婚礼ダンスと若かりし日の愚かさについて
婚礼ダンスってご存じだろうか?
踊るやつじゃなくて、衣類をしまうほう。
私が結婚したのは平成7年。
あの頃は、娘が結婚するときは花嫁道具として立派な婚礼ダンスを持たせるという風習があった。
恐るべし「風習」のちから
今思えば不合理の極みである。
私のように離婚していない人でも、結婚の時に親が持たせてくれた「婚礼ダンス」を50代になった今、持て余している人がほとんどではないだろうか。
でかい。とにかくでかい。
そしてとてつもなく重い。
いいものなのは承知している。高価なものだ。
私は結婚してから現在まで4回転居して今の家に落ち着いた。
転居のたびに引越センターのお兄さんを泣かせたのがこの婚礼ダンスだ。
一応2分割くらいは出来る仕様にはなっているらしい。
背丈より大きい両開きのタンスが3棹(さお)。つまり扉6枚分。
自慢ではけしてない。もはやこれは苦痛。
この大きくて大量のタンスを、そーっとそーっと慎重に、汗をかきながら二階へ運んでくれたお兄さんたちを忘れない。ありがとう。
でも、今はっきりと言ってしまおう。
婚礼ダンスは、本当に邪魔でした。
(お父さんお母さん、ごめんなさい)
ホントにいる?と、考えられなかった若き日
20代、結婚前の私は親が「婚礼ダンスを用意しないとね」といったとき、「あー、そうなのね」と思った。
先に結婚した姉の時も、そんな買物してたし。
「こんな大きなものほんとにいる?邪魔にならない?」
なぜそう考えられなかったのだろう。
結婚する予定の相手はサラリーマンで転勤だって予測できたのに。
さすがに離婚するとは予測できないだろうけど、それでも風習はどうあれ私にとって必要か?と、考えられなかったことが悔やまれる。
あの頃。20代の私は、思い返せば本当に子供だった。
しっかりした会社に勤めている夫と、ずーっと暮らして一生専業主婦でいられるつもりだった。
3人目の子どもができたときも「まあ、夫が40代にもなれば出世して給料も上がっているだろうしなんとかなるか」なんてバブル時代の常識をまだ引きずっていた。
30代は、まだ離婚なんて考えたこともなかった。
覚醒の40代
あれ?なんか思ってた人生と違ってきてる・・・このままじゃいかん!
ようやく覚醒した私。
40代は怒涛の10年だった。
思えばそれまでずっと自分の人生を誰かに任せていた。
でも、それは違うなってようやく気が付いた。
そこからの日々は、しんどかったけど自分の人生をようやく生き始めたころだった。
むき出しの50代
そして50代の今、私はむき出しの自分で生きている。
20代のころ考えていたようなマダムな生活ではないけれど。
夫の定年後に夫婦で海外旅行に行く未来はもうないけれど。
とにかく、やっと自分で生きている。
婚礼ダンスは若かった私の愚かさを思い出させる。
自分で生きていなかったころの自分を。
そしてまだ「婚礼ダンス」は捨てられずにいる。