蹴球追いかけっこ
ヨーロッパのサッカーシーンが一息つく中、今後のサッカーのトレンドはどこへ。
現在の日本代表は、トレンドを取り入れつつ選手の特性を生かした戦術を確立しようと模索している。
世界のトップに比べればこの取り組みは決して速いとは言えないが、試合でトライし、選手が形にしようとしている姿が見られるのは期待感がある。
日本代表に関して言えば、「本気の試合」ということを求めるのならばアウェーでの試合でこそ真価が問われる面がある。
今回の対エルサルバドル、ペルー戦はホームゲームとなったことで海外組の選手たちはリラックスしながらも高いモチベーションで試合をしていたことが高い評価となっている。
変わらない概念
スポーツでよく言われる言葉の一つに「練習でできないことを試合でできるわけがない。」
というものがある。
よく言われる言葉だが、その通りだ。
一方で、練習にも限界はある。
サッカープレミアリーグの三笘選手はセンセーショナルなシーズンを送った。
ボールと相手の「間合い」を緻密に支配したドリブルスタイルは素人も玄人も唸らせる特異なものだ。それを理詰めで築き上げた彼の努力も素晴らしい。
しかしフィジカルコンディションがついていかなかった。
選手層に問題があり、ターンオーバーできないがゆえに、活躍する選手を休ませることができない中堅以下のクラブの宿命でもある。
選手はトレーニングだけでは90分フル出場できる体を準備できない。
これは練習で強度を上げればいいというものでもない。
練習の負荷と試合の負荷は別物で、仮に試合に見合う負荷をトレーニングで行えば、選手が故障してしまう可能性がある。それはリスクでしかない。
サッカーの試合は、緊張感、選手同士の絶え間ないコミュニケーションや駆け引き等、エネルギーをフルに活用しなければ戦えない。
ゆえに怪我等から復帰した選手はリスクのない時間帯や勝利が確実に見込めるような状況で、限られた時間の試合出場をこなしてゆくことでコンディションを作る。
現代サッカーはデータの活用が全盛だが、選手もフロント陣も試合では予測通りのことはほとんど起きないことも理解している。
科学的準備は確率を上げるにとどまる。人間のやることに絶対はないからだ。
トレンドのスピードアップ
現代サッカーはシステムが成熟し、国やリーグによるチームスタイルの違いが少なくなってきた。
トップチームで活躍する選手や監督は特にそう感じている。
データを駆使して築き上げた成果が、上位下位のチームの横並び化を実現したともいえる。
下位チームのジャイアントキリングがいまだに起きるのも、ここに起因している。
戦術がチームを爆発させ、その中で先制点の重要性も増してきている。
攻撃陣は必然的に進化する
近年注目される選手は、局面を一人で打開できる選手だ。特にサイドアタッカーで顕著に見られる。
フィジカルの負担やシステムの成熟の結果、現代サッカーでファンタジスタは生まれなくなったと言われている。
しかしアタッカー陳はバラエティに富んでいる。
そんな時代に日本では三笘、久保、伊東選手らが台頭してきた。
現代サッカーを理解しアップデートし続けながら、監督の要求するコンセプトを体現することができた選手たちは、その中で培ってきた個人技を発揮し続々と活躍の幅を広げている。この現代サッカーでは、今後どんな変化が訪れるか。
サッカートレンドのいたちごっこは想像以上に速いスピードで行われている。
アタッカーは厄介だが封じることは可能だ。
三笘選手も二人がかりでサイドを封じられ、内側や裏への抜け出しのパターンを増やして対抗せざるを得なかった
そんな中で注目なのはマンチェスターシティのギュンドアン選手や、デブライネ選手のように決定的なパスを出して、自らも得点を重ねる選手の重要性が増してきていることだ。
これはデータ収集とシステムの構築において、アタッカー陳の個の技術が補完された結果、そこへと導く担い手の能力の重要度が上がったことによるものだ。
偽サイドバックやセンターバックの攻撃参加、ゴールキーパーのディフェンダー化も、起点は中盤のセンター一人ないしは二人の動きにかかっている。
さらに、攻撃の軸となる選手とフィニッシャーのコンビネーションの精度がより緻密になってきている。
日本でいえば遠藤、森田、旗手、鎌田選手のクオリティがチャンスを作り上げる起点になるかどうかが問われることになる。
ハイレベルすぎる現代サッカー
重要なことは、この一連の作業を「個」に頼るのではなく、一つのシステムとして構築し、再現性を確立できなければトップオブトップには到達できない次元に来ていることだ。
