大会開催手引き その1 開催判断編

2018.12 この手引きは「参加者募集と事前準備編」、「当日運営と事後処理編」を書き加えて30ページを超える冊子およびPDFになり、インストラクター講習会で使用しました。そのPDFについては無料公開の方針が決定しました。まだnote化ができていませんが、ご希望の方はお問い合わせください。

以下本編

オリエンテーリングを周囲に広めようとか、なんとしても新しくオリエンテーリングがしたい場所があるとか、そういう熱意がある人がたまにどこかからか出てくる。私もそう。大会開催に対して超絶やる気があって、かつある程度オリエンテーリングに親しみのある、つまり競技としてルールが分かっている人が1人いることが前提。そういう方に向けて書きます。伝わるか分かりませんが、第1回理科大大会を想定。すばらしい大会が開催できることを願っています。

目次
1. 開催場所と日時
2. 渉外
3. 運営者
4. コントローラ
5. 連絡手段及びデータの管理と共有
6. 地図の作成方法
7. 下見と試走
8. 会場選定
9. 申請
10. 会計


1. 開催場所と日時
・テレイン(オリエンテーリングの開催地域)を考える
公園(パーク)なら立ち入り可能な範囲が300m四方あれば1:4000で12cm×12cmでまあなんとか使えるかな。森(フォレスト)なら1km四方あれば1:10000で10cm×10cmになって、ちょっと狭すぎるがそこは気合でがんばる。公園なら管理者がかならずいる。公園に常駐していなくても管理者への連絡先は判明するはず。大抵役所の公園管理課。フォレストなら所有者の正確な把握は不可能と言っていい。役所でもロクに教えてくれない、登記簿読んでも何もわからない。基本方針はそこに住んでいる人を見つけて怪しまれないように打ち解けて聞き出す。新規テレイン開発が極めて難しい一因である。何かしらのコネを作るしかない。その地域でなくても、その都道府県内に住むオリエンティアに伺うのも手、目的の地域についてなにか知っているかも知れない。
・開催日時を考える
まだ地図の影も形もない段階でも、時期によって様々な状況が変化してしまう。森なら植生、公園なら来園者数、天候や、地元の祭りや、なんやかんやある。おおざっぱな月くらいは想定しておきたい。ここの地図作って大会やりたいと考えてから試行錯誤して開催にこぎつくまで早くて1年は掛かる。
・この日にどこかで開催したいという場合
テレインを探して、2~3の候補を考える。大部分のテレインは下記Googlemapにプロットされている。こだわりがなければ作成年度が直近10年以内のものを選ぶべき。記載されている管理団体を検索してHPを見つける。地図の利用方法などというページがあれば、記載に従って利用申請の連絡を取る。ページがなければ、連絡先に連絡を取るが、そういうところはあまりあてにしないほうがいい。

関東圏テレインマップ 東海・関西地区テレインマップ


・リメイクを行いたい
テレインがすでにある場合でも、10年以内に更新がない場合は何かしらの事情があるはず。渉外問題やアクセスの悪さや植生の悪化がありえる。ただテレイン管理団体の衰退や能力不足だった場合には他団体がリメイクができる場合がある。これまでの渉外方法や旧地図などノウハウの提供はあるかも知れないが、こちらから現実的なリメイク手段の提示や相手へのメリットを供与したい。その地域でのオリエンテーリング利用が途絶えて10年以上経ってしまうと実質的に新規作成と相違ないこともある。
・日本学連を使う
「新規地図作成事業計画」、通称「新基軸事業」というものがある。日本学生オリエンテーリング連盟のお金を使って、1つの大会のために新しくテレインを作ってくれる。場所選定から地図作成と渉外までをパッケージ化。大会開催までの面倒もかなり見てくれる。開催後の版権所持というかテレインの維持管理はすべて日本学連が行う。完成した地図を大会に使う際には初出料金として、高めの買い取り料金が発生する仕組み。運営者は楽して新テレインできて儲かる。日本学連は開催後の利用含めて長期的に見て儲かる。地図作成業者も儲かる。テレインが増えてみんな喜ぶ。大会開催に慣れていない大学クラブがこの制度の利用者。今の所は関東圏の大学クラブが栃木県でYMOE社に委託するパターンしかないが他地域や他社にも制度の適用は可能となっている。


