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本の上梓と、プロになる事~山小屋ガール本に寄せて~

近日書籍が発売の、吉玉サキさんのnoteを拝見していて目にとまった記事がありました。

「私なんかが本を出してしまっていいのか」という感情がある、と吉玉さんはおっしゃっていました。
出版社から本を上梓してプロ経験者になる。果たしてその資格が、実力が、自分にあるのだろうかと考えてしまう不安が理解できたのです。


実は私も、シナリオライターとしてゲームを世に出したことがあり、肩書としてはプロ経験者です。
今は求職中の主婦ですが、元プロとして吉玉さんにこうお伝えしたく、今日の記事を書きます。

「大丈夫。それはあなたが、山に登るための道具やルートを選んで備えたからできたことなんですよ」と。

プロになることへの憧れとハードル

私は学生の時から、小規模ながら同人誌活動をしていました。同人誌を出していた友人達の中には、雑誌で連載を持った人やアニメーターになった人、デザイナー業で生計を立てているプロ・元プロも何人かいます。

同人活動自体は趣味の位置づけですが、同人で画力や筆力を磨いてプロにステップアップする作家さんは一定数います。そうした点で、プロの領域が比較的近くにある分野と言えるでしょう。

ただ、どんなに創作活動を頑張っても芽が出ない、作家の持ち味が評価されないなど、プロになれない作り手も多数います。
出版社から本を出すことが憧れのひとつである状況は、昭和の時代から令和になった今も続いている印象です。
でも、そういう認識や環境が変化したら、プロに対しての評価はどうなるでしょう。

日本在住の子供は義務教育で小学校と中学校を経て、それなりの人数が将来のために高校に進学します。
高校に行くのと同じくらいの普遍性で、誰でも行きたいステージに進めるようになれば、「私なんかが選ばれちゃっていいのかな」と思うこともなくなるのではないでしょうか。
だって皆やってるんだし、じゃあ私も、と考えやすくなるはずです。

もしもエンタメ業界に潤沢な資金や余裕があって、出版社が乱立し「作家志望? いいよいいよ、ウチで連載してみな!」と気軽に作り手が採用される状態だったら。今以上に玉石混交になりますが、プロを名乗れる人の数はぐっと増えます。
結果としてプロ=一部のめちゃくちゃすごい人、とみなされる空気が薄れ、「選ばれし者」感が減るのではないでしょうか。
(トロフィーとしての作家の価値は下がるかもしれませんが)

学校の先生もプロ、保育士もプロ。清掃員も、SEも、美容師もYoutuberも、仕事で生計を立てている人はみんなプロです。
他の業種と同様に、プロ作家が生活の中のどこにでもいる状態になれば、「私なんかが」の抵抗感を抱かなくなるかも、と想像しました。

選ばれる条件、選ぶ側の考え

「私なんかが」の理由として、存在の希少性を前の項目で挙げました。
それに加えて「選んでもらえるような価値が私にあるとは思えない」といった、評価を肯定することの難しさと呼ぶべき心理があることも、私は理解できます。

その点について私の経験から言うなれば。
「こうなったらいいな」と願って、動く側(吉玉さん)が行ったことと。
「こういう人ならいいな」という出版社の期待がちょうど一致したのだから、不安に思わなくてもいいですよ、とお伝えしたいのです。

私がプロになれたのは、ちょうど得意そうな分野でのシナリオライター募集が出ているのを見つけたのがきっかけでした。
面接を行い、作品も提出しましたが「文章のクオリティが素晴らしい!」といった理由で雇用されたわけではありません。

採用してくれた方もシナリオライターだったのですが、「俺は男だから、女性向けの文章の良し悪しとか、何が売れるかなんて分かんないもん」と宣言していたくらいです。
つまり、募集をかけたらちょうど女性向けが書けそうな人が応募してきた、その枠に私が引っかかったので採った、ただそれだけ。
強いていうなら、能動的にやってみたいと問い合わせをし、当時していた介護の仕事を辞めて引っ越してでも勤める気持ちがあったくらいでしょうか。

ですがもし、このライター募集に応募した時点で、私が趣味の小説のひとつも書いたことがなかったら。
会社側が女性に向けた作品を作ろうとしているのに、バリバリに男性が好むテイストの作品ばかりを書く、それしか書けない人だったら。
きっとそこでライターにはなれていなかっただろうな、と。

未経験者でも可能な場合はあるものの、戦力になるまでに時間がかかります。かつ、作風がブランドのテイストに合わない人材を使うのはかなりの博打なので、もっと適した人を探して起用するほうが良い作品への近道になるからです。

採用する側は、会社の利益のために「この人を使ってみたいと判断する最低限の条件」は設定しているはず。
この作風ならニーズがあると感じた、そういう作品を吉玉さんが書ける人だった。その事実があり、興味のある層が一定数見込める時流とマッチングしたからこそ、叶った書籍化だと私は思うのです。

