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【無料】仏教入門ノート06 お釈迦さまのご生涯② 出家前の生活 その1

前回からお釈迦さまのご生涯について、物語風にお話を進めています。

ルンビニーの花園で生まれたシッダールタ王子は、内向的で憂いに沈みがちな青年に育っていました。

王さまは、そんな王子がはたして王族としての役目を果たし、戦争で命のやりとりしていくことが出来るのかと心配になり、大臣たちを集めて相談することにしました。

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釈迦八相③出家(しゅっけ) その1

王さまは宮殿の広間に大臣たちを集めて言いました。
「よくぞ集まってくれた。相談というのも他でもない、王子シッダールタのことなのだ。」

それを聞いて、大臣たちは驚き、顔を見合わせました。
そして、その中の一人が王さまに言いました。

「王さま、おそれながら申し上げます。
シッダールタさまは文武両道に大変秀でておられますし、そのお人柄によって民からの信頼も大変に厚い。
申し分ないお世継ぎのように思われますが、王さまは何を心配しておられるのでしょうか?」

「確かに、シッダールタは優れた王子ではある。しかし、あまりに優しすぎるのだ。
実は、王子が生まれたとき、アシタ仙人の予言があった。
シッダールタは世を統べる王(転輪聖王)となるか、もしくは悟りを開き、仏陀になると……。」

「なんと……。
あのアシタ仙人がそのようなことを……。」

王さまは、シッダールタの普段の優しい様子を大臣たちに聞かせました。
大臣たちはそれを聞いて、動物同士の殺し合いにすら嘆くという王子の優しさに顔を青くしました。

「王さま、たしかに、このままでは優しい王子が仏陀になってしまうかも知れません。
なんとか王位を継いでいただかなければ…」

大臣たちが議論をはじめました。
「快適な住まいを用意すれば、出ていかないんじゃないか?」
「そうだろうか? 今でも十分に快適だろう」
「今よりも快適な住まいを用意するんだ。
寒気・雨季・暑期に一番すごしやすいような王宮を、季節に応じて沢山作れば良いじゃないか」
「なるほど、確かにそれならわざわざ険しい修行に出ていきたくなんてなくなりそうだな。でも一人では寂しいのではないか?」
「王子さまも男だからな。美しい女性をたくさんお付きにしようじゃないか。」
「そりゃ良い!食べ物もこの国で一番おいしいモノを用意しよう!」
「そうだ着るものも、何もかも、一流のものを用意しよう。誰だって、何不自由ない生活をやめてまでボロボロの身なりで動物のように暮らすような修行者になりたいものか。出家さえ防いでしまえば仏陀になるような心配もないし、転輪聖王になるはずだ」
「それなら、いっそのこと早くお世継ぎを設けてもらってはどうかのう? 一番離れがたいのは自分の子ではないか?」
「なるほど! 確かにそうだ。では早く結婚してもらおう!」
「とは言え、相手があることだぞ…」
「たしか、シャカ族の近縁の王族に美しい姫がいると聞いたことがある。あれは誰だったかな……」
「それはたぶんヤショーダラさまのことだ。年頃も丁度良いし大変美しく聡明なお方だ。是非お願いしたい。」
「よし、三つの宮殿と、結婚か、すぐにでも準備をはじめよう!」
大臣たちはそれぞれに家来を使い、足早にシッダールタの出家を防ごうと動き出しました。

・三時の宮殿(さんじのきゅうでん)と結婚

大臣たちの働きによって、あっという間に三つの宮殿が完成しました。
寒気には温い宮殿、雨季には風通しよくジメジメしない宮殿、暑期にはすずしい宮殿。素晴らしい三時の宮殿でした。

宮殿には美しい女性たちが沢山仕え、全てのものが一流品で揃えられていました。

そして、ヤショーダラ姫が大臣たちの説得によって連れてこられました。
最初は嫌々連れて来られたのですが、シッダールタに会った瞬間、ヤショーダラは恋に落ちてしまいました。

大臣たちは、ここぞとばかりに張り切って早急に結婚式の日取りが決めてしまいました。
国をあげての盛大な結婚式が開かれ、あっという間にシッダールタは結婚させられてしまいました。

しかし、シッダールタはその享楽的な生活に満足することはありませんでした。
シッダールタはヤショーダラを大切にしましたが、ヤショーダラは夫の横顔に影があることを感じていました。

