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BeRealな仏さま

法話 94号 8月・9月 発行「BeRealな仏さま」

西川正晃

 BeRealを皆さんはご存じでしょうか。授業中にそわそわしている学生さんに話を聞くと、BeRealからの通知が来たとのことです。詳しく知らない私は、学生にそれは何なのかを聞いてみると、今大人気のSNSなのだそうです。学生から説明を何度も聞くのですが、なかなか理解できません。自分なりの理解を言葉にすると、「今この場で起こっている風景を、その瞬間に投稿する」アプリです。それなら他のSNSがたくさんあると思う方もおられるでしょう。これまでのSNSと全く違う点は、加工・フィルターなどの写真編集的な機能が一切ないという点なのだと言うことがわかってきました。つまり、SNSでよく聞く「映える」「盛る」画像をアップすることができないということです。また、BeRealは1日1回だけ、こちらが何をしているのかお構いなしの時間に通知が届きます。つまり、24時間いつ通知が来るのかわからないのです。通知が来てから2分以内に写真を撮影し、アップしなければ、それ以降の投稿はできなくなってしまうそうです。短い時間ですので、自分の投稿を良く見せるために編集したり、撮り直しをしたりすることも出来ません。写真は両側のカメラレンズから撮影される仕組みになっているので、外の状況だけでなく、自分の姿も撮影することになるのです。だから撮影するとき、顔を隠す学生が多いのも納得しました。このように、これまでのSNSとは全く違った新感覚を体験できるのです。

 では、なぜ若い世代を中心に爆発的な人気になっているのでしょうか。一つ目は、ありのままの自分をさらけ出すことができることではないでしょうか。人気が高いインスタグラムやTikTokなどは、自分自身を「盛る」ことに心を砕く人が少なくないように感じます。例えば、インスタグラムでは、非日常的な投稿などが人気を集めています。旅行に行ったり、高価な食事をしたりするなど豪華さに溢れています。しかし、実際にはほとんどの人が、そんなことを毎日できるはずがありません。無理をして「盛る」ことをしなくてはなりません。そんな毎日がいやになってきているのかもしれません。二つ目に、評価されないという点です。これまでのSNSは評価が数字として示され、「いいね」の数や閲覧数なども見えるようになっています。しかし、BeRealは、評価されることもなく、数字を気にしないでありのままの自分をさらけ出すことができるのです。どんな自分をアップしても許される世界は、他のSNSではあり得ない感覚なのではないでしょうか。若者に限らず、今私たちはありのままの自分を見失いかけています。他人の評価を気にして、他人が認めてくれる自分自身を演じていくことを無意識のうちにしているのではないでしょうか。

 正信偈というおつとめの中に、「煩悩(ぼんのう)を断ぜずして涅槃(ねはん)を得るなり」(「正信偈」『註釈版聖典』203頁)という箇所があります。仏教では、さとりを得るためには修行などで煩悩を取り除く必要があります。しかし親鸞聖人は、さとりを得るためには煩悩をなくす必要はなく、煩悩を抱えたまま仏さまに救われると私たちにお示しくださっています。日頃の私たちの生活では、「よく見せなければ」という心が、多くのものを「映え」させ、自分にはないものでも「盛って」しまっています。そうしないと生きていけない私たちの苦悩があり、またさらに「映える」「盛る」ための欲望があふれ出し、その欲望に苦しむことになるのです。このように煩悩に常に支配され、それをなくすことのできないのが私たちであります。ありのままの自分でいいと語りかけてくださる仏様の心は、まさに「BeReal」なのです。すなわち「Be the real you.」(ありのままのあなたでいてね)と仏さまは呼びかけてくださっています。若い学生さんたちがBeRealの通知が来たと声に出している様子を見るたびに、悩み苦しんでいる姿を受け入れて「無理しなくていいよ、そのままでいいんだよ」と語りかけている仏さまの心に思いを馳せ、味わわせていただく毎日です。

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