なつごろも 涼の意匠
夏の着物を着る人が少なくなりました。日中35度まで上昇する気温・溶けるアスファルト、こんな環境で着物を着ろという方が酷なのかもしれないのです。かなりの着物好きでも、「夏は着ないようにしています」という人が多い。夏の着物は見る人のために存在するのかもしれない。視覚から涼しさを演出する日本の貴重な着物文化であると思う。そんな夏着物を記憶にとどめ、もし着てみたいという人があれば役に立つために、夏着物について書き残しておきたいと思います。
2 夏着物はいつ着るのか?
夏着物は、狭い意味では絽や紗の夏の時期に着る着物を指します。着る時期は7月・8月と限られています。その前後の6月・9月は単の季節となります。使用する生地は絽・紗または麻で、長襦袢も同じ素材を合わせます。帯も絽・紗・麻もしくは羅を合わせ、帯締め・帯揚げも絽、と夏向け素材で統一するというのが決まりです。この素材あわせが面倒で、夏は着物を着ない人が多いのかもしれません。しかし、このワンセットを着た女性がしかるべき場所、たとえば鴨川の河原や、貴船の川床に降り立ったとき、その夏姿の美しさは例えようもないものとなります。
着物から透ける長襦袢、秋を先取りした絵柄は、視覚から涼しさを作りあげ、見る人に来るべき涼しい季節の到来を思わせるのです。この高度な技術は日本でなければ出来ない。暑いならどんどん脱いでいこうとする欧米ファッションの対極にある、「重ねる涼しさ」がここにあります。
2 その素材と織り方
着物の素材は、絹・麻・もしくは化繊です。帯・着物の生地は織り方で、絽・紗または羅に分類されます。いずれも夏特有の織り方、綟(もじり)織です。絽は地織のなかに部分的に綟(もじり)目が入っています。平織り地のなかに綟り目の入っている布地を平縞(ひらろ)といい、地緯3本、または5本、7本ごとに綟り合うのを、三越絽,五越絽、七越絽と呼んでいます。地組織に斜文織りを用いる綾絽などもあります。綟(もじり)目が入る結果、生地の間に隙間が出来、風を通すことができるのです。紗(しゃ)は、2本1組の経糸が、交互左右に位置を変えて組織される綟り織です。地経(じだて)と綟り経とを同じ筬目(おさめ)に通し、間にあき羽(空羽)を加えて、糸密度をあらくして織ると、経糸の繰り目にさえぎられて、緯糸が適切な間隔を保ち、透き間のある地合いの紗織りとなります。羅(ら)は綟り経が網状を呈する組織で、経糸が左右に複雑に繰り合うため、紗織りよりも透き間の大きいあらい組織となります。筬を使って製織することはできず、ものさしなどの平棒を用いて緯打ちすることになります。夏の羅は隙間の多い涼しげな雰囲気を出し、帯に用いられます。
3 その意匠
NPO法人京都古布保存会で、展示の際に夏のデザインをいくつかに分類してみたことがあります。展示の都合上行ったことであるが、夏の意匠を理解する上で役立ちました。大きく分けて夏の意匠は
水と風景
鳥
花・木
虫
その他器物
に分類できました。1と2が一緒に表現されているものもあります。水と風景については、水は流れる様態のもの(川・滝)がほとんどです。観世水のようにデザイン化されたものも多く、この水をベースに他の風景が加わる。それは橋、柳、蛇籠、水車、舟などである。長谷川等伯の宇治橋図に似せた意匠も多くあります。水車は時折「槌車」に形を変えて登場します。
それぞれの意匠については、機会を見つけて細かく解説したいと思います。
似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)
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