死闘ジュクゴニア_03

第1話「超常なる帝国」 #死闘ジュクゴニア

目次】【キャラクター名鑑第一回逆噴射小説大賞応募版はこちら

 その敵はあまりにも強大だ。それはまさに、世界を飲み込まんとする怒涛。そして今、その怒涛の前に立ちふさがらんとする少年が独り。少年の覚悟、そして瞳に宿る光。それは恐るべき怒涛を前にしても、決して消えることはない――。

 ザンっ! ダっ、ザっ、ザっ…!

 街に鳴り響く軍靴の音。頭を垂れ、震える人々。それを睥睨しつつ、威容なる軍勢が街の中を進んでいく。

 彼らはただの軍隊ではない。ジュクゴニア帝国皇帝、フシトが率いる親征軍。その全員が超常なるジュクゴ使いである!

 ジュクゴ ー 熟語 ー。

 創世の昔。世界は神が発する言葉によって産み出されたのだと言われている。その創世の力が込められた神秘の断片……それがジュクゴである。

 運命に選ばれし者にジュクゴが顕現する時、その体にはジュクゴの文字が刻まれる。彼らは人の歴史において時には英雄として、また時には悪逆非道の独裁者として恐るべき力を振るった。人々は畏怖の念を込めて彼らをこう呼んだ。「ジュクゴ使い」と。

 ジュクゴニア帝国。それはその恐るべきジュクゴ使い達の帝国である! 超常の力を駆るジュクゴニア帝国は、今や怒涛の勢いで世界を飲み込もうとしていた!

 占領下の都市、調布。いまだ抵抗のやまぬ西の地へ向けて、帝国軍は調布の街を進む。

 帝国軍の前軍。その先頭を歩むのは劫火のカガリ。長くウェーブのかかった青い髪。左目の下には泣きぼくろ。「劫火」の二文字をその身に刻んだ彼女は、気怠るそうな態度を隠すことなく先頭を進んでいく。

 そしてその背後には漆黒のザーマ。全身黒装束。そして白目のない漆黒の瞳。ただならぬ雰囲気を漂わせる。

 さらに続くジュクゴ使い達。にやにやと笑う溶解のルンダ。鉄の鎖を身に纏った呪縛のバクー。全身に包帯を巻き、その間から虚ろな眼差しを覗かせるのは鬼哭のゼイン。ガンガンと己の拳を叩き合わせ、不敵に笑うは鉄拳のドルガ。痩身にして落ち窪んだ目、緑がかった肌は毒刃のベイダ。体からさらさらと砂が舞い散る砂嵐のランド。知的で静かな佇まい、反射のレクタ。球のような巨体を持つ過重のドダイ。ドダイの呼吸はふぅふぅと荒い! そして彼らだけではない。その背後には延々とジュクゴ使いの軍勢が続いていく!

 一人一人が尋常ならざる力を持ったジュクゴ使い達。彼らが放つ禍々しいジュクゴ力(ちから)は大気を震わせ、そして占領下の街で暮らす人々の正気をも削り取りつつあった。

「けっ、やりたい放題やりやがって……!」

 ビルの上。少しぽっちゃりとしてごんた顔、年は10にも満たないであろう少年が一人、双眼鏡を覗き込みながら憤っていた。

 ザっザリ…ザリザリザリ…

 少年の持つ無線端末が音を立てる。

「……来たっ!」

 少年は慌てて無線端末に向かって叫んだ。

「ニイチャン!」『……ゴンタ、そちらの状況は?』
「ばっちりさ! ニイチャンのいる区画から先の住民、全員、避難完了しているぜ」『……本当に大丈夫なんだな?』
「ステラさんやゲンコネエチャンにだって手伝ってもらったんだ。思いっきり暴れてもらって大丈夫なんだぜ!」『……了解した』

 ザンっ…!

 軍靴の音を鳴り響かせ、進み続ける帝国軍。その隊列の前に一人の少年が立ちはだかった! 年の頃は10代後半。鈍色の髪と瞳。静かな覚悟を秘めた表情。少年は恐るべきジュクゴ使い達を前にして、怖れることなく凛とした眼差しで彼らを見据えている。

 それを見た劫火のカガリは気怠そうに呟いた。

……ゴミ

 そしてその両腕をすっと突きだす。

 その右の拳には「」!
 その左の拳には「」!

劫火」の二文字が青白く輝き始める!

 次の瞬間!

 ゴォゴォオオオオオーーーー!! 青白く白熱した炎が少年の足元から噴き上がった! 天にまで渦巻く青白い炎。その高熱により周囲の建物の鉄骨が溶け、歪み始める!!

 ……だが!

「決して屈しはしない。決して屈しはしない!!

 ゴゥン!! 叫びと共に炎は爆散し、その中から無傷の少年が歩みだした!

 その右の眼には「」!
 その左の眼には「」!

 両の眼に「不屈」の二文字が鋭く輝く!!

「……ジュクゴ使いだと?」漆黒のザーマが眉根を寄せて呟いた。「アタシの炎で燃えないだって?」カガリの顔が笑顔に変わる。

 少年は居並ぶジュクゴ使い達を指さし、凛として叫んだ!

俺はハガネ。不屈のハガネ! お前たちジュクゴニア帝国を滅ぼす者だ!

「……ハガネ。へー、ハガネっていうんだー」

 両の手のひらで顔を覆い、指の間からハガネを見つめるカガリ。その顔は歓喜に歪んでいた!

【第二話「死闘開始」に続く!】

いいなと思ったら応援しよう!

しゅげんじゃ
きっと励みになります。