やれる事と需要の関係

最初に紹介した吉玉さんの記事で、お友達のBさんがドラゴンクエストのことを例えに出していたので、私もそれに絡めて書いてみます。
ドラゴンクエストシリーズの一部には職業の概念があり、特にドラクエⅢでは仲間の職業をどうするかで、冒険の攻略の難易度が変わったりします。

勇者・戦士(もしくは武闘家)・僧侶・魔法使いの組み合わせが、攻守に優れておりポピュラーなパーティです。
これが勇者・戦士・戦士・武闘家だと、回復を担えるのが勇者だけなので、強いけれどもダメージを受けた場合に困ることが予想されます。
勇者・遊び人・遊び人・遊び人で編成した人は、そうとうドラクエに慣れているか、ネタ系が好きな人ですね。

この職業チョイスは、出版社側から見た起用したい作家のニーズにも似るのではないでしょうか。
最近流行りのWebからの書籍化ネタは、家族・恋愛系・ペット話などが多いように感じます。それだけ読みたがる層が多いわけですが、手掛けるクリエイターも多いため、個性のあるネタを出せる作家でないと売り上げに繋がりません
いわば、ルイーダの酒場で選べる仲間の職業が戦士ばっかりで、これから戦士になろうとしてもパーティーに入れてもらいにくい、そんな感じです。

勇者=出版社側は戦士以外の人材を探している。そこに、山小屋勤務経験の話を書ける吉玉さん(魔法使いor僧侶?)の存在が見つかった。
この人をパーティーに入れれば個性が偏らなくていいぞ、と勇者へいほ゛ん(平凡社)は思ったでしょう。そんな需要がうまく合ったのは、他と競合しにくそうなトピックで記事を書く選択をした吉玉さんの英断があったからこそなのです。

目標に向けての的確な準備と、経験の大切さ

やりたい事があった時、どのように対処すれば夢を叶えられる率が高くなるでしょうか。
目標をに対しての準備がちゃんと出来るかどうか。最終到達点に向けてのトライ&エラーが的確に行えるか。そこが上手かったからこそ、吉玉さんは書籍を上梓できたのだと、記事を拝見していて感じました。

仮に「富士山に登ってみたい」と奮い立ち、目標に設定したとします。
そこで「まあ、行けばなんとかなるっしょ」と、Tシャツにハーフパンツとサンダル履き、ウエストポーチにスマホと財布を入れた出で立ちで山登りを始めたら
経験者に「馬鹿じゃねえの!!? 死ぬ気か!!!???」と全力で止められるのは、目に見えていますよね。

登山をするならまず、必要な体力を筋トレなどでつけておかないといけません。山の気候に適した衣類や靴を選び、天気や季節に合わせてセットアップを考え、着替えや予備もきちんと用意する必要があります。

そしていきなり本命の山に挑むのではなく、近場の比較的道が整備された標高の低い山に登って感覚を掴むこと。自分の体力で無理なく進めるペースを把握し、食料・水分・休憩がどの程度必要か理解すること。

ルートを外れて迷った場合の判断や、これ以上進めない時に引き返す勇気も要ります。そうやって徐々に難易度をあげていき、最終的に富士山登頂のような大きな目標を達成するのが、適切なステップアップと経験の積み重ねでしょう。


吉玉さんはまずnoteを書き始め、継続的に執筆することで書くペースを掴みました。書くことに馴染んだところで、noteのコンテストに応募。受賞の実績を作ります。

noteでおすすめ記事に取り上げられるなどの活動がWebでの記事掲載に繋がり、Webライターという肩書にレベルアップ。そして連載していた山小屋話が書籍化されるという、目標への到達。
夢に向けてちゃんと筋トレをし、持ち物を選んで身に着け、歩く経験を積むような地道な工程です。

最初からTシャツサンダルで山頂を目指すようなやり方だったら、こうはなっていなかったでしょう。
手掛けた事で少しずつ実績を出して、その次に繋げるルート選びが適切だったからこそ。本になった事を喜んでいる人達は、この道のりをちゃんと分かっていると思います。

おわりに

長々と書いてきましたが、改めまして、発売おめでとうございます。
本を出すことがプロの到達点ではありません。続刊を出す機会もあるかもしれませんし、それがないこともあるでしょう。

私は次回作がなかった人間ですが、それでもプロとして作品を世に出したことは(とても大変でしたが)いい経験でした。
売り上げも良いとは言えなかったものの、その時に得たノウハウで、何かやれたらなと考える余地をもらいました。

気負わずとも大丈夫、気負っちゃっても大丈夫。
山小屋ガールリリースで経験されることは、これまでと質の違うものだと思います。願わくばそれが、プラスマイナスでプラスだと思えるようなものでありますように!

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他にも何か読んでみたいなと思った方は、よければこちらをどうぞ。

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沢村脩
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