第58話「無敵のアガラ」 #死闘ジュクゴニア
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<前回>
「まずはあの連中を抹殺する……それで、いいんだな?」
その視線の先には対峙する、フォル、ミヤビ、エシュタ、ヴォルビトンの四人。
「そぉーですとも、アガラ様! 存っ分にやっちゃってくださいよぉ!」
アガラの足にしがみつきながら、ピエリッタがぶんぶんと足を振ってはしゃいでいる。
「ふん。よかろう。フシトとの前哨戦として、ゴミ掃除も悪くはあるまい」
その瞳、無敵の二字が律動するように輝いていた。
「では、行こうか」
☆
フシトは両の手を広げ、高らかに獅子吼していた。「余は救世主である」と。
「お前が、救世主だと……?」
凄まじい光が体を貫いていく。それはまさにすべてを焼き尽くす熱線。ありとあらゆる存在を超越した存在が放つ、絶対の光である!
「ふざけるな……!」
しかし、それでもハガネは前へと進む。じりじりと、少しずつ、光の源へと向かって。光の源たる傲岸極まる存在は、宙に浮かび、余裕の笑みとともにハガネを見下ろしている。
「くく……嘘ではないぞ、ハガネ。すべては真実。お前がこうしてこの場にいるのも、世界が今も存在するのも、そして、民草が安らぎと平和を謳歌しているのも、生きとし生けるものがこの楽土の中で揺蕩っているのも、すべては、この余があってこそなのだ!」
「黙れ!」
ハガネの瞳、不屈の二字が弾けるように燃えていた。俺は倒す。この男を。いや……この場にいる全員を、俺は倒す。
「ふふふ……」
ハガネの背後。不気味に微笑むのは摩訶不思議のハンカール。そしてその体に隠れるようにして、アルビノのごとき白一色の少年がハガネの様子を伺っている。
三対一。
敵は圧倒的だ。絶望的なまでの力を放つ、皇帝フシト。得体の知れぬハンカール。(そして、あいつも……)白き少年。ハガネの戦士としての勘が、あの少年もまた、恐るべき存在なのだと告げている。
だが、俺は屈しはしない。ハガネは奥歯を噛み締める。その瞳の二字がバチバチと音をたてて爆ぜていく。俺はこの場のすべてを打ち倒す。そして、すべての決着をつけてみせる。
「俺は! お前たちが何を言おうと……俺の為すべきことを為すのみだ!」
「くくく……」フシトは心から愉快そうな笑みを浮かべ、満足げに笑った。「良い、良いぞ」パチパチパチ、と手を叩く。
「そのイキの良さ。何度でも言おう。それでこそ我が子というものだ。余は、実に嬉しく思う」
「戯言を言うな……っ」
「くくく……だがな。せっかく親子水入らずで話そうというのだ」フシトは手をかざした。「少しだけ、大人しくしていてもらおう」そして目を見開き告げる。
「跪け」
「!?」
ハガネは跪いていた。それは意思に反しているわけではなかった。力で押し曲げられるわけでもなかった。ハガネの体は自然と動き、そして、跪いていたのだ。(バカな……!?)呼吸が荒くなっていくのを感じる。鼓動が早鐘のように打ち鳴らされているのを感じる。戦慄。それは、今までのどの敵にも感じたことのないような感覚だった。
「くく……良いぞ。やはり子は、親の言うことを聞くものだ」
光が降り注いでいる。輝かしい、圧倒的な存在の光が。その中で、フシトはゆったりとした所作で宙に胡坐をかき、そして頬杖をついた。ハガネは戦慄に包まれながら、ただそれを見上げていた。
「どこまで話をしたか……くくく。そうだ、〈極限概念〉。汝らをこの世界に解き放った、あの時のことを……まずはそこから、話さねばなるまい。なぁ、ハンカール」
「ふふ……その通りでございます。〈崩壊の日〉。あの日、あの時に何が起きたのか……君は知る必要がある、ハガネ。君たち〈極限概念〉がこの世界にとってどのような意味を持つのか。それを知り、そのうえで君は自らの選択を為さねばならない」
(くそっ……)ハガネは拳を握りしめていた。(勝てない……今の俺では……!)戦慄を握り潰すように、その拳に力を込める。
(俺一人では……こいつらには勝てない……だが、それでも……!)
