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⑥傍聴席から国会を見て考えたこと

国会を見る方法は、いくつかあります。衆議院と参議院のホームページにそれぞれアップされたインターネット審議中継で見ることもできますし、NHKテレビ、NHKラジオは独自の編集・編成判断に基づいて放送しています。さらには実際に国会を傍聴することもできます(*)。今回は、上西充子さんが衆議院本会議と衆議院予算委員会を傍聴された後に、お話を伺いました。

国会パブリックビューイングを始めた理由

──そもそもどうして街頭で「国会パブリックビューイング」を始めようと思い立ったのか。きっかけとなった出来事などはありますか。

 わたしたちはなぜ「国会パブリックビューイング」をやろうとしたのか。そのきっかけは、まともな答弁が国会でおこなわれていない実情に問題意識を持ったからです。国会審議がわかりにくいのは、政府側がきちんと答えていないからなんですが、その事実はテレビのニュースでは可視化されません。

 テレビでは野党の質問と政府与党の答弁が極限まで短縮された、きれいな一問一答にまとめられ、結局、答弁する側に正当性があるような編集がされてしまう。どれほど答弁がしどろもどろでも、内容をわかりやすく簡潔にするために返事が編集され、粉飾まがいの加工が施されて放送されてしまう。

 そうなると、今度は声高に「〇〇じゃないですか!」と質問している野党の方が、感情的で的外れな非難をしてるように見えてしまいます。そして、答えている政府の方が、まともで落ち着いているように見える。でも、それは国会の実態を表していません。

 だから、「国会パブリックビューイング」の動画には編集をしないで、3分ぐらいのまとまりを、そのまま切り出しているんです。切り出した動画に、解説を加えると、野党がまっとうな指摘をしてるのに、政府が答えようとしないようすが見えます。

 それから、先ほどの一問一答に編集した報道よりも、さらに悪質な場合があって、これはもう一般的になってきているんですが、野党の指摘の部分はアナウンサーが代わりに語り、続けて、答弁する首相の映像だけを見せることがあります。

 そうすると、もう野党議員の質疑はテレビには写らなくなる。あるいは、映像では写っていても、発言は聞こえない。アナウンサーが野党議員の質問を要約して、代弁してしまう。そうなってしまうと、もう国会で実際に起きていることが見えません。だから、本当の状態を見てもらうために、街頭で「国会パブリックビューイング」を始めたんです。

上西先生

目からの情報と耳からの情報

──街頭で国会審議を見てもらう試みについて、参考にされたものがありましたら教えてください。

 「国会パブリックビューイング」の原型は、TBSラジオの『荻上チキ・Session-22』です。いまでは放送時間も午後3時からに変更されて、番組名も『荻上チキ・Session』となりましたが、審議中の法案を取りあげ、国会でこんな議論がなされているという過程を、やりとりとして紹介していました。

 わたしは働き方改革関連法案について国会でのやりとりをインターネット審議中継でも見ていたんですが、ネットから視聴するのと、音声だけで聞くのとでは、ちがう発見があるんですよ。ラジオだと「ここで言いよどんでいるんだ」とか、インターネットの動画では気がつかなかったことを見つけられます。耳で聞くがゆえに敏感になる部分があります。

 実際に街頭で「国会パブリックビューイング」をやってみると、今度はラジオ番組とはとはちがう意味で、目で見るからこそのよさもあって、「官僚が準備した答弁書を読んでるな」とか、「ここは自分で考えて、相手を見ながら言ってるな」ということがわかるんです。

 あるいは、答弁が求められる場面で、誰からも手が挙がらないまま、異様な沈黙が続くとか、そういったことも視覚的にわかります。そういうのは、テレビのニュース映像では写しだされないのでわからないし、審議内容を要約した新聞の国会情勢でもわからない。やっぱり、実際の映像を見ることで、はじめてわかるものなんです。


委員会を傍聴するにはどうするか

──ここまでのお話はメディアを通して見た国会でしたが、実際に、衆議院予算委員会を傍聴席からご覧になっていかがでしたか。

まず、委員会を傍聴するには、いくつかの手続きが必要です。国会で開かれているさまざまな委員会は、だれでも自由に見られるわけではなく、国会議員から紹介を受け、傍聴券を出してもらって、はじめて見に行けるものなので、ハードルがけっこう高いです。

 傍聴席では筆記用具以外の持ち込みが駄目なので、そこでは撮影や録音、実況ツイートもできません。発言に対して、「そうだ!」と声を出したり、拍手をしたりといった意思表示もできない。でも、そういったリアルタイムでの発信を犠牲にしても得られるものがあります。

