短編小説『悪魔の証明』
―佐藤保―
僕には嫌いな人間がいる。そいつはクニキダという名前だ。世界的に有名な科学者で、僕の先輩でもある。僕は今まで、自分がそこそこ優秀であると自負していたが、クニキダの前では無意味であった。僕のすることすべてにおいて、クニキダはより優秀であった。しかしクニキダは決して僕を嫌っていない。あるいは見捨てないというべきか。僕が彼の立ち上げた研究室に呼ばれたのは、なんのきっかけも持たない程に唐突だった。大学の同期であり、悪友であった僕を真っ先に呼んだのは他でもないクニキダ自身だ