享楽的生活に全く興味を持てないシッダールタにとって、完璧にまでに整えられ、美しいものがだけが用意された王宮での生活はまるで牢獄であるかのようでした。

(たとえどんなに素晴らしい物があったとしても、私は満足することができない。
まるで金のクサリで華やかな王宮に縛り付けられているようだ…)
美しい王宮の中でシッダールタは苦悩していたのでした。

・四門出遊(しもんしゅつゆう)

ある日、シッダールタは側近たちと共に王宮の東門から外へ遊びに出ることにしました。
自由になることはできなくとも、せめてもの気晴らしのつもりでした。

東の門から出ると、そこに今まで見たことが無いような皺だらけのやせ細った人が、杖をつき、フラフラと歩いていました。シッダールタは不思議に思い、側近に尋ねました。

「あの者は何者だ。王宮ではあのような者を見たことがないぞ。」
「はい王子さま。あれは老人でございます。王宮では若く美しい者しか働いておりません。しかし、その者たちもいつか必ずあのように年老い、老人になるのです。」
「老人……。では、私もいつかあのようになるのか?」
「……。王子さま。おそれながらその通りでございます。誰もが老いることからは逃げることができません。」
「そうか……。私は、いつまでもこの若々しい肉体を維持できると思っていた。しかし、それはおごりだったのだな。」
シッダールタは憂いに沈み、王宮へと帰っていきました。

またある日、シッダールタは南の門から出ることにしました。
門から出ると、そこには顔色を悪くし、呻きながら汚物を出し、その上でのたうち回っている人がいたのです。
シッダールタは眉をしかめ、また側近に尋ねました。

「あの者は何者だ。王宮ではあのように苦しそうなものは見たことがないぞ。」
「はい王子さま。あれは病人でございます。王宮では健康な者しか働いておりません。王子さまに病がうつっては大変でございますから。」
「病人か……。なんと苦しそうな。私もいつかあのようになるのか?」
「……。王子さま。おそれながらその通りでございます。誰もが病から逃れることはできません。誰しもが病に倒れるのです。」
「そうか……。私は、いつまでも健康であると思っていた。しかし、それはおごりだったのだな。」
シッダールタは憂いに沈み、王宮へと帰っていきました。

またある日、シッダールタは西の門から出ることにしました。
門から出ると、長い行列が見えました。行列の人たちは泣きながら進んでいきます。良く見ると、その行列の先頭の人たちが担いでいる板には人が横たわっています。

シッダールタは側近に尋ねました。

「あの担がれている者は何者だ。そして、この行列は一体なんなのだ。なぜみんな、泣いているのだ。」
「はい王子さま。あの担がれているものは死人でございます。そして、この行列は葬列です。みんなあの死人との別れを悲しみに泣いているのです。王宮には若く健康で美しいものしかおりませんので、死人が出ることは滅多にありません。そして、もし死人が出ても、下々の者の葬列は王宮とは関りのないことでございます。」
「なんということだ……。あれが死人か。では、私もいつか死人になると言うのか?」
「……。王子さま。おそれながらその通りでございます。誰もが死から逃れることはできません。いつか誰しもが命を失い、死んでいくのです。」
「そうか……。私は、この命が永遠であるかのように勘違いしていた。しかし、それはおごりだったのだな。老い、病になり、死んでいく。人間とはなんと悲しい運命を背負っているのだ。」
シッダールタは憂いに沈み、王宮へと帰っていきました。

そして、最後にシッダールタは北の門から外に出ました。
すると、そこには粗末な身なりでありながら、堂々と歩いている人がいました。
王子の一行に会えば、みなが道をあけ、ひれ伏すはずなのに、その人は王子さまであるシッダールタには一瞥もくれず、ただゆっくりと歩んでいきます。

シッダールタは側近に尋ねました。

「あの人は何者だ。粗末な身なりであるのに、まるで王のように堂々としている。」
「はい王子さま。あの者は修行者であります。」
「修行者?」
「そうです。あの者は、老、病、死を解決するために、修行に打ち込み、さとりへの道を歩んでいる者です。私ども世俗の人間とは価値観が全く違いますので、王にひれ伏すこともありません。」
「修行者というのか。では、あの人は老病死を解決するこができるのか?」
「それは私にはわかりません。しかし、解決するために全てを捨てた人なのです。全てを捨てたからこそ、あのように堂々としているのでしょう」
「そうか。そうだったのか。」
シッダールタは今まで通り王宮へと引き返しましたが、その目の奥には輝きが宿っていました。

つづく

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