見出し画像

異常な吐気、そして吐血

この時、母はタクシーの運転手さんに「すみません」と言ったのか、タクシーの運転手さんが「こういうこと、慣れてますから」と言っていたのは耳で覚えている。
タクシーの運転手さんと母のおかげでなんとか部屋に入れた。
私はバタリとうつ伏せ状態で部屋に倒れ込んだ。


タクシー代を支払いタクシーを見送った母は倒れた私のところへ戻り、私のスカートを脱がせ寝間着のズボンに履き替えさせごみ袋と洗面器を持ってきてくれた。

私は這うような体勢でそのごみ袋と洗面器を顔の前で持ち、その後一晩中吐き続けた。

「とりあえず全て吐ききれば楽になるのかもしれない」と思った。

「吐き続けた」と言ってもずっと吐くものがあったわけでもなく、吐くものがあろうがなかろうがとにかく吐気が続いていた。


吐くものは実際の量で言うと少量で、
吐いて少し落ち着いたと思ったらまた吐気が襲ってきて、
今度は吐かずに落ち着いたと思ったらまた吐気が襲ってきて、
今度は唾液程度を吐いて、
という感じで、
吐いて落ち着いたと思ったらまた吐気が襲ってきて、というのを繰り返した。



吐いている時も生理現象は起こるもので、夜中トイレにいきたくなった。

しかし、身体を動かせないので立つことは出来ず、立とうとしては倒れて立とうとしては倒れてという動作を繰り返しながら這うようにトイレに行った。

便座に座るだけでも一苦労だった。

動かせない重い身体をなんとか持ち上げるようにして座った。用を足したら部屋へ戻るわけだが、これもまた這うようにして戻った。

戻ってまた吐き続けた。

吐き続けても一向に楽になることはなかった。

実際吐しゃ物はあまりなかった。



そして最後は血を吐いた。



吐くものがなくなってついに血を吐いたのかと思った。



私は高校生の時に父を亡くしており、
病気がちの父を幼い頃から見てきた私は、血を吐いたら危険という認識があったので、「これは危ない」と思い、
この時心配して様子を見に来てくれた母に声にもならない声で
「きゅう、きゅう、しゃ」
と言った。





倒れてからやっと言えた言葉だった。







後にこの時のことを母に聞くと、母はちょこちょこ私の様子を見に来てはまた部屋に戻りを繰り返していたらしく、私が「きゅう、きゅう、しゃ」と言った時、母は「死ぬんじゃないか」と思ったそうだ。




つづき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?