米国市場:7/1週の振返りと24年7/8週の予定
市場概況
先週のS&P500指数は、5,567.19と前週比+1.95%で終了しました。NASDAQは18,352.76と前週比+3.50%で終了しました。
新しい四半期の始まりとして先週は、市場全体にとっても概ね好調なスタートとなりました。S&P500指数とNASDAQが上昇する一方、ダウ、ラッセル2000は大きく遅れをとった形となっています。S&P500指数とNASDAQの上昇が示すことは、先週ISMから発表された6月のPMI報告は、株式市場にとって「悪いニュースは良いニュース」という考え方を復活させたと考えられると思います。今回のISMの悪いニュースとは、製造業とサービス業の両方の経済が縮小しているという報告になっていました。良いニュースは、インフレに関する好ましいコメントなどから、FRBの利下げが近づいていることを示唆していると考えられるようになったことです。
7月2日(火)のパウエルFRB議長の講演では、FRBは金融政策の緩和が遅すぎることと早すぎることの両面のリスクに直面していると述べていました。緩和が早すぎるとインフレが再燃するリスクがあり、FRBがすでに制限的とみなしている政策からの緩和が遅すぎると経済を潰すリスクがあります。今週のISMのデータは、制限的な政策が経済に影響を与えてきていることを示唆しており、金曜日の6月雇用統計で発表された民間部門の雇用者数の減少と6月の失業率の上昇も同様のことを示唆していると思います。
これらの経済指標の発表を受けて、CME FedWatchToolでは7月5日時点では9月の利下げの可能性が72.2%と大きく上がりました。確かに今回の失業率は4.1%と前回は4.0%と徐々に上がってきてはいますが、歴史的に見て低い水準であることは変わっておらず利下げを正当化する理由にはまだ足りないと考えています。FFレートを維持した状態であっても株価が高水準で推移しているため利下げに転じるのはまだ先になると考えて方がいいのではないかと思います。しかし、年内に利下げが始まる見方もありますので、それらを確認するためには徐々に景気が悪化しているといった同様のデータがもっと必要になると思います。7月、8月、9月のISM PMIデータが、6月の調査結果で示された状況が再確認するようであれば、市場は利下げに再び期待を寄せる可能性があります。そのような考えが正当なものなのか、それとも単なる希望的観測なのかは、今後のデータで確認していくことが大事だと思います。
FRBがすぐに利下げする可能性は低いため、4月中旬以降S&P 500を12%以上押し上げた市場ラリーがさらに進むためには、企業業績次第かと思います。7月に入り週末の金曜日の大手銀行の決算発表を皮切りに今後数週間、6月四半期の決算シーズンで多忙となります。決算発表を行った企業の顧客、競合他社、サプライヤーのコメントや、各社の決算報告書を評価することに加えて、FactSetから出されるS&P500の2024年下半期のコンセンサスEPS予想を評価していく必要があるかと思います。S&P500指数のPERは2021年から2022年の高値に近づいているため、現在の水準からバブルでない上昇を促すためには、、S&P 500構成銘柄の2024年下半期のEPS予想が、市場が予想する2024年上半期および2023年下半期比11.5%~12.5%よりも高くならないといけないと思います。最初の数社のガイダンスがこのような見通しを打ち砕くような決算を出してきた場合、市場は4月中旬以降の上昇の一部を戻す可能性が高まってきます。過去に市場が買われ過ぎの領域にあるときは、ほぼ全て織り込み済みになっているということです。このような状態では、ちょっとした綾で市場が混乱する可能性があります。今週末から始まる6月四半期の決算シーズンはいろいろなことを慎重に見ていた方がよいかもしれません。
株式市場
第2四半期末時点でのS&P500の当期利益予想は、四半期初めの予想をわずかに下回っています。それでも、アナリストは引き続き、第2四半期の同指数が2年以上で最も高い前年同期比増益率を記録すると予想しています。
第2四半期のガイダンスについては、2024年第2四半期にネガティブなEPSガイダンスを発表したS&P500企業の割合は、平均的な水準内です。現時点で、同指数の112社が2024年第2四半期のEPSガイダンスを発表しており、そのうち67社がネガティブなEPSガイダンスを、45社がポジティブなEPSガイダンスを発表しています。S&P500企業のうち、2024年第2四半期にネガティブなEPSガイダンスを発表した企業の割合は60%(112社中67社)で、過去5年間の平均59%を上回りますが、過去10年間の平均63%を下回ります。
S&P500の企業の推定EPSについては、アナリストは2024年第2四半期のEPS推定値を平均よりも小幅に下方修正しました。1株当たり利益は、3月31日から6月30日にかけて0.5%減少しました。通常、アナリストは四半期中にS&P500企業のEPS推定値を3%から4%引き下げます。その結果、2024年第2四半期の推定増益率(前年同期比)は、第2四半期初めの推定値をわずかに下回っています。本日現在、S&P500の予想増益率(前年同期比)は8.8%で、3月31日の予想増益率(前年同期比)9.1%と比較すると若干低くなっています。もし8.8%が今四半期の実際の成長率だとすると、2022年第1四半期(9.4%)以来、同指数が報告した中で最も高い前年同期比増益率となります。また、同指数にとって4四半期連続の前年同期比増益となります。