【版権】
地図やテレインを利用できる権利のこと。地図の著作権もあるが、地図の管理や地元との繋がり、あらゆる利用のノウハウがごったになった概念。知的財産権として地図のコピーや再配布は原則ダメで、一部切り取ってのネット掲載、回し読みのためのコピー等はグレーだがよく見かける。コピーした地図でオリエンテーリングするのは完全アウトと言っていい。まあオリエンテーリング村社会の暗黙の了解的な面がある。
衰退したクラブの持つテレインは地元との連携維持や地図の修正がされていないものも多く、リメイクに伴い他の団体へ版権が移行することがある。10万単位の金が動く。大会1回のために版権を移管する約束が成立しない時は、一時利用で版権を大会実行委員会へ移行し、大会予算内で地図を修正し渉外ノウハウを確立させ、終了後に版権を元の管理団体に戻して以後の利用について管理する、という手段がとられることがある。


2. 渉外
既存のテレイン(この日にどこかで開催したいという場合)ならば方法はテレイン管理団体が教えてくれる。または任せているだけで済むこともある。大抵は開催趣旨をフォーマットに書いて、開催地域の地区長さんに回覧をお願いするとか、役所の公園管理課に占有許可証を送るとか、書類仕事。メールで済めば良いが、頻繁な電話や何度も現地に赴くことも多い。
新規作成やリメイクの場合は、役所や地区の会合に行って、オリエンテーリングとは何かという話からはじめ、なぜその時期にそこでやりたいのか、どの程度の参加者人数か、会計諸費用、参加費、時刻、設置物の数と位置、危険対策などありとあらゆる説明を行う。その上で地元に回覧をお願いしたり、掲示板への張出しを頼んだり、占有許可証なり開催企画書なり、道路使用許可なり、電話でアポ取って行って書類とプレゼン、ポスティング、菓子折り持って訪問挨拶、お礼のお手紙、などなど。

ここでオリエンテーリングを全く知らない人や役所に説明する際に役に立つこともあるのが日本学連や都道府県協会の後援。学連は申請期限が半年前などと締め切りは早いがお金がかかることもないので後援はあって損はない。
新規地図作成事業計画を利用する場合は、地元の挨拶回りに同行する、フォーマットに開催趣旨や概要を書く、日本学連と地図作成業者から言われたことやれば大丈夫。


3. 運営者と開催母体
ひとりでは流石に厳しいものがある。仲間を増やす。一番熱意あるひとが実行委員長(大会責任者:大責)となるならば、まずは運営責任者(運責)、競技責任者(競責)あたりが仲間に欲しい。ここまでを3役と呼ぶ。次は渉外責任者、広報責任者、会計責任者あたり。このへんまでを5役とか6役とか、役員と呼ぶこともある。その他資材担当者、申込受付担当者、HP担当者、協賛担当者、調査責任者、スタートパートチーフ、などなどこのあたりからクラブや大会によって特色が出てくる。
人が増えて、運営者が20人とか30人になってきたら、大会責任者は何もしないことが仕事になってくる。仕事が発生したら、自分以外に振る仕事、仕事を把握しておく役割になる。
大会開催がクラブの事業だった場合でも、そうではなくてあちこちから人を集めた実行委員会を立ち上げた場合は尚更、会計についての透明性と、赤字・黒字の時の会計責任を明確にしておきたい。クラブという母体があれば多少の変動リスクは吸収されるが、実行委員会が赤字になったら誰が負担するのか、黒字でも取り決めがなければ揉める。赤でも黒でも実行委員長が会計責任を持つとか、分配するとか、どこかのクラブに形式上でも所属して母体になってもらうとか、いっそ自分でクラブを作って後輩にすべてを託すとか、そういうことも考えておきたい。というか赤になるのに大会開催するのは業界の健全化のためにも避けて欲しい。黒出すつもりで行って利益出して運営者で打ち上げして焼き肉食べるべき。何れにせよ大会役員の中枢部は互いの強い連携や信頼が求められる。


