「きのくに刀剣ワールド」と「疎密考」@和歌山県立博・美
和歌山県立博物館で、刀剣の特別展をやっていると知って、久しぶりにお出かけをした。はじめて和歌山県立博物館に来たが、ガラス張りの建物が素敵だ。特別展「きのくに刀剣ワールド」への期待も高まる。
タイトルの通り、きのくに(紀伊国)=和歌山で活躍した刀匠たちの刀が時系列で展示されていた。
前まで刀剣にはあまり興味がなく、美しさもよくわからなかったのだが、舞台刀剣乱舞を観て以来、刀への興味が湧き、雑誌「刀剣」を購入して刀剣を模写したりしていた。
刀剣への意識が変わってから初めての本物の刀剣との面会だった。ようやく実物の刀剣を目にするぞ・・・!とわくわくしていた。
わくわくしていたはずなのだが、しかし意外にもわたしの心はあまり刀剣にときめかず、刀剣乱舞にはまる以前と同じような感想を抱いた。
刀怖い・・・。
いまや美術品であるということがわかっているつもりなのだが、どうしても刀である限り切れ味の良さは必要だろう、切られたら痛いだろうなと想像してしまって、美しいと思えない。いや、美しさはわかるのだが、好きになれない…?ものごとの美醜を善悪で考えてしまうわたしの悪癖が出ている。頭ではわかっていても、人を傷つけるために生まれたものを美しいと思えないようにわたしはプログラミングされてしまっているようだ。刃文が美しいと思う心はあるというのに。
それに、刀剣は戦いのときだけでなく、武運を祈る祭具ともなる。寺社に奉納された刀剣も展示されていた。それでも、人を傷つけるために生まれたものを美しいと感じることはできなかった。
雑誌の写真やインターネットでみる画像とはやはり実物は違って、力があった。これで切られたら死んでしまうんだ、という恐怖があり、迫力に負けた。鞘に入っていない刀を展示室でみんなで見る、という形式はわたしには恐ろしかった。かなり自分の感覚に依拠した暴論だが、刀剣には"展示"という形式はそぐわないのではないか。刀剣を美術品として扱うのは、愛好家がどこかの一室でこっそりと見つめる、そんな背徳的なものではないか。
しかし、刀剣の外側の装飾はとても楽しかった!
可愛らしさのある意匠が凝らされている。
ほとんど写真撮影可だったので、撮らせてもらった写真を数点あげる。
いのしし!
躍動感!
目貫は動物モチーフの可愛いものが多く、楽しかった。
「にわとり」
「うさぎ」
「すずめ」
「富士図小柄」、スタイリッシュ!すてき!
柄は全部素敵。
幾何学っぽいカタチが洒落ている。
以上のように、装飾についてはかなり楽しく見られた。
総括すると、刀そのもののギラギラとした生々しさと、対してその装飾品はおおらかな可愛らしさを持っているということがミスマッチで良かった。
わかりやすく並んでいるこの写真を見てください。
(ちょうどガラスケースの切れ目に置いてあるのが残念。)
持ち手がとりって、ふざけてる。
でもそんなお茶目さが魅力だなぁと思う。
ついでに常設展もみる。
常設展もさすが県立の博物館。古代から近代まで和歌山の歴史がまるっとわかるように展示されている。自分の興味のあるトピックだけざっと見て回ったが、面白かった。和歌山城の入場割引券ももらえるし、和歌山観光に来た人にはぜひ来館してもらいたい。
さて、1時間くらいで和歌山県立博物館の特別展と常設展は見終わった。時間があって、かつ面白そうな展示をしていたら、隣にある県立美術館も見に行こうと思っていたので、行ってみた。
「疎密考」。
まずタイトルがかっこいい。コンセプトが端的に示されている。
そして、章ごとの解説の文章が平易でわかりやすい。担当学芸員さんの言語能力素晴らしい!
芸術ってよくわからないと美術館を敬遠しがちなわたしにもわかりやすい展示だった。
第1章の「ひととの距離にみる疎密」のたった10行程度の解説と展示を5点くらいみてすぐに、これがキュレーションの力か!とおののいてしまった。
人混みの絵や雑踏、対して雪の降る寒冷地での農作業風景画や砂漠での絵。
全く別の背景、意味を持つ作品も、意図を持って集めると浮かび上がってくるものがある。大枠だけは整えて、その上でなにを感じるかは各々に任せられている。
川西英『神戸十二ヶ月風景』「十二月 元町年暮」
今西源「2008-11 わたし Ⅰ」他
第2章「美術表現にみる疎密」
空間にあきを持たせることで、しんとしたイメージを表現する方法があれば、埋め尽くすように書き込んでエネルギーを前面に打ち出すような表現もある。
申,璋湜「アリラン−祈りⅠ」はろうそくの絵で埋め尽くされていて、美しさだけでなく神聖なる狂気のようなものも感じた。
第3章「疎密を通じ間合いについて考える」
多くの物事は、全体を眺めると通り一遍ではなく、そこに何らかの疎密が存在し、密の部分から疎の部分へとエネルギーが流れています。
(パネルより抜粋)
難しいことを簡単に説明されて、わかった気になってしまう。
恩地 孝四郎『音楽作品による抒情 ドビュッシー「小さい羊飼」』が音楽を絵で表現していて面白かった。
時間がないながら1階のコレクション展もみた。
閉館20分前くらいだったので、本当にざっとだが、佐伯祐三さんの絵がとても好きだった。
また、ここでも特集として「うちのなかから」とコロナ禍を見つめる展示をおこなっていた。
あと、監視員さんに見られるのが恥ずかしかったのであまり写真を撮れなかったが、椅子がいちいちおしゃれだった。
おしゃれなカフェもあるし、これは今後も来ちゃうな~と、まんまとリピーターになる予定だ。
今後の展示を楽しみにしつつ、今回のすべての展示に関わったみなさんに感謝と敬意を。