『トラッシュ』(増島拓哉/著)をオススメ!
ピカレスクロマンという小説のジャンルがあります。悪漢小説とも呼ばれ、つまりは悪者が主人公の小説で、『アルセーヌ・ルパン』シリーズや『水滸伝』等がこのジャンルの筆頭です。今回の『トラッシュ』もそうしたピカレスクロマンに属する作品……かと思いきや、とてもその枠には収まりきらない、悪者を超えたまさにトラッシュ=クズたちの物語なのです。
いじめや性的差別、ぼんやりとした虚無感。様々な理由から集団自殺を図った6人の若者たち。しかし、入手した薬が偽物だったことで、全員生き延びてしまう。一度死んだ気になったことで万能感を得た彼らは、自分たちを追い込んだ世の中に向けて活動を開始する。ドラッグの売人狩りから始まり、性差別団体へのテロ、貴重な大判の強奪、そして首相の暗殺計画。世間にはやし立てられた彼らの正義感は次第に暴走していき――。
世直しの名の下に様々な犯罪行為に手を染めていく登場人物たち。しかし、不思議とそこに不快感はなく、むしろ清々しささえ感じられます。ドラッグ、性差別、ヘイトスピーチ、いじめ、SNSでの誹謗中傷。現代にはびこる様々な問題の被害者だった彼らが、世間に一撃を食らわす。このスリルと爽快感が今作の魅力の一つです。
ここまでならば正しくピカレスクロマンなのですが、終盤にかけて疾走するように彼らのクズっぷりが増していき、もはや悪者という言葉では収まらなくなります。世の中に持ち上げられて、次第に暴走し破滅へと向かっていく彼ら。そんな彼らを、滑稽だ、哀れだと断じられないリアルさが、この小説にはあります。今の世の中、一歩間違えば、誰しもが彼らになり得る。クズとの境界線は非常に曖昧で、誰もが簡単にあちら側にいけてしまうのだと、今作は気づかせてくれます。
彼らは無謀で、残虐で、独善的で、あまりに幼稚です。それでもそこに眩しさを感じてしまうのは、自殺から生き延びた彼らが、誰よりも必死に「生」と向き合っているからかもしれません。
本書を手にとって、そんな愛すべきクズたちの生き様を、是非その目に焼き付けてください。
本の詳しい内容はこちらから→『トラッシュ』