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たこさんウインナーへの羨望

 先日、パリ五輪が閉幕した。
 閉幕とほぼ時を同じくして奇しくも名前を出すことさえ不謹慎となってしまった、

↑の文章でも綴ったように個人的に好きなマラソンを見たり、新種目ブレイキンを見て大いに(ひとりで)盛り上がった。
 そんなパリ五輪の100メートル走予選を見ていた時の話。
 「陸上男子100メートル予選3組。第4レーンにサニブラウン。スタートは低い姿勢、好スタートを切った。前にいるナイジェリアのアシェも上がってきた。ただサニブラウンも伸びてきた。横を見ながらサニブラウン悠悠フィニッシュ〜。速報9秒99」の「横を見ながら悠悠フィニッシュ〜」の部分にいつも憧れる。小ちゃなころから憧れがあるもののできたためしがない。いつもがむしゃら、どろんこ、ギリギリのフィニッシュ。

 そんな幼い頃から抱いていた憧憬をパリ五輪によって思い出していたさなか、これまた幼い頃以来、ひさしぶりにたこさんウインナーに出くわす機会があった。それも飲食店にて。そしてそのたこさんウインナーがとてもおいしかったのだ。味付けは決して派手なことはなく、お皿の端っこに盛られたケチャップとマヨネーズと少々のカレー粉のみ。加えて、このトッピングがたこさんウインナーをおいしく感じさせていると言うよりかは、たこさんウインナー単体が自分の過去の記憶、そして今の自分が想起する「たこさんウインナー」よりも遥かにおいしいのである。その真相を確かめるべくもう少し自分の過去の記憶を遡る。すると、「もしかしたら熱々のたこさんウインナーを食べたことがないのかもしれない」という1つの事実が浮かび上がった。だいたい、たこさんウインナーを口にするのは学校に持っていくお弁当を開いたときくらいである。そしてお弁当に入っているたこさんウインナーは冷めている。お弁当に入り切らなかった熱々の赤ウインナーは食べたことがあるが、あれは決してたこさんウインナーなんかではなく、ただ熱々の赤ウインナーである。そんな浮かび上がった事実に「あいつ…学生時代ずっと横を見ながら俺の口の中へと悠悠フィニッシュしてたのか…」そんな悔しさ、いや羨望の眼差しを向ける(というか、僕の家ではシャウエッセンが圧倒的なシェアを誇っていたような気がする…)。おそるべし、たこさんウインナーのポテンシャル。

 それでもきっと、横を見ながら悠悠フィニッシュできるのはそれ相応の努力をしてきた下地があるからである(ちなみにたこは目の構造的に横を見てしかフィニッシュできない)(うるさい)。サニブラウンはもちろん、最近見た『ルックバック』でも、藤野が当初嫌悪感・敗北感を示した不登校の"くせに"自分よりも絵がうまい京本も想像を絶する量の描き切ったスケッチブックを部屋の外の廊下に並べていたなあ。『ワンパンマン』に登場するサイタマも毎日ひたむきな筋トレの賜物であんな片手間で怪人やっつけてるもんなあ。そういえば3年前ほど前に行った石岡瑛子の展覧会にて展示されていた広告ポスターのラフ案、おそらく後輩デザイナーに対してであろう、書き綴られたFBの量がとんでもなかったなあ。みんなそれぞれ試行錯誤と反復の数量が常軌を逸脱している。みんな頑張っている。

 僕の今後の人生において、横を見ながら悠悠フィニッシュできる機会があるかはともかく、がむしゃら、どろんこ、ギリギリで、横ではなくまずはしっかりと目の前にあるものと対峙していきたい。

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