テレビやパソコンで観戦している視聴者は俯瞰で試合を眺めている。
その目線ですら追いつかない創造性と高い質のプレーが実際に起きていることを考えると、我々サッカーファンは認識をあらためる必要があるかもしれない。
現代サッカーでは想像以上のせめぎあいが戦術に落とし込まれて、ぎりぎりの攻防が繰り広げられている。
一つの懸念事項は、日本代表でアタッカーが台頭してきたのが、ここ最近ということ。
世界トップレベルではアタッカー、特にサイドアタッカーは10年以上前からフォーカスされていた。
しかも最近のマンチェスターシティは、試合中の可変という考えで言えば、偽サイドバックのみならず、センターバックのボランチ化までやってのけている。
つまりフリーの状況を少しでも作り上げるために「偽」概念をほかのポジションでも確立させることで、マンチェスターシティはプレミアリーグ、カップ戦、チャンピオンズリーグの三冠を成し遂げたようなものだが、次のシーズンはどうなるのか。
グアルディオラが今後しばらくサッカーのトレンドをけん引してゆくことは間違いないので、彼のチームを追いかければ日本がどこまで到達したのかがわかりやすいかもしれない。
フリーを作れ
偽センターバックまで作り出したペップグアルディオラは次に何を準備するのか。
移籍市場が落ち着いた頃にはある程度見えてくるのでそこに注目したい。
マンチェスターシティのストーンズ選手のように、センターバックをボランチのようにプレーさせる可変システムも今後対応されるだろうと予想するならば、サイドアタッカーの使い方を変えてくる可能性はある。
サイドアタッカーが内側に入ってプレーするシステムには改善する余地がかなりあり、可変システムを確立することはできる。
サイドからカットインしてゲームメイクしていくメッシのようなプレースタイルはアップデートして使われるかもしれない。
最近のトレンドの一つである偽サイドバックがプレーした時の失敗例の一つが、中央エリアで可変がうまくいかずに味方の選手達が渋滞してしまう現象だ。
ここでもし、サイドアタッカーが偽サイドアタッカーとして動くなら、より前線での可変なのでディフェンダーのリスクは多少減る。
一方で偽サイドアタッカーのディフェンス参加も減るだろう。
そのバランスをプラスに持っていければ面白いサッカーにはなるが、あくまで机上のシステムだ。
また、例えばバスケットボールは選手同士の横の入れ替えを繰り返してフリーの選手を作る。サッカーでこれがもっと活用されても不思議ではない。
そうなるとサイドとセンター付近の選手の入れ替えに加えて、サイドバックとセンターバックのスライドで守備のバランスを取る可変は、そこまで長いランニングを必要としない。
ゆえに、局地戦が増えている現代サッカーでは可能性を感じる考え方の一つだ。
さらには横だけではなく縦や斜めの入れ替えの可変を多用する戦術も、今後はより生まれるかもしれない。
この選択はよりフィジカルが必要になるので、チームの若年齢化を促進することにもなりうる。
虎視眈々
来シーズンの三笘選手はまずチーム全体でディフェンスの構築から固めてゆくことだろう。
チャンスメイクの多さの割に決定率が高くない上に、失点が多いのが今期のブライトンだった。
新しい攻撃スタイルを作ったうえでディフェンスを構築する時間が今回のデゼルビ監督にはある。
そう考えると昨シーズンの彼の手腕は見事としか言いようがない。
ヨーロッパで活躍する日本陣選手の多くがW杯を経てキャリアパスを築いていった。
こうしたビッグイベントが選手を確実に成長させることになるからだ。
一方で、ヨーロッパの代表選手は、W杯や所属するクラブでのシーズンが終わった後もネーションズリーグやユーロ予選のように高いレベルの試合を経験する素地がある。この差は大きい。
代表活動は一つの試合が重要な試金石となる、そのレベルアップの作業の数が、ヨーロッパ各国とアジアとの差につながっていることは懸念事項だ。
つまりこのままの成長ペースでは、次のW杯本番で再び守備主体のサッカーに切り替えざるを得なくなり、疲労が溜まって決勝トーナメントで体が動かないという二の足を踏むことも十分に考えられるのだ。
カタールW杯が冬開催となり、次の大会に向けての準備期間はその分短くなっている。
先日のペルー戦で盛り上がった日本代表だが、実はそんなに余裕はないのではないか。
逆算すると焦りしか浮かんでこない。
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