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⑤これも「ご飯論法」?

「ご飯論法」のような論点をずらした答弁には、いくつかのパターンがあります。そのことを知ったうえで国会をみると、よりクリアに審議のやりとりを理解できるようになります。そこで、今回はさまざまな「ご飯論法」のパターンについて、お話を伺いました。

東京新聞のCM「かわうそ君 取材」篇で考える


──東京新聞のCM「かわうそ君 取材」篇ですが、これはかわうそ君が記者会見を受けていて、記者の質問に「な、生魚です」と答えるものです。上西さんは「ご飯論法」だと思いますか。一見したところ、かわうそ君は嘘をついてない気がするんですが……

(かわうそ君、会見中)
記者 昨日の晩ごはんは何でしたか?
かわうそ君 な、生魚です。
記者 生魚と言っても、天然本マグロだったというハナシですが?
周囲の記者からの声 どうなんですか、かわうそさん?
(かわうそ君、無言でうつむき、顔から冷や汗が流れる)
ナレーション 空気は、読まない。東京新聞。お申し込みはこちら。

 「ご飯論法」だって、嘘はついてないんですよ。「ご飯」は食べてないというのは本当のことだし、「パン」のことは言ってないだけだから。

 ここでもう一度、第1回の「『ご飯論法』はどのように生まれたのか」に戻って、「ご飯論法」の種類について考えてみたいと思います。

 2018年5月6日に、3回に分けておこなったツイートには、論理のごまかしの4つのパターンが含まれています。

Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」
Q「何も食べなかったんですね?」
A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので……」
Q「では、何か食べたんですか?」
A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食を摂る、というのは健康のために大切であります」
Q「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ」
A「ですから……」
Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか」
A「そのように一つ一つのお尋ねにこたえていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣としての業務に支障をきたしますので」

 では、順番に見ていきましょう。


ごまかしの4つのパターン

──答弁における論点ずらしのやりかたとして、「ご飯論法」やチャーハンに譬えてお話しいただきましたが、それだけでなく、さらに種類があるんですか。

 まず最初のは、質問の内容を勝手に狭く解釈して、何も食べていないように見せかけるものです。

Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」

 こういうのは前からあって、たとえば「おまえ、酒飲んだだろう?」と訊かれて、「酒は一滴も飲んでません」と返答したけれど、実はビールを飲んだことを隠していたというのは、よくある話です。

 2番目は、「バナナはおやつに入りますか?」と似てるんです。小学生のとき、遠足のおやつはひとり300円になっていた場合、どこまでを「おやつ」と見なすか、その範囲が必ずしも明確でない。バナナとかみかんは「おやつ」なのか、それともお弁当の「デザート」なのか、どちらに考えるのか。

Q「何も食べなかったんですね?」
A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので……」

 これは少し前の例ですと、「桜を見る会」の出席者に関する質問に対して「反社会的勢力の定義は困難」というのがありました。最近では、増加を始めた新型コロナウイルスの新規感染者について「第三波の定義はない」と発言していましたね。

 でも、新規感染者のグラフを見ると、明らかに次の山に向かいつつある。だから、そのことについて質問しているのに、定義をしていないとして、結局、認めようとしない。

 3番目は、個別の質問に対して、一般論として答えるパターンです。一般論へのすり替えですね。

Q「では、何か食べたんですか?」
A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食を摂る、というのは健康のために大切であります」

 そして、4番目が、個別の事案については答えられないとするパターン。これは最近、頻出しています。

Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか」
A「そのように一つ一つのお尋ねにこたえていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣としての業務に支障をきたしますので」

 日本学術会議の任命問題でも「個別の人事についての質問には、お答えを差し控えさせていただきます」という返答がくり返されました。

 これら4つの「ご飯論法」で、ごまかしのパターンはだいぶ網羅できるんですよ。なぜなら、わたしは働き方改革関連法案の国会審議で、当時の加藤勝信厚生労働大臣のごまかしかたをずっと見てきて、それを圧縮したのが、この4つだからです。


かわうそ君の返答は「ご飯論法」か

──では、はじめの問いに戻って、東京新聞のCM「かわうそ君 取材」篇における、かわうそ君の返答は「ご飯論法」でしょうか。また、「ご飯論法」と認定された場合、ごまかしのパターンはどれになりますか。

 かわうそ君の場合は、あえて大雑把な概念で答えているんですね。高級な「天然本マグロ」を食べたことを言いたくないために。だから、嘘はついていないけれども、正直に答えたくないために、ぼかして答えている。

 だから、最初のパターンに近いかな。つまり、相手にちがう印象を与えようとしている。「生魚です」というのは、嘘ではないんだけれど、たいしたものを食べていないという印象を与える。

 ただ、朝ごはんのやりとりとかわうそ君の記者会見がちがうところは、最初のやりとりのときの訊き手は、食べたことをわかっていないんですよ。だから、「パン、食べましたよね」という訊きかたをしていません。

 それに対して、かわうそ君の記者会見では、記者が、天然本マグロを食べたという事実をすでにつかんでいて、あえて漠然とした訊きかたをしている。だから、そこはちがうところですね。

 「ご飯論法」については、野党議員の質問の仕方が悪いと言われることがあります。もっと詰めてから訊くべきだと言われるんですが、政府が一方的に情報を独占をしていて、野党は何も知らない場合、ある程度広く攻めていくしかない。だから、「朝ごはんは食べなかったんですか?」といった漠然とした質問から始めることになります。それに対する答から、だんだんと対象を狭めていくことができる。

 国会の質疑でも同じです。そういった背景についても、知ってほしいと思います。

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次回は「傍聴席から国会を見て考えたこと」です。

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