4. コントローラ
所属団体の構成員ではない、なるべく大会開催経験豊富な外部の人を1人お呼びして、監督してもらうようお願いをする。インカレなら技術委員会から派遣するという建前で前年度運営上層部、学生大会だと他団体OBの運営経験者、公認大会ならJOA公認イベントアドバイザー資格保持者が、大会を一歩引いたところから監督する。
イベントアドバイザー点検シートというものが日本オリエンテーリング協会(JOA)のHPに公開されているので、コントローラがやってくれること、やるべきことが載っている。なんでも知っていて、やってくれる人じゃなくて、危なくないか、オリエンテーリング大会としての体裁を保っているか判断して助言をくれる、位の認識。いなくても回るけど、承認をしてくれる、くらいだと良いのだが、なんだかんだコントローラは運営に深く関わってしまう。
ツテで探す。断られることも多いが、頼まれて嫌な人は居ないだろうと思うので数打って当てる。とにかくなんでも経験豊富な人が良い。運営に限らず、競技的にも。※公認コントローラの改称に伴い、ここではJOA公認資格保有者をアドバイザー、そうでない者をコントローラと呼んでいます。


5. 連絡手段及びデータの管理と共有
運営者が数人から10名程度ならメールでデータのやり取りや連絡もとれるでしょうが、ちょっとした議論や、データの複数人編集が始まると厳しい。dropboxやgoogledriveやonedriveといったファイル共有・ストレージサービスでデータの共有が可能。Lineグループは会話しやすいが記録には残りにくいのでノート機能の活用やファイルに残すという意識も必要。インカレやインターハイなどではOdysseyというシステムが利用されていて、ブラウザからファイル共有できる他にも出欠調整や会計管理ができる大会運営特化したスグレモノもある。
大会当日になると局所的に電波が弱かったり、データ通信量の上限があったりで、電話の信頼性はデータ通信を利用した通話アプリより断然高い。最近は電話番号交換なんて滅多にしなくなってしまったが、役員の電話番号含めた名簿はこの頃から作ると良い。
大会責任者の仕事として、すべての仕事をチェック、遅れていたら指摘しなければなりませんが、どうしてもヤバイ時はまるごと肩代わりすることになります。絶対にどこかで誰かが滞るため、どの仕事でも引き継ぎできるように進捗の把握や作りかけのデータの管理、各種アカウントも把握しておくべきです。


6. 地図の作成方法
地図作成のプロが居ます。アマもいます。プロならヘクタールあたり5000から8000円程度、日当なら2万から3万円で雇えます。旧図の状態、基盤地図情報の整備状況、下見の報告によって異なります。面積比例費用の他に別途交通費や宿泊費がかかる場合もあるので見積もりを出してもらいしょう。渉外から必要な場合にはその旨伝えるべきですが、普通はそこまで引き受けてもらえないと思って良いでしょう。
A4サイズがいっぱいになる大きめな森テレインなら約300haとして200万円程度。小さめな公園なら40haで30万円程度と思われます。私のように学生バイトみたいなアマチュアを使えば何割かは安くなるでしょうが地図精度の保障ができません。またプロは2018年現在日本に2名しか存在せず、常に仕事を複数抱えているため1年近く前でないとスケジュール的に引き受けてもらえないような状況です。
自分で地図を作る場合は私のマニュアルが参考になれるかと思います。


