妄想癖は悪いことですか。
街を歩く。あなたが隣にいる。という妄想をする。
僕らはいつも手を繋いで歩く。だから今日も、当然のように恋人繋ぎをして歩く。という妄想をする。
店に入る。あなたが好きそうなピアスを見つける。耳にあてて、鏡を見て、あなたはパッと目を見開く。という妄想をする。
中華街を歩く。建物は洋風なのに飾りは中華風なのが面白いね、と言ってみる。あなたは「んね」と返事をする。手を繋いで、まだまだ歩く。という妄想をする。
部屋に帰ってくる。どちらからともなく抱きしめ合う。「ずっとこうしたかった」「うん」あなたの厚みと温みを感じる。あなたの手を背中と腰に感じる。今日も寒かった。という妄想をする。
ごはんを準備する。毎日変わりばえしないのに、あなたはいつもおいしいと言って食べてくれる。塊のまま焼いたひき肉に、じゃがいもと玉ねぎ。たまにサラダ。「いい匂い」とあなたが微笑む。という妄想をする。
隣に座ってくっついて、ごはんを食べる。暖房の効きが悪いから、二人で毛布にくるまる。窓の外には雪がちらつき始めた。それを見て、あなたは急いでじゃがいもを口に放り込む。「早く遊びに行かないと!」、とあなたが毛布を引っ張る。という妄想をする。
雪はやんでしまった。あなたは少し頬を膨らます。「また明日もきっと降るよ」と、何の保証もない言葉でなぐさめてみる。「ポップコーン作って映画観ようよ」「作る!」あなたの目が輝く。「ねぇ、キャラメルしようよ」「あれ時間かかるからヤダ」「えー」、というを妄想をする。
ハウルを観る。やっぱり二人で毛布にくるまる。くてん、とあなたの肩にもたれかかってみる。あなたは僕の腰を抱き寄せる。「あなたのもの」という感じがして、少し嬉しくなるのはここだけの秘密。あなたの左腕は僕のもの。僕の右腕はあなたのもの。互いの半身を交換し合う。という妄想をする。
あなたが少しぐずり出す。僕の太ももを、遠慮なしに枕にする。僕は一生懸命背中を丸めて、あなたのおでこにキスをする。あなたはふにゃりと笑う。僕はこの笑顔が、たまに泣きそうになるくらい好きなんだ。頭をなでているとあなたの呼吸はゆっくり深くなり、やがて寝息を立てはじめた。明日も良い日になりますように。僕はもう一度キスをした。