第2四半期の増益は、11セクターのうち8セクターで前年同期比の成長が見込まれることから、幅広いものになると予想されています。この8セクターのうち、コミュニケーションサービス、ヘルスケア、情報技術、エネルギーの4セクターは2桁成長が見込まれています。一方、素材セクターを中心に3セクターは減益となる見込みです。
売上高に関しても、アナリストは予想をやや下方修正しています。その結果、2024年第2四半期の推定売上高成長率(前年同期比)は、四半期初めの推定値をわずかに下回っています。本日現在、S&P500の予想売上高成長率(前年同期比)は4.6%で、3月31日の予想売上高成長率4.7%と比較すると若干低くなっています。もし4.6%が今四半期の実際の売上高成長率だとすると、同指数にとって15四半期連続の増収となります。
情報技術セクターとエネルギーセクターを中心に、9セクターが増収となる見込みです。一方、素材セクターは唯一減収となる見込みです。
今後の見通しとして、アナリストは2024年第3四半期と第4四半期の増益率(前年同期比)をそれぞれ8.1%と17.3%と予想しています。2024年通年では、アナリストは11.2%の増益率(前年同期比)を予想しています。
予想PER(株価収益率)は21.2倍で、過去5年間の平均(19.3倍)と過去10年間の平均(17.9倍)を上回っています。このPERは、第1四半期末(3月31日)に記録された予想PER21.0をわずかに上回っています。(Source FactSet)
来週の主な決算発表(予定)
7/8(月):
<寄付き前> Greenbrier (GBX)
<引け後>-
7/9(火):
<寄付き前>Helen of Troy (HELE)
<引け後>-
7/10(水):
<寄付き前>-
<引け後>PriceSmart (PSMT), WD-40 (WDFC).
7/11(木):
<寄付き前>ConAgra (CAG), Delta Air Lines (DAL), PepsiCo (PEP)
<引け後>
7/12(金):
<寄付き前>BNY Mellon (BK), Citigroup (C), Ericsson (ERIC), Fastenal (FAST), JPMorgan Chase (JPM), Wells Fargo (WFC).
米国の主な経済指標
7/8(月):
7/9(火):
7/10(水):
7/11(木):消費者物価指数(CPI)、新規失業保険申請件数
7/12(金):生産者物価指数(PPI)、ミシガン大学消費者信頼感指数
今週の着目点
先週までは、6月、7月の夏期休暇期間であり、そして6月四半期の締めくくりがありました。そのなかでも大きなニュースもなく、過去3週間は比較的平穏な日々でした。しかし、今週は6月のインフレデータであるCPIの発表と6月四半期の決算シーズンが始まり、休暇から市場参加者も戻ってきますので再び活気を取り戻すでしょう。7月5日(金)のABCニュースのジョー・バイデン大統領へのインタビューの反響は、今週の一つのネタとなり、市場参加者は11月の大統領選挙に再び注目し始めると思います。
週半ばには、アトランタ連邦準備銀行が、2024年第2四半期のGDP予測、いわゆるGDPNowモデルの次回更新を発表します。今週の6月PMI報告書を受けて、このモデルは6月下旬に示した3.0%から今回は1.5%に落ち込みましたが、7月10日の次回更新では、金曜日の6月雇用統計が考慮されてきます。経済の今後の動きを確認するためにも、反映結果を注視していきたいです。
7月11日(木)、12日(金)に発表される6月のCPIとPPIの報告からは、中央銀行がGDP予測を再検討するための更なる材料となります。6月のPMI報告書で見たものに基づけば、これらのインフレ指標はどちらもさらに改善する可能性が高いと思われます。この確認は、FRBが最終的な利下げに近づくためのもう一つのステップとなると思います。
今週後半から、ペプシコ(PEP)の四半期決算と大手銀行からの最初の決算発表を皮切りに、6月四半期の決算シーズンが本格的に開始されます。これらは、7月16日のバンク・オブ・アメリカとモルガン・スタンレーの決算発表の基調となるでしょう。ペプシコについては、季節的に好調な下半期が繰り返されるということを確認し、冷凍食品会社のConAgra (CAG)のコメントと比較検討します。
JPモルガンを含む大手銀行に関しては、経済、融資活動、取引量、資産利益、投資銀行業務に関するコメントに注目します。また、7月9日に決算発表をするヘレン・オブ・トロイ(HELE)が美容事業についてどのようなコメントをするかも顧客のトレンドを知る上でも興味深いです。市場は同社のホーム&アウトドア、ヘルス&ウェルネス部門に注目するでしょうが、美容部門は小規模ながらも好調であれば、小売りに大きな変調がないことを裏付けることになると思います。
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