人類救済学園 第陸話「講堂決戦」 ⅲ
【前回】
ⅲ.
すべては黄金に包まれた。
盧舎那の拳から放たれた光の奔流が、女の体を貫いていく。直後、その体は膨張し、内部から光が溢れ、醜く歪み……粉々に爆散した。
へっ。ざまあねえな……。
盧舎那は呟く。それは女に対して、極楽真如に対して、ではなかった。盧舎那は血反吐を吐いた。ダメージは深かった。そんな自分がざまあなかった。
盧舎那の背に浮かぶ光輪の輝きが薄れていく。体の浮力が失われ、
さすがに疲れた、みてぇだ……。
盧舎那は、ゆっくりとした下降をはじめた。
世界は輝いている。
黄金に染め抜かれた光のなかで。
盧舎那は満足げな表情を浮かべ。
ゆっくりと、落ちていく。
その盧舎那の眉が、ピクリと動いた。
「ふぇ、ふぇ……」
奇妙な笑い。
バカな……そんなまさか……?
だがそれは、幻聴でも、錯覚でもなかった。
「ふぇ、ふぇ、」
爆散した輝きの向こうから、影が、躍り出る。
「ふぇーッ!」
それは皺を寄せ、ギラギラと怪しく目を輝かせ、不気味に笑う老婆!
極楽真如であった!
時間が止まったような感覚のなかで、迫り来る極楽真如は手刀をかざしている。盧舎那は、己の腕に力が入らないことを悟り。そして、
笑った。
もはや、できることは何もなかった。
心のなかで呟く。
後は頼んだぜ、副会長。
クソ生意気な顔が浮かんだ。
……頼んだぞ、風紀委員長。
その首筋に、真如の手刀が迫る。
盧舎那は退学を覚悟し、目を閉じた。
失望と、やり遂げた満足感が同時に渦巻いていた。
直前まで見えていた、生徒たちの誇らしげな顔を思いだしていた。
そして、声を聞いた。
「……盧舎那」
盧舎那は目をあけた。
それは、極限状態で見た幻覚だったのかもしれない。盧舎那の願望がつくりだした、ひとときの幻想だったのかもしれない。
しかし、盧舎那はその時、はっきりとその姿を見たのだった。
盧舎那に寄り添い、腕に手を添える……疎水南禅の姿を。
時が再び動き出した。
目の前で、老婆が驚愕に目を見開いていた。
盧舎那は真如の手刀を掴んでいる。そして、苦笑いを浮かべて呟いた。
「南禅……お前にはいつも、助けられてばかりだな」
その拳が無造作に振りあげられる。老婆は……真如は、口をパクパクとさせている。そして、拳は振りおろされる。
「ふべぇばっ!」
極楽真如の顔面は、打ち砕かれた。
世界は輝いている。
黄金に染め抜かれた光のなかで。
盧舎那は満足げな表情を浮かべ。
消えゆく友の姿に、言うことのできなかった言葉を捧げた。
「ありがとう……そして、あばよ」
【ⅳに続く】
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