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十日町の黒絵羽織はなぜ売れた

さて、こうして誕生した十日町の黒絵羽織です。この地域は縫取りお召と言って、金糸銀糸あるいは 明るい色の糸などを 織物に折り込んでいく技術が大変 進んでいます 。先の原稿で言及されていた「マジョリカお召」もそのひとつです。
その跡を引き継いで、十日町を再度好景気に沸かせたのが黒絵羽織でした。ここでは「なぜ」これだけの需要があったのか?について分析したいと思います。

なぜ黒絵羽織の需要があったのか?

まずはこの時代 結婚に際して 訪問着や 色無地を婚礼支度に入れて持たせることが普通でした。
色無地とは、綸子地などの地紋のある生地を染めた着物です。色はピンク や 薄い朱色などです 。実は派手すぎて、なかなか結婚後は出番がありません。
そうしたものを生かすことが この黒絵羽織販売戦略が成功した理由のひとつであると筆者は考察します。
何という素晴らしいアイディアでしょう!
あとになると、黒絵羽織とやや派手な色無地着物や訪問着のセット、という取り合わせが定着し、それを婚礼支度に入れるようになったと思われます。

PTAルックの誕生

さて、こうして

黒絵羽織 プラス 色無地・訪問着


のセットは、PTAルックとして定着しました。いや社会的承認を得たというのがあったのかもしれません。これは産地とデパートが作った「仕掛け」であり、当時の若い人々が見事にそれに乗ったのです。それをPTAルックと名づけた発想もすごいと思います。
要は、「黒絵羽織さえ買えば、新規に着物を買うことなく、学校の行事に出ていける」ということなのです。まだ自分で着物を着られる人が多かった時代なので、それは簡単なことだったのでしょう。
特に、地方から東京にやってきて、生活を始める・結婚する・子供を持つ、そうした人々にはこの羽織と色無地の組み合わせが大変 新鮮に思えたに違いありません そして このセットは当分の間 定着したのです。

紺がついています。

吉澤氏は、著書の中で当時のいきさつをこのように書いておられます・・・・・・・・・・・・・・・・・・
世の母親の略礼装として、日本中の幼稚園・小学校の入学式を埋め尽くし、マスコミから「PTAルック」 「カラスルック」とまで称されるようになる黒羽織の誕生は、実はこうした「ひょうたんから駒」のような経緯からなのです。 この黒羽織、産地全体のピーク時(昭和四十四年)には何と年問110万枚を超える大ヒット商品となり、20年問にもわたって織られ、累計では1100万枚も生産されたのであります。 ただ、この「黒羽織」という呼称、今ひとつ文化の香りがしないと言いますか、性急につけた硬さゆえのネーミングであったかなと思いますが、逆にこのシンプルさがわかりやすく、全円的なブームを起こす程広がっていったのかなと、今ではひとり納得しておるところであります(笑)。
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着物を一から揃える人々

さて、この十日町織物のターゲットが、すでに着物を持っている人たちであったらどうでしょうか ?
私は京都出身ですが、 昔「 新しく 反物を買おうかな 」などと言うと 母や祖母は「家に今こんなものあるから無理に買わなくていいんじゃない?」ということをしきりに言うのです 。それは吝嗇ということではなく、家にあるものをもっと 着回したいという そうした 考えからきたものだと思います。 古いお宅ですと祖母 曾祖母のものまであるらしく、 それぞれが タンスの中に眠っているようです 。

ところが東京のマーケットは京都や地方の都市 とは全く違うのです。 なぜなら 戦争中に空襲があり 、残念なことに お家にある着物が焼けた方もあります。また 着物をお米に変えるという経験も押されたと聞いています。
こうした場所で今までの生活と違うことをされる そうした方々にとっては 古いものを活用するということはできないのです。また、集団就職などで新規に生活をつくる人々にとっては 一からから揃えるという方法しかないのです。
そうした方々のニーズに上手に答えたのが 十日町の織物であると言えるでしょう。 生活が 簡素になるようにすでにあるものに 足せる、 それで それだけで入学式に卒業式に出ていける 、そうした素晴らしい発明であったのが 黒羽織であるようです 。そして それは多くの人々に受け入れられました。
【参考文献】米寿に寄せて  一を以て之を貫く  一我が人生の想い一
著者 吉澤愼一 発行所 吉澤織物抹式会社
【謝辞】お話を伺いました 吉澤愼一氏に御礼も仕上げます。

似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)
(この原稿の著作権は昭和きもの愛好会に属します。無断転載を禁じます)

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