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庭木(大木)の伐採
雑木林を開いて家を建ててから30年経つ。当初、形のよい大木を20本ほども庭に残しておいたが、森の中にあった木は周りを伐られた状態になると弱い。10年ほど前から白樺を中心に倒れそうな木を少しずつ伐って来た。いよいよ今年はこのアカマツと裏のハンノキに手をつけることとなる。
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四阿と比べてもアカマツの大きさがお分かりいただけるだろう。これが家の方に倒れてきたら木造の屋根などはひとたまりもない。
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さて我が家は八ヶ岳山麓の風致地区に指定された地域なので、たとえ庭の木であろうと伐採には自治体の許可が必要がある。
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役場の農林課に行って申請書をもらい提出書類を確認する。
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役場ロビーのブロンズ像は裸のお姉さんである。作者は彫刻家清水多嘉示氏。専門家によるこの作品の評価は高い。しかしここまで肉感的だとこのご時世によくぞ無事正面玄関にしゃがんでいられるものではある。村の女性たちのアートに対する造詣が深いのかもしれない。
ただブロンズの裸婦像には別な側面もある。すなわち軍国主義下に建てられた軍人の銅像に替わる形で、戦後、いわば平和の象徴として全国の公的な場所に設置されたという歴史である。建立時、人々が裸婦像に込めた平和と民主主義への祈りを切り離して考えることはできない。各地で撤去の賛否が分かれているのは致し方ないところである。
さて、申請書には所有者や土地の面積、伐採理由、業者などを記入し、登記簿謄本、求積配置図、テープを張った伐採前の樹木の写真を添付する必要がある。森林面積の単位にはヘクタールが使われる。ボクは去年まで数学を教えるのが仕事だったため苦にはならないが、果たして平方メートルや坪をヘクタールに換算することは普通の人には簡単なのだろうか。1アールは100平方メートルなので、100アールは100,00平方メートル、しらべ荘は1,575/100,00≒0.158haとなる。
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最新の固定資産税の明細を取ってあればコピーして謄本の代わりに使える。このへんドレミの書類管理は完璧である。
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申請しても一度に伐採できるのは樹木の総本数の40%が上限である。そこで求積配置図には伐採する木だけではなく、残る木も記入しなければならない。ボクはイラストレータで比較的正確な図を描いたが、このへんで自力をを諦めて申請も業者に任せる人が多いだろう。
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こちらは裏のハンノキ。伐採木にはすずらんテープを巻いて撮影し、プリントした写真を提出する。後で役場の農林課から職員が実地に確認を取りに来る。
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10日ほどで適合通知書↑が郵送されてきた。これで許可が下りたことになる。
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業者は相見積するまでもなく、近くの土建屋さんが思っていた予算よりずいぶんと低い見積を出してきたので即決した。実際の作業は「サル」と呼ばれる伐採専門業者が下請けする。
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重機が入るのかと思ったらさにあらず。ターザンが使うような一本梯子をかけてするすると木に登り、高いところから伐ってはロープに縛り、滑車で下ろす作業を繰り返す。落とし切りというらしい。「サル」という異名の由来でもある。
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あれよあれよという間にハンノキは丸太になって積みあがった。玉切りはサービスでしてもらった。10時に3時にお茶お菓子出しをした成果かもしれない。
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2日目はアカマツを伐ってもらった。
伐採を急いだ理由は言うまでもなく昨今の異常気象である。都会では猛暑が問題になっているが標高の高い森にも異常は起きている。一つには台風による暴風雨の激しさである。森の巨木さえなぎ倒すような風が吹く。そしてもう一つは雪の質である。しらべ荘に降る雪は両手で掴もうとしてもぱふっと飛んでしまうようなパウダースノーだ。角スコで掻こうとしてもたちまち粉になって舞ってしまう。ところがここ数年、水分の多い雪が頻繁に降って木々の枝に着雪するようになった。そのまま凍ったところに次の着雪が来ると重さに耐えきれず大木ですら根元から折れる。この2月には裏の森で数本の落葉松が倒れた。折れるときには乾いたカーンという音が森に響く。以前ならそんな着雪は10年に一度ほどの災害だった。家屋にかかりそうな木は早めに除いておくしかない。
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ウチのシンボルのように庭に君臨していたアカマツが半日であっさりと姿を消した。一抹の寂しさを感じる。あたりががらーんとして何だかとても広く感じる。
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伐採に係わる作業はこれで終わりではない。村長宛の報告書を役場に届けなくてはならない。もちろん図や切株の写真も全き意味で「添付」である。
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そして玉切りの山…運び出してもらうととても費用がかかってしまうし、そもそもウチは薪ストーブを使っているので薪割りするのが当然の処理方法である。だがこの薪割り、まさに大地と肉体との勝負となる。楔や大木槌などを動員し筋肉の限界まで斧を振る。長い都会生活で箸より重いものはめったに持たなかった。大上段から斧を振り下ろせるのはせいぜい20分、30回ほどである。試しにたった1個の玉を薪にするには数日を要した。
長くなってしまったので薪割りについては別に文章を立ててみたい。