飛行機内にて「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」というドクターコールがあっても手をあげない医師がいるということについて
ドラマなどでよく見かけるシーンですが、実際よくあることのようです。
深刻な場合、そうでもない場合、ケース別にはいろいろあるようですが、こうしたコールがあっても手をあげないとおっしゃる医師は、少なからずいらっしゃるようです。
考えられる理由は何か?
現役の外科医のお話からご紹介します。
① 診断がつけられない可能性が高く、もし診断がつけられたとしても機内では適切な治療が難しい。
最近では、機内に一定の医療機器・器具類(AEDや心電図モニタ、人工呼吸器や血圧計、聴診器など)のほか、ドクターズキット(注射器や緊急用の注射薬、内服薬など)は搭載しているようですが、当然、専門の医療機器を用いた検査はできません。
もちろん、患者さんの状態、重篤度にもよるとは思いますが、特に自分の専門外の疾患であれば、不安はいっぱいでしょう。病院内であれば他の医師に尋ねたり調べたりもできますが、機内では調べる手段も乏しく、手伝いもおらず、そんな状況では、医師として十分な能力を発揮することはなかなか難しいのかもしれません。
あと、当然航空会社にもよるとは思いますが、機内にここまでの医療機器・器具類が備えられているということは、十分に周知されていないんじゃないかと思います。事前にきちんとわかっていれば、それなりに違うのではないかという気はしますね。
② 訴訟の可能性がある。
アメリカの某航空会社の客室乗務責任者のコメント。「機内で治療を施した場合、万が一ミスがあっても訴訟されることは絶対にありません」とのことでした。アメリカでは「Good Samaritan Law」という法律が適用され、過失にはならないのだそうです。
ただし、日本では、手当ての結果、経過が悪かった場合は、訴訟の可能性があります。
機内で医療対応を行った場合、「その対応は多くの制約下で緊急的に行われた診療であり、その行為に要求される注意義務は軽減される」旨の説明が記載されたドキュメントが渡され、万一、賠償要求があった場合は、原則当該航空会社が賠償金と関連する訴訟の費用を全額負担するのだそうです。
とはいえ、精神的・時間的負担は生じますけどね。
③ ボランティアであり、見返りがない。
こんな例があったそうです。
機内の重症患者の処置のために、数時間のフライトの間、寝ることも食事をとることもできずに患者さんに付き添ったそうです。
その時は外国の航空会社だったため、ささやかな謝礼はあったそうですが、到着しても救急隊が到着するまでは降機できず、書類への情報の記入を要求され、救急車搬送後も付き添わなければならなくなり(そこまで要求されることは、ほとんどないとは思われるそうですが)、その後の自分の予定はすべてキャンセルせざるを得なくなったそうです。
まぁ、手をあげて出ていくときは、本当に覚悟を決めて、お金のことも後の予定のことも考えずに、ということになるかもしれません。なかなか決心がつかなくても別に不思議ではありません。
ちなみに、アメリカの某航空会社の場合、150ドルの割引券がいただけるそうです。
こんな話もありました。
「本当に危ない患者さんが機内にいたら、大半の医師は反射的に手をあげると思います。医師とはそういうものです。呼ばれても行かないと言ってるときは、それほど緊迫した、切迫した状況を経験していないから、とりあえずそう言ってるだけではないでしょうか。」
とある医師は、いままでに2度、ドクターコールを機内で聞いた経験があるそうです。一度目は、他に2名の医師が手をあげたため、行かなかったそうです。まぁ、見える範囲で、だったそうですが、複数いらっしゃるケースもあるんですね。
二度目は、緊迫した様子で、他に医師が申し出なかったこともあり(空席が多いフライトだったそうで)手をあげたそうです。
ドクターを登録するプログラム。
こうした機内対応がスムーズに図られることを期待して、こうしたプログラムも用意されています。
https://www.jal.co.jp/jp/ja/jmb/doctor/
航空会社によっては、登録した顧客(医師)には優遇を与えるような特典も用意されているそうです。
しかし、これに関しても、あえて登録しないという方が多いそうです。やはり「責任」や「リスク」ということが去来するのでしょうね。