『不審者』(伊岡 瞬/著)をオススメ!
平穏な日常生活に、もしも突如として異物が現れたとしたら、あなたはどうしますか? 異物を受け入れて平穏な生活を取り戻そうとするのか、それとも――。
義母と夫、そして5歳の一人息子と暮らす折尾里佳子。時折小さな波風は立っても、おおむね平穏な家庭生活を営んでいる。そんなある日、夫の秀嗣が家に招いた客は、20年以上音信不通になっていた秀嗣の兄・優平だった。突然の訪問に不信感を抱く里佳子。それをよそに優平は折尾家で居候生活を始めるが、時を同じくして里佳子の周辺で不可解な出来事が起こり……。
一言で言えば「怖い」小説です。優平という男の得体の知れない存在感、彼が現れたことで徐々に変わっていく家族関係、そして近所で起こる押し込み強盗や、動物の死骸が家に投げ込まれる等の事件の不気味さ。はっきりと正体がわからないものに、じわじわと日常が侵食されていく恐怖と緊迫感に、ページをめくる手が止まらなくなること請け合いです。
しかし考えてみれば「平穏な生活」はそもそも綱渡りの上に立っているものなのかもしれません。今作のように小さな石ころ一つで簡単に崩壊してしまうのかもしれない。昨今も様々な災害や事件が頻繁に起こり、世間は「平穏」からは程遠いと感じています。「平穏」を維持することの難しさを、今や誰もが自覚している時代と言えるでしょう。
そしてこの作品、終盤で驚きの展開が訪れます。詳しくは語れませんが、これまで見えていた景色が一変するような、そんな感覚を味わえます(あえてカタルシスとは言いません)。
ニーチェの有名な一節『お前が長く深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込む』。作中何度か登場するこの一節が物語の非常に重要なキーワードになってきますので、覚えておいてください。
家族小説でもあり、サスペンス&ミステリでもあり、ホラーでもある贅沢な一冊。手に汗握る読書体験がしたい方は、是非ご一読を!
本の詳しい内容はこちらから→『不審者』
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