自分のエモーショナル・サイクル・カーブを意識する

エモーショナル・サイクル・カーブとは、変革期における組織の心理変容のプロセスに関する概念で、もともとは米国のシンクタンクであるマックグループが提唱したものです。

たとえば、大きな変革プロジェクトが始まるというとき、プロジェクトチームの士気は大いに高まります。プロジェクトメンバーに選ばれたことのプライド、プロジェクトの結果達成されるビ ジョンへの興奮などで人心はいやが応にも盛り上がる。

ところが、プロジェクトが進むにつれて様々な障害が浮き上がってきます。当初は可能と思われたものが不可能であること が判明したり、精密にシミュレーションしてみると、当初思われた程効果が大きく無いこ とが見えてきたり、当初プロジェクトに賛成してくれたキーマンが各論の段階で寝返った り、といった事態です。

こういった事態に直面してプロジェクトが暗礁に乗り上げると、当初、上昇曲線を描いたエモーショナル・サイクル・カーブは下降局面に入っていきます。

しかし、この低気圧状態は、程度の差こそあれ変革プロジェクトにおいては常に見られる ものなのです。変革を何度も経験している人にとっては、「いつものこと」であって、こ こを乗り切ればまたエモーショナル・サイクル・カーブはふたたび上昇曲線に入り、プロ ジェクトは無事ゴールにたどり着くことになるわけですが、変革プロジェクトの経験が少ないと、この低気圧状態で「お先真っ暗」になってしまい、プロジェクトをそのままダメ にしてしまうことが多い。

一方で、変革プ ロジェクトを何度か経験しているようなマネージャーにとってみれば、これは一種の「おたふくかぜ」みたいなものなので「勢いと楽観主義で望めば、まあなんとかなるだろう」 くらいのことで乗り切ってしまいます。

このエモーショナル・サイクル・カーブを、個人の人生の戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーに援用してみると、そのままプロジェクトや転職後の心理変容プロセスと同じであることがわかります。

まず、転職の直後は、高揚感でエモーショナル・ サイクル・カーブは上昇曲線を描きます。新しい仲間や、新しい名刺、新しいオフィス、 (場合によっては)上がった給料明細等にドキドキする時期です。この高揚感は短い人で も 2~3 ヶ月、長い人だと半年くらいは続くのではないでしょうか?

ところが、時間がたつに連れて、当初思っていたことと異なる様々な面が見えてきます。採用面接では好印象だっ た人たちも、一度組織の仲間や上司となれば、いつまでもお客さん扱いはしてくれません。 ましてや中途入社であればある程度の時間でもって成果を追及されるのは当たり前のこと でしょう。入社後に初めて見えてくる現実によって、当初の期待や想定が打ち砕かれて戸 惑うことをキャリア論の世界では「リアリティ・ショック」と言っています。

リアリティ・ショックには「仕事に対するリアリティ・ショック」と「組織に対するリア リティ・ショック」の二種類があります。

まず「仕事に対するリアリティ・ショック」についてご説明しましょう。これは、わかり やすく言えば「こういう仕事だとは思わなかった」という戸惑いのことです。

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