☆
「私は……必ずフシトのもとへと辿り着く! だから、貴様らごときの相手をしている暇などはない!」
ミヤビの花鳥風月、そして風花雪月の八字が輝きを放っていた。ミヤビの覚悟を現すように、その周囲を花吹雪と粉雪が美しく渦を巻き、嵐のように舞っていた。
(ハガネ……お前はもう戦っているのか……? 私は……私はこんなところでいつまでも……っ)
「ぐはっ! ぐふふは! 調子こいてんじゃねーぞぉ、ミヤビぃ!」
どす黒い瘴気がフォルの体から発散されている。それが辺りに霧状に立ち込めている。
「ふん。これが先の攻撃の正体というわけか……。タネがわかれば、どうということはない」
「ぐふはっ! ばぁか! 俺の屍山血河はよぉっ! タネがわかろうと防ぎようはねぇ。ただ触れるだけで死ぬ! そして! 俺は死なねぇ。だから食い止めようもねぇ! てめぇらが何を企もうが、何をやろうが、もはや手詰まりなんだよぉ。ぐふは、だからよぉ……絶望しろ! 泣き喚け! そして許しを乞え! ぐふふはっ!」
そして迫り来るものは、フォルの体から発散される瘴気だけではなかった。荒野の大地から沸き立ち、津波のように押し寄せる瘴気の塊が今や、ジンヤをも覆いつくし、そして飲み込もうとしているのだ。
「いや、君は死ぬよ」
エシュタは刀を構え、静かに言い切った。
「ヴォルビトン。お願い」
「あぁ……」
ヴォルビトンの雷霆万鈞が輝き、その力場が展開されていく。
「ぬぅん!」
「ぐはっ?」
力場はフォルへと向かって伸びていく。それはまるで道であった。瘴気を貫き、それは描き出していた。フォルへの道を。フォルへと到る、必殺の道を!
「いくよ……」
だが、それは唐突に起きた。
「邪魔だ、雑魚」
雷霆万鈞の力場が打ち砕かれ、拳が、ヴォルビトンの顔面を貫いていた。
「なっ!?」
身を捻りながらヴォルビトンが吹き飛ぶ。「ヴォルビ……! ぐっ、かはっ」力場を失い、瘴気を浴びたエシュタがくずおれていく。
「!」
ミヤビは目を見開いた。(いつの間に……!)
拳の主は堂々たる佇まいで周囲を眺めていた。少年でありながら、まるで歴戦の武人のごとき雰囲気。そしてその少年は瘴気の中にあっても、一切のダメージを負うことなく平然としていた。
「ぐはっ……てめぇ……何モンだッ!」
「ふん……今から死ぬお前らだが、冥土の土産に教えてやろう」
少年は腕を組み、睥睨するかのように胸をそり、傲然と言い放った。
「俺はアガラ。無敵のアガラ。この地上に、王として君臨する男だ」
その瞳に二字のジュクゴが輝いていた。それは、無敵! そしてその全身からは、尋常ならざるジュクゴ力が放たれている!
「さて……」アガラはミヤビを見た。「なるほどな」
「わかる。わかるぞ……お前だ。この中で一番の強者。俺の相手として相応しき者。それは、お前だ」
「ふん……」ミヤビは鼻を鳴らした。
「貴様にも言っておこう。私は……貴様らの相手をしている暇などない!」
その咆哮とともに、ミヤビの両肩、風花雪月の四字が鮮烈なる輝きを放つ!
「ぐはっ!?」
「ぬぅ?」
直後、フォル、そしてアガラの動きがピタリと止まる。
「体が動かん、か」
アガラはかろうじて動く瞳でフォルを見た。フォルはまるで凍りついたように、その動きを止めていた。(なるほど……)
花びらと粉雪が暴風のように吹き荒れていく。そしてそれは、恐るべき四字のジュクゴを宙に描きだしていった。
「ほぅ?」
アガラは感心したように目を見開いた。宙に描かれしは禍々しき四字であった。それと同時。花びらと粉雪が、巨大な何かを形成していく。フォルは身動きできない中、それを見つめ、怒りを滾らせていく。
(ミヤビ……てめぇっ……!)
その禍々しき四字。それこそは……
蛟 竜 毒 蛇 !!
花びらと粉雪で形成された巨大なる七匹の長虫。それが、その巨大で凶悪なる顎を開こうとしている。
しかし、それだけではない!
花びらと粉雪は、さらなる四字を宙へと描きだしていく。それとともに、煌びやかな輝きが空に現れていく。それは爆発的な力を秘めながら、天空を埋め尽くすようにその数を増していった。そう──その四字こそは!
星 旄 電 戟 !
「なるほどな」アガラは表情を変えずに呟いた。「面白い」その身体から光が迸り、鎧のごとくその身を覆っていく。その光は凄まじき四字を描き出していった。それは、すべてを打ち倒すであろう真に恐るべき四字である! それこそは──
絶 対 無 敵 !
【第59話「必殺のエシュタ」に続く!】