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Rの朝ん歩
※ボクの素行に問題があるのか、Rとボクのトライアル期間は延長になりました。正式に委託契約を交わすまでは名前など具体的な素性を書くことができません。イニシャルから名前を想像してお楽しみください。
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ボクとRの朝散歩はいきなりこんなロケーションからスタートする。妻のドレミが塩尻まで出勤するため6時20分には家を出る。その車に便乗して村の田んぼまで下るからだ。車を降りるのは6時25分頃、冬至近い今の季節なら日の出まではまだ間がある。写真は少々明るくレタッチしてあるが、実際には辺りは薄暗く、Rの後方、南アルプスの峰々も黎明の空を背景にシルエットに沈んでいる。
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「さ、R、行こ。Come!」
ここから家までは、ほぼずっと上り坂なので寄り道しながら帰ると1時間ほどもかかる。Rの写真は「Stay」させて距離を取ってからシャッターを切っている。よい姿勢をするとクッキーがもらえることを学習し始めている。
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ドレミが下って行った西の方角を見ると、諏訪盆地にちらちらと灯りが瞬いて幻想的だ。薄闇の中、その向こうに白く浮き出して完全に遠近法を狂わせているのは北アルプスの峰々である。
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後方で南アルプスに日が当たり始めていた。一際高く美しい峰は甲斐駒ヶ岳(2,967m)手前味噌の村自慢になるが最もスタイリッシュな甲斐駒を眺められるのは我が原村だと思う。
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Rは排泄の際、躾けられたものかそれとも自分で安全確保を試みる習慣なのか、必ず中腰で三度回転し、草丈を低く潰してからその中心にしゃがむ。雪の中だとご覧のようなミステリーサークルを描く。そのアクションと跡のために始末を見逃すことがなくてとてもいい。
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車道に出るときはリードを短くしてHeelさせる。さすがひと月前まで現役だったRのHeelは完璧である。左足に体をすり寄せて歩くのは車から盲目の主人を守るためとHeel《ヒール 》していることを触覚に報せるためである。引退犬となった今はボクが彼を庇いたいと思うのだが右に付かせるよう訓練し直すのは難しいだろう。今のところ道交法を遵守することなく左側を歩かせてもらっているが街中に行くようになれば危険である。悩ましいところではある。
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東に向かう道はすべて急勾配の上り坂となる。彼のペースに合わせると速足ではすまない。腕を大きく振らないとついて行けない。まるで競歩だと可笑しくなって一人で笑った。Rはきょとんとしている。
また登る。コマンドのリストにありそうな「Slow」も「Cruise」も通じない。あえぎながら「R!『ゆっくり』」と言ったら急に歩調を緩めた。やった。隠れコマンドをひとつ見つけた。
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八ヶ岳を覆っていた雲が上がってきた。正面は阿弥陀岳2,805m、左が横岳、右は権現岳、主峰の赤岳は阿弥陀にぴったり重なってちらりとしか見えない。森に夜来の新雪が美しい。
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振り返ると北アルプスが燃えていた。山が日の出の一瞬だけ真っ赤に染まることを「モルゲンロート」と呼ぶ。維新後、医学と同じく近代登山技術はドイツからもたらされたため「ゲレンデ」「ザイル」「ヒュッテ」など山の用語にはドイツ語由来のものが多い。
「クジャク(中国)」「カステラ(ポルトガル語)」「サバンナ(スペイン語)」「カチューシャ(ロシア語)」…美しい外来語は海外との文化交流の歴史が記しされた日本語である。最近、中学でpHをむりやり「ピーエイチ」と読ませるよう指導するなど、カタカナ英語(正確には米語)至上主義が教育にはびこっている。ボクは日本語としての外来語を守る立場からこれに反対する。
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一人空しく教育行政に憤っているうちにモルゲンロートは早や終わり、諏訪盆地全体がピンク色に染まった。ドレミの車はそろそろ塩尻峠にかかった頃だろうか。
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森までもう一息。
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雑木林の道を抜ける。小枝の雪が斜光に映えて美しい。
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母子らしきキツネの足跡。キツネやシカの足跡は道や畑のそこらじゅうについている。
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すっかり夜が明けて阿弥陀の南側にも光が差した。
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7時30分帰宅。しらべ荘も雪の中にある。母を起こして朝食を調え、それからお待ちかねRの朝食だ。