怖い夢ばかり見る
はじめに
探偵という仕事は「探偵業の業務の適正化に関する法律」をもと、「調査」を行うのが仕事です。探偵だからって、私有地やプライバシーにみだりに介入する特権はありませんし(一般の方と変わり無し)、ましてや警察といっしょにまたは警察に先んじて刑事事件を捜査するのはもっぱら漫画やゲームなど創作のお話です。
本題
探偵業許可を取得して3件目のケースが訪れた。電話の主→依頼者は初めて話す人だった。どうやら俺が子どもの頃住んでいた団地で殺人事件が起きたらしい。俺はこの春からルーティン化していた昼夜逆転の掟を破って朝っぱらから電話主の待つ現場に向かった。
現場は、俺がこどものころ住んでいた家と至近距離で、家族ぐるみで付き合いのあった家だった。この時点でめちゃくちゃショックだったのは夢から覚めても肌から離れない。
無論警察もこの件ですでに動いており、この日は仏さんを供養するためこの家の親戚中が黒服で集まっていた。確か俺の記憶ではこどものときご近所づきあいしていた頃から核家族だったことは変わりないが、遠縁から近親まで親戚はかなり多い家だったということは覚えていた。だからこの日のこの家も、今から客間から台所から、黒山の人だかりでぎっしりだった。
亡くなったのはこの家に住むひとりだが、これもあるある話で警察が事故と判断したものに納得いかなかった依頼人(親戚のひとり)が俺に電話をよこしたという経緯だった。
上述のとおり探偵は本来こういった「捜査」はしないので、この夢の中では神◯寺三郎や金◯一くん、コナソくんのように毎日この家に入り浸っては事件現場や物証、聞き取りを重ねる。こういう時に限って潜在的な身内同士の確執や怨恨が大きのから小さいのまでわんさか出てくる。慣れない仕事と慣れないショックで疲弊する自分をリポDのみで支えながら調査をすすめてゆく。
そしてお約束のとおり、最後は「すべてをお話する準備が出来たので全員をこの居間に集めてください。」と関係者の召集を行い、事の経緯、この方の死が事故ではなく他殺である根拠、その手法そして最後に、犯人を指名する。
こういう時に限って「こうであってほしくなかった」という結末に行き着く。
何日もこの家に通い詰め、家族や親戚も悲しみに明け暮れる中俺も必死に仕事に取り組みやっと取り出せた真実がまた悲しみだったときの虚無感や切なさと言ったら計り知れない。
もっともなことで言うまでもないが殺人事件は悲しむ人しか生まない。
逆に警察や探偵が暇なのはとてもいいことなんだと思う。
人を殺すのは人である、ということをあらためてこれを読んでくださる方に訴えたい。たとえ銃を使おうと刃物を使おうとガンダムを使おうと、それは人の手が握っているのである。
ジェサイア先輩(ゲームキャラクター)も「銃が人を殺すんじゃない、人が人を殺すんだ」と言った。
そして中国の故事で「五十歩百歩」という言葉がある。50歩逃げても100歩逃げても同じだ、と習った人は多いと思う。これにはまだ挿話が残っていて、ある国の軍師が「では、王様。剣で人を殺すのと政治で人を殺すのは同じだと思いませんか?」と進言したという逸話が残されている。
この名言達にあやかるのなら、体を殺すのも心を殺すのもまた等しい、ということを強く訴えたい。
殺人事件を調査した夢の中も俺も、夢から醒めた俺も、ヘトヘトに疲弊していた。
怖い夢ばかり見る
最近は眠りが浅いせいかこういう怖い夢をみることが格段に増えている。特に
・今回のような人の生き死にに関わる夢
・大切な人がどんどんと遠くへ行ってしまい声が届かなくなる、わかり合えなくなる夢
・目が見えなくなったり、声が出なくなったり、一文無しになったり、とにかく何かを「喪失」する夢
が多い。もし怖い夢ばかり見るこの生活の方が夢ならば、とっとと醒めてほしいところである。