濁流の中のブライトン
オールを漕ぎ続ける未完成の船
今シーズンのイングランドサッカープレミアリーグが佳境に入ってきた。
優勝、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ圏内の争い。
そして残留争いやFAカップ。
これほど混戦だったことがあるのだろうかというぐらい、1位から最下位まで目が離せないシーズンが展開されている。
そんな中、三笘選手が活躍を見せるブライトンは先日、残留争いをしているチーム相手に大敗した。
そんなことが普通に起きてしまうこのリーグで、彼はどうやって活躍しているのか。
三笘は流川楓タイプ
センセーショナルな三笘選手は当初、プレミアリーグではサプライズだった。
注目度がそこまで高くなかったがゆえに活躍できたという側面もある。
その後は相手チームが三笘対策を講じてきたことによって、ブライトンも三笘のプレーの幅を広げることで対向してきた。
細かい点は置いておいて、大まかには以下の通り。
1:左に張ってドリブル勝負
2:内側に入ってドリブル・パス
3:裏に抜けるランニングでスルーパスを狙う
4:センタリングに対しての詰めを徹底する。
ここまでの積み重ねはうまくいっているが、彼もブライトンも次のステップに向かわなければいけない。
プレミア一年目ということもあり、探りながらのシーズンとなったが、時に結果を出せない悔しさをエネルギーに変えて成長できている。
ドリブラーが一対一で勝つためには、相手に布石を打つことが重要になる。
その為に上記の1~4のような形で相手の思考に複数の選択肢を持たせることが必要になる。
三笘選手は、一つずつ積み上げることができている。
5:先に自分から仕掛けてドリブル突破・パスを狙う。
今後必要なことは、チームをけん引するプレーをすること。
上記の「5」は三笘のためだけではなく、チームの助けにもなる。
サイドの低い位置からでもドリブルを仕掛けることの利点は、相手チームを押し返す効果があるということ。
マッチアップするディフェンダーは容易に足を出せないので、徐々に下がりながらの対応になる。そうすると労せずして味方チーム全体を押し上げることができ、ビルドアップの際のディフェンスの負担が減る。
ドリブルのよってチームを引っ張ることができ、起点となることで局面を担う存在になれる。
レアルソシエダの久保選手はこの「5」がとても成長している。
しかも相手に奪われることなく、そのままボールをしっかりと良い場所に繋いでいる。
これができるかどうかの差はとてつもなく大きい。
三笘選手は低い位置でボールを受ける際に、ボールを奪われてしまうというやらかしが割とある。
実はこのパターンで三笘選手のミスが起点となり、ピンチ・失点を起こしてしまっていることがある。
盲点か、目をつぶっていたのか
もう一つ大きな改善点は三笘本人ではなく、サイドバックの刷新だろう。
このまま三笘選手がブライトンに残るなら、サイドバックには違う選手が必要になることも考えられる。
ここまで三笘選手の相棒のエストゥピニャンは、運動量と攻撃参加を武器にスタメンで奮闘しているが、成長に停滞がみられる。
彼のシュートやセンタリングは精度が低い。
グラウンダーのスルーパスもほとんど出せていない。
つまり、攻めあがる割には試合を作ることができていないので、相手ディフェンダーの脅威になり切れていない。
個人プレーで終わってしまうことが多いのが残念だ。
個の台頭。DFの進化。
エストゥピニャン選手はボールを懐深くに持ちすぎているので球離れが遅く、切り返しや反応の初速が遅い。
その為、そこを突かれてボールを奪われることがある。
また、三笘選手を筆頭にタイミングよくパスを出して見方を活かすプレーができていないのがエストゥピニャンには致命的だ。
アーセナルに移籍したベンホワイト選手のように、ボールを回してバランスを取りながら形を作ってゆく安定感のある攻め上がりが彼には必要になってくる。
その点、途中出場するディフェンダーのコルウィル選手は、比較的三笘選手にテンポよくパスを出すことができている。
右サイドが主戦のランプティ選手が一度左サイドで試合に出たことがあるが、これは新しい形を試している可能性が高い。
もしかしたら右利きの選手とのコンビの方が三笘選手とは相性がいい可能性もある。
現代サッカーはサイドバックがゲームを作る役割もあり、パス能力が必須だが、エストゥピニャン選手はまだ自分中心のサッカーから抜け出せていない。
明日は我が身のプレミアリーグ
一見上手くいっているように見えるものも、結果が出なければ意味がない。
そしてうまくいかなければ、新しい選手を買う。
その資金を調達するのは難しくはない。
それがプレミアリーグの現状だ。
リーグ全体の選手層だけで言ったら、プレミアリーグは今とんでもないことになっている。
ブライトンは選手層が薄い。
若手の台頭で活気はあり、ベテランもいるが、
勝者のメンタリティを持つ経験豊富なトップ選手があまりいない。
ブライトンは試合の中でゴールチャンスを山ほど作れている。
しかし得点がそれに比例していないのは、一回のゴールチャンスの重みが選手たちの中で軽くなっているからだ。
選手層が薄いチームはスタメンが固定される。
そうなると競争が少なくなり、局面で集中力を保つのが難しくなってくる。
フィニッシュの精度は練習だけではなく、メンタルが左右する。
ここが未熟なので大事な場面で判断・集中力が途切れてしまっていることが終盤にきて見受けられる。
その点、ウェルベック選手から学べることは山ほどある。
彼のポストプレーには唸るしかない。
途中出場であれほどのパフォーマンスを繰り出すクオリティは凄まじいとしか言いようがない。
ブライトンというチームには伸びしろがたくさんあるが、ヨーロッパリーグの挑戦権を得るかどうかで来期はガラっと変わってしまうと考えらえる。
夏の移籍は本当に何が起こるかわからない。
因縁のライバルチームからエースを引っこ抜くことが起きてしまう世界でもある。
三笘選手にはこれから、様々な思惑と野望が渦巻くプレミアリーグに翻弄されながらも、しっかりと階段を一つずつ上がってくれることを願うばかりだ。