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健康は当たり前なんかじゃない

隣のベッドの女性と話すようになった。
その女性は私が病院に運ばれた時にいた人ではなく、私が運ばれてきたより後に運ばれてきた人で、階段から落ちて腰の骨を骨折したらしかった。
その女性は私より年上で長い黒髪をサイドポニーテールに結んで眼鏡をかけていた。
きちんとした印象の女性だった。


互いのベッドの仕切りのカーテンを開けてベッドに座った状態でよくお喋りをした。

「健康なときはシャワーを浴びることも面倒臭いと思うことだってあったのに、今は毎日シャワーを浴びたいよね。毎日髪を洗いたいね」なんて話をしていたのを覚えている。

この頃は入院直後に比べると入院生活もマシになってきていた。



ある日、看護師の従姉がお見舞いに来てくれた時、爪切りをお願いした。

爪を切りたくても爪切り作業なんてそんな細かいことが出来るわけもなく、だからといって看護師さんにはなんとなく頼みづらかったので、その従姉に爪切りをお願いした。

看護師の従姉は慣れた手つきで私の爪を切ってくれた。

爪を切ってもらえるとスッキリした。

頭を洗ってもらった時もそうだったが、身体を清潔に出来た時、恐ろしいほど気持ちがいい。

健康なときは思わなかった。

当たり前に出来ていたからだ。

顔を洗ったり、お風呂に入ったり、爪を切ったり、そういうことは当たり前に出来ていた。

でも身体が不自由になって、それらの行為は私にとって当たり前ではなくなった。


当たり前に出来ていたことのすべては「当たり前」なんかじゃなかった。


健康は当たり前じゃなかった。


リハビリが尚更私にそのことを教えてくれた。




つづき


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