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『松本紹圭の方丈庵』のご案内
*松本紹圭のプロフィールはこちら。
ここは、ひじり道を探求する松本紹圭がひらく、無畏施の場。松本紹圭が日々感じたこと、考えたこと、経験したことを、世界のあちこちに散らばるひじり仲間に向けて、語っていきます。
「ひじり」とは
中世時代、「聖(ひじり)」と呼ばれる僧侶が全国を遊行、遍歴していました。
かつて日本で全国を遊行してまわったひじりは、安定した公的な僧侶の立場を捨て、権力や名声を求めることなく、全国各地を行脚しながら人々を救うことに力を尽くした人たちです。空也上人や一遍上人が有名ですね。「ひじり」の語源は、「火」を「しる」から来ているとも言われます。古代、儀式で使う聖なる火を操っていたからかもしれません。
「聖」という漢字で書くと仰々しい感じがしますが、日本大百科全書(五来重)によると、
日本の古代仏教では、官寺・諸大寺に住む僧侶に対して半僧半俗の民間僧侶(沙弥、優婆塞などともいう)を聖とよんだのは、彼らが自らを「ひじり」と称したからである。中世には念仏聖(ねんぶつひじり)や勧進聖(かんじんひじり)、遊行聖(ゆぎょうひじり)として民間仏教の担い手となった
とあるように、中世日本では民間仏教の担い手を「ひじり」と呼んでいました。お寺にとどまることなく市中に分け入り様々な活動をして、その時代の人々の苦悩に寄り添い社会の課題を解決したひじりたちの姿には、私も憧れます。
この世のひじりのみなさまへ
ひじりイコール僧侶とは、限りません。
かつて「ひじり」という存在の中には、僧侶の資格のある人もいれば、ない人もいて、有象無象の人がその役割を担っていました。今まさに迎えた、特定の場や役割に縛られずに動いていく「風の時代」、もはや僧侶の資格の有無など関係なく、あらゆるジャンルの「ひじり=独立先達」が入り乱れる世界になっていくのではないかと思うのです。特定の職業をもたずとも、組織の中にありながら、その場でひじり的な役割を果たす人もいるでしょう。共通するのは、その人は基本的にdoingではなくbeingにおいて価値を発揮し、その人とつながりを持つことによって相手に「正気を取り戻す」きっかけを与えるような役割を果たすこと。
ひじりたちは、みな感性を使って仕事をしながらも、それぞれに特徴ある論理フレームワークを持っていて、時間をかけて磨かれてきた方法論や体系を持ち合わせていることも多いです。それらある種のデータベースに裏付けられた知恵から、相手が「正気を取り戻す」手助けをしているのです。
風の時代、風の民としての「ひじり道」を深めるためには、熊谷晋一郎先生の言う「自立とはたくさんの依存先を持つこと」がより大切になるでしょう。「世界の中にありながら、世界に属さない」感覚を持った人同士が、「Solitude(孤)とSolitude(孤)がSalute(敬意を表)する」ような関係性を作ることで、ひじりは自分自身の正気を保ちながら、周囲に良い影響を与えていく。
この世に生きる「ひじり」のみなさん、ここから、新たな関係性を生み、ともに風の時代をつくり出逢っていきませんか。
◉全文公開記事リンク
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