 まず、インターネット審議中継だと、画面に写っている範囲しか見られませんが、傍聴席からは会議の様子が広く見渡せます。インターネット審議中継では、質問するときと答えるとき、それぞれの発言者にカメラが切り替わるので、質問しているときに、カメラに映っていない答える側ではどのような動きがあるかが見えません。後ろから秘書がメモを持って近寄ったり、誰が答弁するかで閣僚同士が見合っていたり、答えるべきでない人が隅の方で懸命に手を挙げていたり……そういう場面は見えません。

 ただし、傍聴席からでも、だれが野次を飛ばしているのかまではわかりませんでした。野党なのか、与党なのかもよくわからない。声が飛んでくる方向だけが、なんとか把握できるくらいです。だから、ツイッターには審議中継を2画面で示してほしいとよく書かれますが、本当にそう思います。質問する側、答える側に加えて、全体が見られる映像があると流れがわかるんですが、場面ごとにカメラのアングルが変わるので、わからないんです。


傍聴席から見た予算委員会

──インターネット審議中継ではわからないことが、傍聴席からは見てとることができるようですが、具体的には、どんな発見がありましたか。

 11月2日と4日、菅義偉首相に変わってから最初の衆議院予算委員会を傍聴しました。新型コロナウイルス感染予防のため、現在では傍聴できる定員を半分に減らしていました。

 特に覚えているのは、2日に立憲民主党の川内博史議員が、日本学術会議の任命問題について「総理しか解決できない問題ですよね。なぜなら、日本学術会議法に『総理が任命する』と書いてあるから」とやさしい口調で説得するように菅首相に語りかけた質疑です。そのなかで、やりとりに大塚幸寛内閣府大臣官房長が割り込もうとした場面が何回かありました。

 議場内からは、大塚官房長に向かって「総理が手を挙げてるんだから、きみ、邪魔するな」とか、「あなた、何やってるの? 座って」といった声が飛び交っていたのですが、意外にも菅総理から「理論的には川内委員が言われるとおりだというふうに思います」と前向きな答弁が引き出されます。

 その後も大塚官房長が答えようとしますが、「いやいや、もういい」と言われ、結局、そこでは発言の機会を得られませんでした。しかし、代わりに答えた首相答弁の中身を見ると、「たぶん、局長が手を挙げたのは、一連の手続き、これは終わっておりますので、仮に任命をおこなうには、日本学術会議法に沿って、改めて補充のための推薦手続きが必要だということです。ですから、そのことでいま手を挙げたんだろうと思います」と言っています。それを大塚官房長がすごく肯(うなず)きながら聞いていたのが、印象的でした。

 そこからは、大塚官房長が「任命拒否を撤回する」のではなく、「任命拒否を貫く」のでもなく、「6名を新たに任命する」といった妥協案で収めたいと考えていたのかなという思惑が見えるんです。それはインターネット審議中継では見えないことで、一見すると、菅総理の答弁を大塚官房長が邪魔しているようですが、その割り込みかたは「6名を新たに任命する」という方向に話を持っていこうとしたものだったとわたしは思っています。


本会議を傍聴してみませんか

──上西さんは臨時国会が招集された10月26日の所信表明演説のときも、衆議院本会議場で傍聴されましたね。

 委員会は傍聴席が少ないから、みんなが見にいくわけにはいかないんですが、代表質問がおこなわれた本会議場は、もうちょっと傍聴席が広かったんです。けっこう空いていましたし、早く行けば誰でも見られます。ですから、一回傍聴してみたらどうでしょうか。

 委員会の傍聴には国会議員の紹介が必要ですが、本会議については、当日に受付窓口へ行けば、先着順に一般傍聴券が交付されます。国会のなかに傍聴者がいることで、ある意味、質問する人や答弁する人にも意識されると思います。

 あと、国会のなかに昼食を食べられるお店とか、首相の似顔絵の付いた饅頭や、歴代首相の全員の名前が入っている湯呑を売っているお土産屋さんもあります。

 国会はインターネット審議中継でも見られるし、議事録も公開されているし、傍聴することもできます。制度的にはわたしたちに開かれているんですよ。だからこそ、形骸化しているところを諦めないで、きちんと機能するものに戻していくことが必要だと思います。だからこそ、わたしたちは「国会パブリックビューイング」という活動もやっています。

 単なる国会見学ではない……議場の見学ではなくて、国会審議が見られるんです。答弁者が手を挙げるタイミングも、間髪を入れずに挙げる大臣とか、この質問には答えたくないという感じで、しかたなさそうに挙げる人もいます。

 一回傍聴に行ってみると、そのときの手の挙げかたのタイミングとか、目で見たからこそわかるものがあります。そういうことがわかったうえでインターネット審議中継を見ると、また、見る目が変わってくると思うんです。そういう意味でも、国会を一回傍聴してみると面白いと思います。



*詳しくは『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』の「国会をみるための参考資料」(231~233ページ)をご参照ください。

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『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』書籍詳細
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