ これでも流しながら読んでね!
店主1バース目
店主は包丁を振りかざし、泡を食ったように叫びだした。
「アァ? アァッ?
お前なに因縁つけてんだよ。私のなにが気になんだよ。
私はただの料理人、それに因縁つけてどうすんだよ。
私の包丁、これが象徴。私の誇り。私の施し。
ザクザクと切り刻んで、ヴァイブス思いっきり切り刻んで、雑魚くさいお前のけち臭い因縁、ざっくりザクザク切り刻んでやるわ!」
孔明1バース目
孔明は笑った。
「俺が雑魚くさい? それちょっとバカくさくなくない?
俺は知ってる。お前の暗い目。
その底に沈むものを、俺はちゃーんと見てるんだよ!
俺は知ってる。お前の震える指。
その恐れに潜むものを、俺はちゃーんと見てるんだよ!
因縁つけてる? アホか俺は孔明。レペゼン三国志。
天才軍師が度肝を抜くぜ」
ワアアアア! すさまじい応酬だ! 店内はスタンディングオベーション、熱狂の嵐に包まれていく!
店主2バース目
店主は顔を赤らめ怒りをあらわにした。
「アァ? アァッ?
私が震えてる? 私が恐れてる?
おいおいお客さんたち、こいついったいなに言ってんだ。
みんな食ってんだ、私のとんかつ。みんな知ってんだ、私の品格。
なに根拠にそれ言ってんの? なに証拠にそれ言ってんの?
聞かせてもらおうじゃないの、お前の言葉を。
Do you understand? レペゼン三国志!」
孔明2バース目
チッ、チッ。孔明は軍配を不敵に振って舌を鳴らす。
「根拠? 証拠? なに気にしてんの?
お前はただの料理人だろ! だったらなんで気にしてんの?
いらつく飯場にちらつく犯罪。ただの料理人、からの犯罪人。
隠したいことがあるんだろ? 隠したいから騒ぐんだろ?
だったら死体があるんだろ?
透けて見えるぜ、お前の動揺。図抜けて言えるぜ、俺の論拠を!」
死体! ウォォォォッ!
不穏な言葉にオーディエンス(店の客たち)はますます熱狂していく!
店主3バース目
「キェェーーッ!」
金切り声が響き渡った。店主はあきらかに動揺していた。赤かった顔は逆に青白み、どこか不気味で陰惨な雰囲気を醸しだしていた。その目は……血走り、その体からは暗いオーラがにじみ出ているかのようだった。
「死体? いったいぜんたい? なにが言いたい?
それってあなたの感想じゃん? それってただの観測じゃん?
死体なんて発想、どこから来たの? あー、震えるのッ!
暗い想いが湧いてくるの。包丁を握るとき、それは来たの。
私の暗い願望、やってくるの。
もしお前がそれをわかっているのだとしたら……」
店主は震える手で包丁を握りしめ、孔明へと歩みよった。
孔明3バース目
孔明は身じろぎひとつせず、ただ悠然とリリックを紡いでいく。
「わかっているさ。わかっている。
俺はだからここに来た。お前を救いにここに来た。
お前の衝動、囚われの妄想。
その囚われを解き放つって。もう罪を犯す必要はないんだって。
もう人を殺す必要はないんだって。
もう人をとんかつにする必要はないんだって。
それを伝えるために俺は来た。
暗い殺人衝動、救い犯人逮捕、もうすでに110番通報。
……もうすぐ、パトカーがやって来る」
店主は……いや、人肉とんかつ作成犯は泣きくずれた。パワパー孔明のリリック力は常人とは桁が違う。だからそのリリックによって邪悪な心は打ち砕かれ、犯人は、ただ罪を受けいれざるを得なかった。
DJが戸惑いながらビートを止める。孔明は静かに皆を見渡した。誰もがキツネにつままれたような顔で孔明を見ている。孔明は一同に真実を告げた。
「皆さんが食べていたのは、人肉です」
遠くから、パトカーの音がする――。
【劇終】
🎂アクズメさん、お誕生日おめでとうございます!🎂
参考作品
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