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米国市場:8/12週の振返りと24年8/19週の予定
市場概況
先週のS&P500指数は、5,554.25と前週比+3.93%で終了しました。NASDAQは15,011.35と前週比+5.29%で終了しました。
先週の株式市場は先々週の大きな市場変動から立ち直り、今週は1桁台前半の上昇となりました。この回復は7月の上下幅が大きかったため、6月末の株価と比較するとよりわかりやすく、S&P500は約1%の上昇となり、Nasdaqは約-0.5%となっています。ボラティリティ指数(VIX)が10台半ばに戻り、CNN Fear&Greed Indexが「Extreme Fear(極度の恐怖)」から脱しつつあることは、季節的に最も閑散期に入るこの時期に、単純リバウンドが終了し市場に冷静さが戻りつつあることを示唆しています。
8月の最後の2週間は、人々がレイバーデー後の年度末に向けた活況が始まる前に夏の休暇を満喫しようとする時期でもあります。しかし、取引量が季節的に減少するからといって、市場が穏やかであるかというとそうではないと思います。今週は、小売企業の決算発表が続くのに加え、パウエルFRB議長のジャクソンホールでの講演が予定されています。
今週の小売企業の決算は、先週発表された7月の小売売上高の指標よりも、消費者の状況をよりよく把握できる機会となると思います。先週の小売売上高は1.0%と予想+0.4%を大きく上回る結果となっています。高水準の金利が続く中、高い伸びを見せておりますが、クレカ債務残高も伸びていますので消費者の消費疲れが懸念される中、小売り企業がどのように現状を見ているか注目していきたいです。また、15日のCPIは2.9%と市場予測の3.0%を下回りました。FRBが目標とする2%台に入りました。8月上旬に発表された労働市場環境の悪化と、物価の安定化がみられていることから9月の利下げはほぼ決定的になったとみています。今後は、伝統的な0.25%の利下げになるか0.5%の下げ幅になるかに市場の焦点が移ってくると思います。9月のFOMCまでに更に経済指標がいくつか発表されますので、それらのデータをみながらの判断になるかと思います。政策金利の大幅な変更は、長期金利も大きく下げることになると思いますので、アメリカ景気が大きく減速しない限りは小さな利下げになると思います。今週の経済指標から、アトランタ連銀のGDPNowモデルが当四半期の成長率を2%に下方修正したことを踏まえると、ジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演はややハト派的になるはずですが、市場にとって利下げ開始時期を明確に示すことはないと考えています。
企業業績を鑑みると、FactSetS&P 500の最新の収益予想では、2024年下半期のEPS成長率が2024年は10.1%と先週より若干ではありますが下方修正されています。企業の決算が出そろってきたためでもありますが、2024年3Qは5.2%、2024年4Qは15.5%となっており、高い水準が維持されていますが、これはさらに下がる可能性があると見ています。前回のナイキ、ルルレモンの決算は不調で、これまで好調であった企業の決算の取りこぼしが増えています。小売売上高は減速していないため消費者は消費をしているものの、これまでと行動様式が少し変化しているのかもしれません。今週の小売りの決算で、消費者の行動変化について経営者がどのようにとらえているかは確認しておきたいです。この結果、収益予想が更に下方修正される可能性もあるのではないかとも考えています。
予想収益が下方修正されることは、先週大きく回復した株式市場のPERが高くなるため、市場が買われ過ぎの水準に入りやすくなります。その意味では、8月28日のNvidia (NVDA) の四半期決算と9月の企業プレゼンテーションや投資家会議が始まるまでは、市場はレンジ相場になるといいと考えています。今のレンジを超えてどんどん上昇していくのであれば、投資家の警戒感が薄れてきていることを意味し、再び下落が来る可能性も考慮しなくてはいけなくなると考えています。
株式市場
第2四半期の決算シーズンも終盤に差し掛かり、S&P 500企業の業績は、期待値に対して引き続き好悪入り混じった状況です。
ポジティブな点としては、予想を上回る利益を報告したS&P 500企業の割合は平均を上回っています。一方、ネガティブな点としては、収益サプライズの規模は平均を下回っています。しかしながら、全体としては、第2四半期の利益は四半期末と比較して増加しています。また、2021年第4四半期以来、最も高い前年同期比増益率を記録しています。
これまでにS&P 500企業の93%が2024年第2四半期の決算を発表しました。このうち、79%が予想を上回るEPSを報告しており、これは過去5年平均の77%、過去10年平均の74%を上回っています。企業全体では、予想を3.5%上回る利益を報告していますが、これは過去5年間の平均8.6%、過去10年間の平均6.8%を下回っています。この結果、第2四半期の利益は四半期末と比較して増加しています。第2四半期のブレンド(報告済みの企業の実際の結果と未報告の企業の推定結果を組み合わせたもの)増益率は本日時点で10.9%で、第2四半期末(6月30日)の8.9%と比較して増加しています。もし10.9%が今四半期の実際の成長率だとすると、2021年第4四半期(31.4%)以来、同指数が報告した中で最も高い前年同期比増益率となります。また、同指数にとって4四半期連続の前年同期比増益となります。
