エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第6回】「飲み物」フェア“いま、なに飲んでる?”
お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。
テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!
第6回のフェアのテーマは「飲み物」です。
いか文庫 ◆ 本と本屋が好きな店主と、イカが好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活動中のエア本屋さん。
店主 今年の夏は、日本も酷暑だったよー。熱中症が怖くて、普段あんまり水分を取る習慣がない私も、さすがにガブガブ水分補給したよ。
バイトちゃん(以下、ちゃん) 日本も暑かったんですね。こちらベトナムは、水道水を飲めないのでウォーターサーバーを付けているのですが、私も水を飲む習慣ができました。店主のお気に入りドリンクはなんですか?
店主 私は普段は清涼飲料水をよく飲むんだけど、今年は、炭酸水にハマったよ。爽やかさが違う!
ちゃん 炭酸水、私も好きです!
店主 そういえば、この間話した本、『羽がはえたら』に収録されてる「のどがかわいた」ってお話は読んだ? のどの渇きを妄想でふくらませて、いよいよ水を飲む!って時の喜びと楽しさを語る少年のお話。「大げさな!」っとも思うけど、「なんかわかるよ、その気持ち」っとも思えるよね。
『羽がはえたら』 ウーリー・オルレブ 作/母袋夏生 訳/下田昌克 絵
(小峰書店)
ちゃん 読みました!小学生の頃、学校の水飲み場に順番待ちして、水をガブガブ飲んだのを思い出しました。
店主 私にはその記憶はないけど、情景は浮かんでくるなぁ。
ちゃん 休み時間に「水飲みに行こう!」って水飲み場まで一緒に行く誘いがあったくらいでした。
店主 それはちょっと羨ましい思い出!この少年は、自分とそっくりのしぐさで水を飲む友達がいることに気がついて嬉しくなるんだよね。私もこれを読んだ後、彼の友達になったつもりで、水道水ではないけれど炭酸水を愛おしく飲んで、「ぷはぁー!」って叫んでみたよ。渇いていたのどがすごーく潤った!あ、そうだ。次のフェアのテーマ、「飲み物」にするのはどう?
ちゃん いいですね。ほっと一息つけるようなものや、お酒の本もぜひ!
店主 そうしよう!じゃあ2冊目は……これなんかどう?『世界を変えた6つの飲み物』。
ちゃん 世界を変えた飲み物、なんだろう。ビール、コーヒー、緑茶?
『世界を変えた6つの飲み物』トム・スタンデージ著(インターシフト)
店主 ビール、コーヒー、正解! 残りは、ワイン、蒸留酒、紅茶、そしてコーラです。
ちゃん 緑茶じゃなくて紅茶。惜しい!
店主 人類の歴史の転換期には、それぞれを象徴する飲み物があったっていう論点で、いつ、何が、どうやって生まれて、人々にどんな影響を与えていったか?が説明されていくんだけどね。
ちゃん ほうほう。
店主 農耕が始まったことでビールが生まれて、地中海沿岸の文明で生まれたワインが海洋交易に使われて、大航海時代に紅茶やコーヒーがヨーロッパに輸入されて、さらにそれらで工業や産業が生まれて……と。コーラは戦地に向かった兵士が持っていったことで世界に広まったとかも、歴史をそういう視点から読み深められるなんて!って感動したんだ。
ちゃん なるほど!
店主 特に気になったのは「コーラ」。なんとコカ・コーラを発明したのは、アメリカの薬剤師なんだって。
ちゃん 薬剤師!知らなかったです!
店主 薬剤師と言っても「売薬」っていう、19世紀後半にアメリカで人気のあった、実際に病気を治すのではなく“元気になる薬”を作って売っている人だったそうなんだけど。コカとコーラという植物を使って、「美味しい!爽やか!楽しくなる!元気になる!」っていう広告とともに、薬局でシロップを販売し始めたんだって。その後、薬品から清涼飲料水として売ることにシフトチェンジして、万人に人気が広まったらしいよ。
ちゃん 私は日本のコンビニにたまにある「氷点下コーラ」が好きで、ベトナムの暑い夏にあれを飲みたい!と何度思ったことか。シロップもおもしろいですね。
店主 最近日本では、オリジナルコーラのシロップを作って販売している「クラフトコーラ」も注目され始めてるよ。
ちゃん コーラって大手二社のイメージしかなかったから、どんな味がするんだろう。いつか飲んでみたいなぁ。
店主 そうそう、香港には「ホットコーラ」っていう飲み物もあるらしいよ。涼しくなったら飲んでみたいんだよね〜。
ちゃん あったかいコーラ!あったかかったら、シュワシュワ感がなくならないのかなぁ。
店主 「炭酸の泡が消えないうちにいただきます」って、書いてあるよ。『世界のホットドリンクレシピ』っていう本に。ベトナムの「ルアモイ」っていうホット焼酎も載ってたけど、知ってる?
『世界のホットドリンクレシピ』誠文堂新光社編
ちゃん 初めて聞きました。ベトナムにもホットのお酒があるんですね。
店主 暑い国のイメージがあるから、意外だよね。ベトナムで人気のある蒸留酒で作るそうで、風邪の予防にも良いんだって。
ちゃん 調べてみました。ベトナムウォッカと書いてある。アルコール度数45度と!強いお酒。でも気になるから、さっそく明日スーパーで見てみよう。
店主 実物見つけたら、写真送って〜。他にも、思わず言いたくなる「ゴゴリッ・モドリッ」っていうベラルーシのミルクセーキや、ペルーのインカ時代からある、薬草や果物がふんだんに入った飲み物、あと私の憧れの飲み物、アイリッシュコーヒーも載ってる楽しい本だから、これも取り上げていいかな?
ちゃん ゴゴリッ・モドリッ!たしかに、言いたくなる。ぜひ取り上げましょう!そういえば、店主から教えてもらったブックバーが舞台の漫画『西荻ヨンデノンデ』にもアイリッシュコーヒーが出てきましたよ。作家の姉とバーテンダーの妹が営むお店で、お客様が読んでいる物語に合うお酒を出してくれるんですよね。
『西荻ヨンデノンデ』玉川重機 作(講談社)
店主 そういえば出てきたね!でもまさか、アイルランドのウイスキーとコーヒーで作るカクテルが、小泉八雲の『怪談』とつながるとは思わなかったよ。
ちゃん 私が印象的だったのは、フランス人作家カミュの『異邦人』にまつわるお話でした。物語のキーポイントになる「太陽」をイメージしたカクテルを作るんですよね。強く太陽が照りつける主人公の故郷アルジェリアのワインと、お客様の地元から送られてきたという太陽をたくさん浴びた柚子を使って。
店主 うんうん、その組み合わせも素敵だなぁって思ったよ。
ちゃん 思い入れのある本と自分の思い出をリンクさせてくれる飲み物って、どんな味がするんだろう?そんな一杯を私も味わってみたいなぁと思いました。
店主 飲み物って、いままでそんなに注目してなかったけれど、人やモノ、思い出にまでつながる、実はとても大切なものなんだって気づきがあったね。
ちゃん たしかにそうですね。
店主 そうだ。今回のSNSイベントは、「飲み物と私」ってテーマでミニエッセイを募集するのはどう?思い出はもちろん、オリジナルドリンクとかも発信してもらったら、お店で飲むだけじゃなくお家で試してみたりもできそうだよね。
ちゃん いいですね!私もベトナムの飲み物で応募していいですか?
店主 もちろん!楽しみにしてます!
※本記事は『小説すばる』2020年10月掲載分です。第7回は『小説すばる』2020年11月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)