連載/デザインの根っこVol.20_窪田 茂
建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2020年1月号掲載、窪田茂さんの回を公開します。
ファンクミュージックの遊び心と
アートの力強さ
衝撃を受けたものは、言い出したらキリがないくらいたくさんあります。日本に初上陸したティラミスを食べた時は感動して泣きましたし、イタリアンレストランでキッチンのアルバイトをした経験は、今でも飲食店を設計する際に生きていると思います。
20代の中頃、転職の合間などに、時間をつくってはバックパックを背負って海外へ行きました。強く記憶に残っているのが、ヨーロッパを周った後、ヘトヘトになりながら最後に到着したニューヨーク。夜中に着いて、バスで市街地まで向かいながら、窓からぼんやり景色を眺めていると、ハドソン川を越えたあたりから様子が変わってきました。工事している現場の地面から煙が吹き出したり、クラクションやパトカーの音が体の中に響いてくる。映画の中に入ったみたいでとにかくエネルギッシュ。完全に圧倒されて、疲れも忘れてすっかり楽しくなってしまいました。NYは新しいものばかりで、ヨーロッパの後だったこともあり、そのギャップに衝撃を受けました。ビルの高さや街のつくり、人の多さ、売っているものも全部ひっくるめてワクワクした。何回行っても楽しいけど、最初に行った時の記憶は鮮明です。
音楽のような空間は可能か
若い頃から音楽、特にソウルやファンクが死ぬほど好きで、レコードは2000枚ぐらい持っています。地元にあったソウルバーのマスターに色々教えてもらったりして、ボーナスが出ると中古レコード屋に行って買い集めました。レコードには解説書が入っていて、バンドの生い立ちや時代背景が書いてあるんですね。「スラップ奏法の発明者」とか。知らない言葉やアーティストを深掘りするのが楽しくて、気づいたらマーチン・ルーサー・キングを調べていたりしました。背景が分かるとより好きになるものです。
特に好きだったのが、ジョージ・クリントンが率いるP-ファンク系。見た目も変だけど、音楽もかなり不思議でした。宇宙から来たような、音楽なのか分からない音や声でつくる曲はそれまでにはありませんでした。テーマに掲げていたのは「ONE NATION UNDER A GROOVE」。訳すと、「グルーブに乗って世界をひとつに」。黒人だからこそのメッセージですよね。P-ファンクの曲は複雑で、遊びがあって、でも軸が通っている。そんな建築が可能か、考えてみたことはあるのですが、どうも結び付かないんです。私のデザインにどう影響したかは分かりませんが、新しい価値やモノを社会に出していきたいという気持ちの原点はそこにあるのかもしれません。
ONE NATION UNDER A GROOVE/FUNKADELIC(1978)
アートへのジェラシー
あとは、現代アートから影響を受けることも多いですね、特に衝撃的だったのが、NY郊外の美術館ディア・ビーコンで見たリチャード・セラ。巨大で分厚い鉄板が数枚、微妙に曲がりながら、角度を変えて立っていて、間を歩くことができる作品です。傾斜からくる平衡感覚の狂いとか、厚みがつくる威圧感や恐怖に圧倒されました。素材そのもののエネルギーというか、インテリアデザインでは引き出せない素材そのものの強さを感じました。デザインは解決手法で、アートは自己表現なので、そもそも根本的に違うし、それっぽいことはできても僕にはアートはつくれない。ジェラシーを感じているし、だからこそ反対に、デザインにも可能性があるんじゃないかなと思います。
〈談/文責編集部〉
くぼた・しげる/1969年東京生まれ。中央工学校建築設計科卒業後、設計事務所勤務を経て2003年に窪田建築都市研究所設立。18年よりJCD/一般社団法人日本商環境デザイン協会の理事長。最近の仕事に「comma tea 青山表参道店」(19年12月号)や「Galaxy Harajuku」(19年8月号)など。
※内容は商店建築2020年1月号発売当時のものです。
紹介作品一覧
1.NY
2.ONE NATION UNDER A GROOVE/FUNKADELIC(1978)
3.Torqued Ellipses/リチャード・セラ(1997)