11セクターのうち9セクターが第2四半期の前年同期比で成長を報告しています。このうち、公益事業、情報技術、金融、ヘルスケア、一般消費財の5セクターは2桁成長を記録しています。一方、素材セクターを中心に2セクターは減益となっています。
売上高に関しては、S&P500企業の59%が予想を上回る実績を報告しており、これは過去5年間の平均69%、過去10年間の平均64%を下回っています。企業全体では、予想を0.5%上回る売上高を報告しており、これは過去5年間の平均2.0%、過去10年間の平均1.4%を下回っています。もし0.5%が今四半期の最終的な数字だとすると、2019年第4四半期(0.5%)以来、同指数が報告した中で最も低い売上高サプライズ率となります。この結果、第2四半期の売上高は四半期末と比較すると増加しています。第2四半期のブレンド売上高成長率は、本日時点で5.2%で、第2四半期末(6月30日)の4.7%と比較して増加しています。
もし5.2%が今四半期の実際の成長率だとすると、2022年第4四半期(5.4%)以来、同指数が報告した中で最も高い売上高成長率となります。また、同指数にとって15四半期連続の増収となります。情報技術、エネルギー、コミュニケーションサービスセクターが牽引する形で、10セクターが増収となっています。一方、素材セクターは唯一減収となっています。
今後の見通しとして、アナリストは2024年第3四半期と第4四半期の増益率(前年同期比)をそれぞれ5.2%と15.5%と予想しています。2024年通年の増益率は10.1%と予想されています。
予想PER(株価収益率)は20.2倍で、過去5年間の平均(19.4倍)と過去10年間の平均(17.9倍)を上回っています。しかし、このPERは、第2四半期末(6月30日)に記録された予想PER21.0倍よりは低くなっています。(Source:Fact Set)
来週の主な決算発表(予定)
8/19(月):
<寄付き前>Estee Lauder (EL)
<引け後>Palo Alto Networks (PANW)
8/20(火):
<寄付き前>Kingsoft Cloud (KC), Lowe’s (LOW)
<引け後>Toll Brothers (TOL)
8/21(水):
<寄付き前>Analog Devices (ADI), Dycom (DY), Macy’s (M), Target (TGT), TJX (TJX)
<引け後>Agilent (A), Snowflake (SNOW), Wolfspeed (WOLF)
8/22(木):
<寄付き前>-
<引け後>Cava Group (CAVA), Ross Stores (ROST), Workday (WDAY)
8/23(金):
<寄付き前>-
米国の主な経済指標
8/19(月):
8/20(火):
8/21(水):
8/22(木):新規失業保険申請件数、中古住宅販売件数
8/23(金):新築住宅販売件数
今週の着目点
先週の経済データは、木曜日に発表された7月の小売売上高の予想を上回る結果となりましたが、金曜日の7月の住宅着工件数はやや期待外れの結果となりました。アトランタ連銀のGDPNowモデルも2.9%から2.0%に下方修正されています。しかし、景気後退が迫っていることを示す結果ではないので、ソフトランディングのシナリオの可能性が高いと考えています。
今週は、経済指標の発表は中古住宅販売件数と住宅関連がメインとなりあまり多くありませんが、ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連邦準備銀行の経済政策シンポジウムには注目が集まります。8月22日から24日まで開催される今年のシンポジウムのテーマは、「金融政策の効果と伝達経路の再評価」です。このイベントでは、数多くのパネルディスカッションやプレゼンテーションが行われますが、市場が最も注目するのは、8月23日(金)にジェローム・パウエルFRB議長が行う講演となると思います。過去において、市場はFRB議長のこのイベントでの発言で市場が動くことが多いため、非常に難しいイベントであるとも考えています。
パウエル議長の発言はFOMCの政策会合の間に行われるため、正式な政策発表ではないのですが、議長が利下げに対してオープンになっている兆候がないか確認しておく必要はあると思います。先週発表された7月のPPIとCPIの報告に基づけば、パウエル議長は「継続的な進展」とさらなる「良いデータ」を得る必要があるという言葉を繰り返すことになり新たな示唆はないと考えています。従って、FRBが利下げを開始する時期を明確に示すことはないと考えています。
市場は9月の利下げを楽観視しているかもしれませんが、先週起きたことは、わずかなデータポイントでも利下げ期待が変わる可能性があることを示しています。7月の小売売上高の報告後、CME FedWatch Toolは、9月の利下げ予想を50ベーシスポイントから25ベーシスポイントに素早く修正されました。市場は年末までに1%の利下げを期待していますが、矢継ぎ早に利下げを行うことはリ、セッションが差し迫っているような印象を市場に与えることにもなりますので、FRBは9月に最初の利下げを行う可能性が高いと考えていますが、この利下げに向けた地ならしがされるのではないかとも考えています。