7. 下見と試走
旧図がある場合にしても、基盤地図情報しかない場合でも、開催判断のためにまずは1度下見が必要です。現地に行くことで偶然地元の方と直接話をし、立ち話での渉外を行うことで一気に大会が前進することがある。どの役員も、そうでない人もなるべく現地に行くべき。携帯の電波確認も調査に盛り込む。山間部ではドコモが圧倒的に最強。試走でパソコンを使ってデータ通信を行うと簡単に通信制限を食らう場合があるので、ポケットwifiやMVNOの格安データ通信プランを使っている人がいると良い。
下見(零時調査)で見てくることはまず開催可能な場所なのかということ。下見段階では会場候補や渉外も兼ねることが多い。試走で確認するのは面白いコースか、危険がないか、地図は問題ないか、競技性が確保できているか、など。つまり競技規則を読んで、それが実施可能な場所か見る。


8. 会場選定
開催の想定人数によります。300人を超える辺りから小中学校の体育館が必要になりますが、はじめての大会開催なら100人来るだけでもパンクします。大学の大教室や、広めの公民館(集会所)を借りることになると思います。小中高大などの教育機関から施設を借りるには市区町村の後援が取れていれば早いです。いずれにせよ信頼関係や実績がない場所であれば、怪しい団体が来て施設を汚して壊すかもしれないという目で見られます。お金では解決しないので、精いっぱいの説明と地道な交渉を要します。ここは完全に自治体や機関によって対応が異なるので渉外の初期に役所などで調査しておくべきでしょう。
公民館の相場は1日3000円から6000円くらいでしょうか。利用人数比例の場合もあります。不注意や、古い建物もありますので破損や汚損もありえます。レジャーシートを屋内に引く、外で靴を脱ぎ体中の泥を落とさせるなど対策をしましょう。原状回復が不可能だった場合に日本オリエンテーリング協会や都道府県協会、日本学連の保険が適用できる場合があります。
立地にもよりますが、参加者の半数が電車バス等の公共交通機関、半分が自家用車に乗りあって来場することを考えて、駅からの距離やバスの頻度とキャパシティ、駐車場のキャパも考えておき、不足が懸念される場合はその旨を参加者募集要項には記載しましょう。


9. 申請
地図の新規作成やリメイクであれば都道府県協会に様式がある場合がある。なくても連絡くらいはしておきたいが、地方県協会は機能していないことも多い模様。
大会開催に関して、学生であればどんなオリエンテーリング利用に対しても、在籍地とテレインのある地区学生オリエンテーリング連盟への申請様式がある。例えば関東学連ならここ。学生も、それ以外も、テレインのある都道府県協会には専用の書式で申請書を出す。静岡栃木愛知はオリエンテーリング活動が活発な代わりにこれらの申請書式が若干複雑で、期限が早く厳守である。各県協会によって異なるので利用の手引きをしっかり把握した上で申請を行って欲しい。愛知県では今後のトラブルを防ぐためにすべての利用に関して、熟知した資格保有者の同行が必要になる厳しい条件が新たに設定された。もちろん既存テレインの管理団体が都道府県協会ではない場合にはその管理団体(地域クラブ)への利用申請が必要である。しかしこの段階で他団体と利用日が被っていた、造成工事や林業作業が行われている、テレイン管理担当者の不都合などで申請した日付では使用不可能な場合もよくある。


10. 会計
渉外で役所に企画書などを提出する際に予算案の提出が求められることがある。特に都市公園では占有を許可する際に利益目的ではないと証明する必要が生じる場合がある。前述の焼肉代などの利益はこちらも出さざるを得ないので、でなくてもクラブの活動費として利益が必要なので、地図作成(修正)費を多めに予算計上して、自分たちで修正したので報酬ということにした。
役所へ提出しないまでも、見通しは必須。既存テレインを利用して100名の参加者が来た場合の概算を示す。

収入の部1500円×100人=15万円
支出の部13万円
2万円の黒字

試走交通費1万円
大会運営者交通費1万円
レンタカー2万円
レンタル機材1万円
会場貸出料と運営者宿泊費と風呂代2万円
地図利用料金300円×160枚=5万円
消耗品、送料など雑費1万円

続く

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