『春、戻る』(瀬尾まいこ/著)をオススメ!
「僕の妹の名前は望月さくら。三十六歳、誕生日は十二月二十七日だ。冬生まれなのにさくらって名前なんだよね。すごく音痴で、牛乳が飲めない。僕は妹のこと、こんなに覚えてる。お兄ちゃんの名前くらいそろそろ思い出したっていいだろう?」「さくら、結婚のこと何も言ってくれないだろう。それの文句を言いにきたんだ」
年下で見ず知らずの24歳男子が突然現れ、自分の兄だと名乗り、個人情報や好き嫌い、果ては結婚することまで何故か知っている。あり得ない場面から物語はスタートします。「もしや?」と思い母に相談するも「お父さんが死んだの、さくらが八歳の時よ。二十四歳の息子がいるなんておかしいじゃない」とあまりの話のばかばかしさに笑い出す始末。それが自然な反応で、夢ではないけどあまりにおかしな話で現実味も信憑性もない、と自分を納得させる主人公さくら。
けれども、その後さくらが住むアパートの前にも現れ、結婚相手の山田さんが家族で営む和菓子屋にも姿を見せてはさくらの兄であると名乗り、ずけずけとした物言いをする男。普通であればこんな訳の分からない男は追い出されるはず、なのに山田さんには何故か受け入れられ、さくらの家にも上がり込み、様々なアドバイスをする仲に……。
いったい「お兄さん」は何者なのか、どんな目的でさくらやその周辺の人々に近づいているのか。少しサスペンスのような要素もありつつ、そうとも言えない。瀬尾まいこさんの作り出す世界観満載の1冊です。
タイトルが『春、戻る』となっていますが、春を舞台としたストーリーでもありません。このタイトルが示すものを読み解き、ぜひ堪能していただきたいです。
本の詳しい内容はこちらから→『春、戻る』
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